岩田
先ほど、『Wii Fit』に関して、任天堂が
これほど力を入れる商品になると思っていたかどうかを訊いたところ、
杉山さんは「とんでもない」と答えていましたけど、
どういうタイミングで、このように扱われる商品になると確信しましたか?
杉山
そうですね・・・。
宮本
そもそもこの企画って、スタッフはずっと、
マイナーなプロジェクトだと思っていたんです。
岩田
わたしは『Wii Fit』がそんなプロジェクトだと
思ったことは一度もないんですけど・・・。
いつ、そうじゃないとわかりましたか?
杉山
やっぱりスタッフが増えてからです。
ずっと少人数でやってきましたし、人が増えてから
「もしかしたら・・・?」と思うようになりました。
で、「決してマイナーな商品ではないんだ」と思ったのは、
今年のE3の反応を見たときです。
岩田
E3での反応を見るまでもなく、任天堂としては
宮本さんがステージでこの商品を発表したわけですから、
マイナーじゃない商品に決まってるじゃないですか。
一同
(笑)
杉山
あっ!それは、たしかにそうですね(笑)。
岩田
で、松永さんは、
どのタイミングで認識が変わりましたか?
松永
やっぱりスタッフが増えるまでは、
マイナーな気持ちから抜けきれませんでしたね。
10月の任天堂カンファレンスのときに、ようやく・・・。
岩田
ようやく1ヶ月たったばかりじゃないですか!(笑)
松永
E3での評判はもちろん聞いていたんですけど、
そのときも半信半疑だったんです。
宮本
僕のPRの仕方がヘタだったということやね(笑)。
一同
(笑)
松永
それで、任天堂カンファレンスの準備がはじまって、
「これはひょっとしたら・・・?」と思うようになりました。
岩田
会場には『Wii Fit』の試遊台がたくさん並べられるようだし、
「これは変だぞ、おかしいぞ」って思ったんですね(笑)。
一同
(笑)
岩田
自分たちの置かれてる状況が見えなくなるほど、
つくることに一生懸命だったということですね。
しかも開発の終盤は、宮本さんは『スーパーマリオギャラクシー』と
『Wii Fit』のピークが重なっていましたので、
自分たちのほうを見てくれないという点では、
苦しい時もあったんでしょうね。
松永
『マリオギャラクシー』のツメの作業がはじまったころから、
宮本さんの意見を聞けなくなりました。
だから、とても不安になって、捨てられたように感じていました(笑)。
一同
(笑)
松永
宮本さんの席がある部屋と僕らの開発の部屋は、
ちょうど廊下で仕切られてるんです。
だから、僕らが宮本さんの席まで行くか、
宮本さんに僕らの部屋に来てもらうようにしていたんですけど、
しばらく姿を見ないと、本当に触ってもらえてるのかなって
すごく不安でしたね。
でも、『マリオギャラクシー』の仕事が落ち着いてからは、
逆に「えーーーっ!」って思うくらいに意見をいただきました(笑)。
岩田
人間って勝手なもんですよね(笑)。
ほったらかしにされると不安になるし、かまわれすぎると、
うっとうしく感じちゃうし。
松永
でも、いろんな意見を言ってもらえたので、
最終的にすっきりまとめることができたと思います。
岩田
「宮本さん、これはちょっと言い過ぎですよ」
ということはなかったのですか?
