岩田
対戦の新しい楽しさについても語っておきましょう。
まずは、「最後の切りふだ」ですかね。
桜井
そうですね、対戦の追加要素としては
いちばん大きいところだと思います。
岩田
簡単に説明してもらえますか。
桜井
ひと言でいえば、
「1回だけ使えるとっておきの奥義」です。
試合中に「スマッシュボール」というアイテムが
低い確率で登場するんですが、
それを取ることで、各キャラクターに固有の
「最後の切りふだ」を使うことができます。
過去の『スマブラ』シリーズを遊んだことのある人は
「ハンマー」のものすごく強くて派手なものを
想像してもらえればわかりやすいと思います。
岩田
これまでの話でも何度か触れていますが、
やはり『スマブラ』というのは
ゲームがうまくない人のことが
きちんと考えられているというか、
「強者がつねに勝つわけではない」という
思想のようなものが全体に流れていると思うんです。
たとえば、私と桜井くんが戦ったとしても、
まあ、10回に1回くらいは
私が桜井くんを吹っ飛ばせる、というような。
桜井
いや、もっと多いと思います(笑)。
岩田
あ、そうですか(笑)。
だから、たとえば、ゲームの腕前に差がある
お兄さんと弟がいっしょに遊んだとしても、
両方がきちんと楽しめるんですよね。
それは、ハンディキャップの仕組みとか、
ランダム性によるアクシデントの組み込み方とか、
いろんなところで調整されているんですが、
「最後の切りふだ」は、それの最たるもので。
桜井
そうですね。
一気に試合の流れが変わりますから。
たぶん、スマッシュボールが出てきたら
みんながそれを取り合うことになると思います。
スマッシュボールを取ったあとに
「最後の切りふだ」をくり出すことよりも、
そっちのほうが盛り上がるんじゃないかと。
岩田
ああ、そうですね。
桜井
「これがあれば大逆転できる!」とか
「かっこいい技が決められる!」という気持ちで
ふらふらしているスマッシュボールに
みんながワッと飛びつくというのが
やっぱり、ものすごくおもしろいんですよ。
岩田
目の色が変わる、というやつですね。
また、意地が悪いというか、
スマッシュボールは、ひらひら出てくるから。
取れそうで取れないんですよね(笑)。
桜井
しかも、何回か殴んなきゃいけない。
岩田
そうそう、殴って壊す。
だから、誰のところで壊れるのかというのが
けっこう読めなくておもしろいんですよ。
自分は圧倒的に優位な位置にいたはずなのに、
あとから来た人にさらわれたりして、
悔しい思いをしたり。
桜井
誰かが取ったら取ったで、
今度は逃げなきゃいけませんからね。
さっきまでみんなが集まって取り合ってたのに、
誰かが取った瞬間にワーッと離れていく。
そのあたりのギャップがおもしろいんです。
自分が攻撃する側のときに上がるテンションと
逃げる側に回ったときに上がるテンションが
うまくブレンドできたというか。
岩田
スマッシュボールが出てきた瞬間は、
「それを取り合う遊び」になって、
誰かが取ったら「逃げる遊び」に変わりますからね。
スマッシュボール映像
桜井
そうですね。
ゲームの流れを大きく変えてしまう。
じつは、このギミックは、
一作目の64版のころから考えていたことで。
岩田
ああ、そうですか。
じゃあ、9年越しの企画なんですね。
桜井
構想からいうと、もっと前ですね。
そういうことを言うと「またまたぁ」って
思われるかもしれないんですけど、
いちおう、証拠があるんですよ。
岩田
証拠?
桜井
ええ。じつは、ニンテンドウ64版の『スマブラ』で収録した声を、
そのまま使っているキャラクターがいます。
その声には、最後の切りふだ用の声を収録していて、
今回、それをそのまま使っているんです。
岩田
はぁーーー、こいつは驚いたな。
じゃあ録ってあったんだ、9年前に。
桜井
はい(笑)。
岩田
え、ちょっと待ってください。
そのときって、思えば私も立ち会ってますよ。
桜井
あ、そうでしたっけ。
岩田
いま思い出しましたけど、
その、声優さんに声を吹き込んでもらうときから
桜井くんはまた、ものすごく具体的な
指示を出していたんですよ。
「なんでそんなに具体的に指示できるんだ」って
私は思いながら立ち会ってたんですけど、
やっぱりそのときも完成イメージが
ディテールまでできていたわけですね。
桜井
はい。「最後の切りふだ」という名称こそ
ありませんでしたけど。
岩田
ということは、結果的に、
9年後に実現される仕様のための声を
あのときに録ってたわけですね。
桜井
というか、やむなく9年後になってしまったという。
そのときにいくつかのキャラクターで
「最後の切りふだ」用の声を収録しましたが、
聞いてみるとバッチリですよ。
アクションにぴったり合っていて、9年前に録ったとは思えない。
岩田
まいりました(笑)。
桜井
(笑)。