岩田
一方で、開発チームにいらっしゃるであろう、
濃いオンラインゲームプレイヤーの方々と、
衝突することはなかったんですか?
齊藤
もちろん、いろんなアイデアが出ましたけど、
10年前にはじめてオンラインゲームを経験したことを
彼らも思い出してくれたと思うんです。
だから、オンラインゲームのはじめの一歩として、
「『ドラゴンクエストX』というのはこの形だよ」
という最終形のイメージを共有できたんだと思います。
藤澤
ただ、「そんなオンラインゲームは聞いたことがない」
という声もやっぱり多くて、
「あのゲームはああしている、このゲームはこうしているのに、
うちはやらなくて大丈夫なのか?」
という従来のもの、見たことのあるものにすがりたくなる気持ちや、
不安の声はしょっちゅう上がりました。
だからそのたびに、
「『ドラゴンクエストX』は新しいことをやるんだ」
「ぜんぜん違う人たちにも遊んでもらえるゲームにしたいんだ」
と、くり返し言いつづけましたね。
岩田
お客さんが未知の世界に入っていくのが怖いように、
つくり手も自分が使ってきたノウハウが使えなくて、
その先に何があるかわからないところに入っていくのは、
やっぱり怖いと思うんですよね。
藤澤
本当にそうですよね。
岩田
ただ、つくり手は怖かろうが何だろうが、
それをやらなきゃ乗り越えられないですから。
藤澤
そうですね。
齊藤
何度もスタッフを集めて意識を共有しあったんです。
大きな会議室を借りて、
開発スタッフを全員招集して、その前で堀井さんから
「こういうゲームにしよう」という話を
していただいたこともありました。
堀井
そうだね。
岩田
実績あるパターンじゃないことをすると、
人は不安になるので、同じことを何回も言うことが、
それを乗り越えるたったひとつの
方法なのかもしれないですね。
藤澤
あとは、
「どれだけ早くイメージを共有できる形にまで、
みんなを到達させられるか」
ということだと思います。
今回はそこに至るまで時間がかかってしまったので。
岩田
みなさんは、いわば暗いトンネルの中を
「この先に必ず光がある」と言って先導していく立場ですけど、
当の本人も本当にこの先に光があるのかわからない状況の中で、
進まなければならないですからね。
藤澤
ええ。進んだ先に光がなかったら僕らも傷つきますが、
何より『ドラゴンクエスト』を
楽しみに待っているお客さんを傷つけてしまうので、
先が見えなくてつらかった時期もありましたね。
堀井
でも、じつは『IX』が道を開けてくれたんですよ。
岩田
それはどういう意味ですか?
藤澤
『IX』以前は“『ドラゴンクエスト』をみんなで遊ぶ”
ということを誰も体験したことがなかったんです。
当然、スタッフもわからないし、自分もわからない。
だからみんなで『ドラゴンクエスト』を遊ぶことが本当に面白いのか、
スタッフに対して、自信のある言葉で言いづらかったんです。
堀井
『ドラゴンクエスト』っていうのは、
コミュニケーションツールという一面も持っています。
『ドラゴンクエスト』をすることによって、
人とコミュニケーションが生まれるからです。
『IX』では実際にみんなでプレイできるようになって、
すれちがい通信もあって、その経験を共有することができた。
その延長が『X』なんだと思うんです。
岩田
『IX』では、現実に、かなりの割合の方が
マルチプレイの経験をされたと思いますからね。
藤澤
ええ。スタッフも『IX』を遊んでみて、
「『ドラゴンクエスト』をみんなで遊ぶって、こういうことなのか」
と共有ができたことが大きかったと思います。
だから『X』にとっての『IX』というのは、
存在意義としてとても大きかったです。
岩田
いまにしてみれば、『IX』から『X』ができたことは
必然のように思えますが、
堀井さんは事前にわかっていたんですか?
堀井
同時期に開発していたので、どうなんでしょうね?
まあ・・・こんなもんかなぁ、みたいな(笑)。
一同
(笑)
藤澤
『X』のプロジェクトがはじまったとき、
僕は『VIII』をやっていまして、
じつはまだ、『IX』は存在していませんでした。
でも『VIII』の制作がおわったころ、
ちょうどDSが世の中に受け入れられていて、
『X』と平行して、DSで
『IX』をつくることになったんです。
堀井
「DSで『IX』をつくろう」
と思ったいちばんの理由は、
「ワイヤレスですぐ人とつながって、
なんの手間もかからずにいっしょにプレイできる」
と思ったからなんです。
当時、なんの手続きもなしにマルチプレイができるのは、
すごいなと思いました。
岩田
「これだったら、お客さんは怖がらずに入っていける、
人とつながることができる」と思われたんですね。
堀井
はい。
岩田
「ケーブルを出してちょっとつながせてくださいね」
という時点で、いまの時代、もう敷居が高いと思われちゃいますからね。
藤澤
そうやって『ドラゴンクエストIX』がはじまって、
その間もずっと平行して『X』をつくっていたんです。
自分が不在の間は、齊藤に『X』を任せていたんですけど、
そこでスタッフが踏ん張ってくれたことが、
いま、ものすごく土台になっています。
齊藤
あの時期があったからこそ、
ベータテスト版がスムーズにできたんです。
岩田
『IX』で多人数プレイの形が見えてきて、
もっと大規模に、もっと深くしていったものが『X』。
とくに今回は、「ソフトを出しておわり」とは、
正反対のゲームづくりですからね。
堀井
でも、“いっしょにつくっていく感”があって、
いいよね。
齊藤
そうですね。
お客さんといっしょに世界を広げていく感じが、
わたしは楽しみでもあります。
堀井
あとからでも変えられる、というのは
これまでになかったことですからね。
いままでは、出せばおしまいだったから。
藤澤
はい。やっぱり最後は、
「エイヤ!」って、自分とプロジェクトを
切り離さなきゃいけないタイミングがくるんですけど、
それはやっぱり勇気が必要な、つらいときだったりもするので、
そのタイミングがないということは
「幸せだな」と思っています。
齊藤
3年後5年後もそれと同じことを言えていたら、
素晴らしいとは思うけど(苦笑)。
藤澤
いまは、そう思うんです(笑)。
岩田
齊藤さんはどうですか?
齊藤
わたしは10年以上前ですけど、一度経験しているので。
もちろん楽しいんですけど、それがいかに大変か・・・。
岩田
ずっとつづけていくことの大変さもありますし、
同じようにキャッチボールしてお客さんから得られる、
ある種のエネルギーみたいなものは、
だんだん最初ほどではなくなっていきますからね。
藤澤
そうです。
お客さんの声がだんだん、きびしくなっていきます。
堀井
まあね、正直言って、
「よくて当たり前」ってところがあるからね。
藤澤
でも、(インタビューを受ける)今日がまさに、
「ベータテスト版のフェーズ3.0」の修正リストを
公開した日だったんですが、
テスターのみなさんがすごく喜んでくれたんです。
このこと自体、いままでのゲーム開発では経験できなかったことで、
「本当にいっしょにつくっているんだ」という感覚があって、
「新鮮だなぁ」と思っています。