宮本
それ、僕も聞きたい(笑)。
杉山
今回は最後の方での大きなちゃぶ台返しはなかったんです。
どちらかと言うとちゃぶ台の上のおかずが足りないと言う感じでしたけど(笑)。
岩田
でも「有酸素運動」という
新しいちゃぶ台が用意されたわけでしょう。
それで「ひと品足りないなあ」ってことで、
「ジョギング」でおかずを足してもらったりしたわけですね(笑)。
杉山
もともとメニューの画面には、
3×3で9個のスペースがあったんですけど、
その当時は8個しかなかったので、
最初から1個足りないって言われることはわかっていたんです。
わかってはいたんですけど、こっちも仕上げで大変でしたので、
忘れたフリをしていました(笑)。
松永
僕は「8個でもいいです」って言い切っていたんですけど、
宮本さんは許してくれませんでしたね。
それで8月になってから、最後の1個に入れたのが
「ながらジョギング」だったんです。
岩田
本当に直前になって、きれいに収まったんですね。
任天堂カンファレンスのとき、
宮本さんは「健康的な職場になってる」と言ってましたね。
健康的だけど、ちょっと汗くさいって(笑)。
宮本
全員で体を動かしてやってましたので、
夏場はとくに汗くさかったですね(笑)。
杉山
とくにデバッグチーム(※9)の部屋が
すごいことになっていたらしいです(笑)。
夏場に一日中やっていたらどうなるか想像してください・・・(笑)。
一同
(笑)
杉山
でも本当に今回、デバッグチームは
体力も必要だったので大変だったと思います。
その点では、最後まで集中してやってくれてすごく感謝しています。
※9
デバッグチーム=繰り返しゲームをプレイして、プログラム上の間違いを探し出すチームのこと。
岩田
本当にお疲れ様でした。
それでは最後にメッセージをひと言ずつお願いします。
杉山
まず一度は触ってほしいですね。
いや、触るではなくって、乗ってほしいです(笑)。
一度バランスWiiボードに乗ってみると、
見た目とはまったく違う、新しい感覚が体験できると思います。
岩田
「まずは乗ってください」って、
家庭用ゲームでめったに言えない言葉ですよね(笑)。
松永
毎日スイッチを入れたくなるようにと、
インターフェイスに関しては、宮本さんと相談しながら
かなり時間と労力をかけて練り込みました。
ですから、毎日使えば使うほど、愛情がわいてくると思いますので
ぜひやってみてください。
岩田
途中バージョンを毎日使ってみたわたしとしては、
自分の体への新しい発見がたくさんありました。
そもそも、バランスWiiボードって、紛れもなく体重計ですが、
その一方で、体重計じゃないところがあります。
そのような不思議な商品を、今回つくったわけですけど、
一時は、開発チームが崩壊寸前になりながらも、
道なき道を切りひらき、このような新しいものを
どうしてつくることできたと思いますか?
杉山
もちろん1人の努力だけでは、
このような商品は生まれなかったでしょうね。
いろんな人たちの意見が全部入って、
最終的に『Wii Fit』という商品になったんだと思います。
松永
宮本さんも含めてなんですけど、
まわりにマジメに相談に乗ってくれる人が多かったんです。
僕がすごく悩んでいるときに、まわりの人に助けを求めたら、
「こうしたらいいんじゃない?」って、
たくさんのアドバイスをしてくれましたし。
岩田
そのとき、まわりの人たちが相談に乗ってくれなかったら、
『Wii Fit』は生まれなかったかもしれないと。
松永
本当にそう思っています。
体重計のメーカーさんに話を聞きに行ったときは、話が食い違って・・・。
岩田
普段から娯楽についてお考えではないから、
話がかみ合わなかったんですね(笑)。
仕事仲間って、本当にありがたい存在ですね。
宮本
今回の『Wii Fit』チームは、混成チームのようなものなんです。
デザインやサウンドのスタッフは、
『トワイライトプリンセス』から来ています。そんな人たちが、
勝手のまったく違うソフトを真剣につくってくれるんだろうかって、
最初は不安なところもあったんですけど、
それは杞憂でした。みんな、本当に真剣にやってくれました。
岩田
「こんなものをつくるために、
オレは任天堂に入ったんじゃない」って誰も言わないですからね。
宮本
見た目はシンプルなゲームだから、
新人のデザイナーでもできそうだとか言わずに、
こういうソフトだからこそ、
『トワイライトプリンセス』などを経験してきた人たちが
チームに入らないとできないと判断したんです。
だから、かなり経験豊富なメンバーが入っていて、
皆が協力的に仕上げてくれたのは本当にありがたいと思ってます。
岩田
それでは次回は、
『ゼルダ』チームから『Wii Fit』に関わったスタッフを含めて
現場のスタッフから話を訊いてみることにしましょう。