岩田
しかし、スタッフのレベルは高いとはいえ、
いままでバラバラの経験をしてきた人が、
ただ『スマブラ』の新作をつくるというためだけに
急に集まったわけですから、
人の意識をそろえるというのは、
とてもエネルギーが必要だったんじゃないですか?
桜井
たぶん、完全にはそろえられてはいないです。
でも、みなさんオトナですし(笑)、
人材募集で集まった人についていえば
『スマブラ』の新作をつくりたいという
明確な意思をもって来てくださっているので、
そういう意味で困ったことはなかったですね。
岩田
「スマブラは作りたくない」と
言い出すような人はいないわけですからね。
桜井
ええ(笑)。
その意味では、合理的ではありました。
岩田
あの、私はね、このやり方が、
どんな商品をつくる場合も使えるとは、
まったく思っていないんですよ。
というか、ふつうの商品であれば、
こんなマネは絶対にしないです。
桜井
なるほど。
岩田
自分がこういうことをしようと思ったのは、
もう、たった一点の根拠しかなくて、
それは、桜井政博という人間に対して
私がもっとも高く評価している部分と
非常に深い関係があるんです。
ひと言でいえば、それは、
「ものがまったくできていないときに
完成イメージが頭の中で
ほぼ完璧にできて動いている」
ということにほかならないんです。
さきほど言いましたように、
桜井くんと私は、昔からHAL研究所で
いっしょに働いてきました。
で、同じプロジェクトに関わっているとき、
まだその商品がまったく形になっていないのに、
彼はものすごく細かいディテールの
指定をしてくるんですね。
その指定があまりにも細かくて具体的なものですから、
正直、プログラムをしているこちらとしては、
「そんなことは動かしてみないと
わからないじゃないか」と思うわけです。
ところが、組み上げて形にしていくと、
そのディテールは、明らかに指定されたように
したほうがいいということがわかるんです。
で、私は彼に訊くわけです。
「本当に最初からこれがわかってたの?」って。
もう、10年以上前の話になりますけど。
すると「はい、わかってました」って言うんです。
そのときは「またまたぁ」って思うんだけど、
それがね、何回も何回も続くと、認めざるをえない。
どうも、彼の頭の中には本当に
商品がディテールまで完成して動いている。
そうじゃないと、そんなことが続くわけがない。
で、いまとなっては、桜井政博という人は、
自分が知っている人間の中でも特別に、
「完成イメージが早くから頭の中にできている人」
だということがわかっているんです。
ということは、そういう人がいるなら、
腕のいい人たちが「これをつくりたい」と思って
集まれば、それはまとまると思ったんです。
もしも、そうじゃない人がまとめているとしたら、
チームとしての信頼関係がないとできっこないんです。
当然、最初は曖昧なイメージから指示が出て、
当たり前のようにやり直しがあって、紆余曲折して、
そのうちに「最初の話と違います」ということになる。
それはべつに悪い例ではなくて、
ゲームをつくるうえでは当たり前のことなんですね。
でも、いままで長く仕事をしてきたという
信頼関係があるから、続けていけるんです。
ですから、ある大規模なゲームをつくるときに、
そのためだけに外からスタッフを集めてつくるなんて、
ふつうではありえない選択です。
けど、私の勝算はそこにあったんです。
桜井
・・・・いや、ええと、あの、
ほめていただいてありがとうございます(笑)。
岩田
いや、単にほめているというよりも、
桜井くんにとんでもないプレッシャーをかける
決断をしたと思ってますが(笑)。
桜井
はい、実際のところは、そうですね。
あの、お客さんにはわかりにくい話だと思うので
ちょっと補足しますけれども、
ものづくりというのは、
はじまりから完成型に至る階段を
ただのぼっていけばいいと思われがちですよね。
でも、実際はそうじゃなくて、
本当にゲームっていうのは、
いろんなところで迷走するというか。
岩田
現実にそれを人がどう感じるかっていうのは、
本当に作ってみなきゃわからないところが
いっぱいあるんですよね。
だから、理屈の上では正しいと思ってつくったら、
じつは「あちゃー」ということが
残念ながら、すごく多いんですね。
少なくとも、自分はそうでした。
桜井
で、自分がイメージした完成型と
100パーセント同じものができるかというと
やはりそんなことは絶対になくて。
入りきらなかったことも当然あります。
岩田
ただ、この前代未聞の開発体制で
『スマブラX』はできたわけですよね。
桜井
(笑)。
岩田
もちろん、そこに至るまでには
たいへんな苦労があったんだと思いますが。
桜井
いやー。そうですねぇ。
岩田
そのあたりを、訊いていきたいと思います。
まず、桜井くん。
新しい『スマブラ』をつくるうえで、
最初に考えたことって、どんなことでしたか?
(続きます)