岩田
第3回目の今回は、
『Wii Fit』のソフト制作を担当したお2人から
話を訊いてみることにします。
まず、今作ではどんな仕事をしていたのか、
それぞれ自己紹介をお願いします。
杉山
情報開発本部制作部の杉山です。
今作ではプロデューサーを担当しました。
これまでは『マリオカート』シリーズなどに関わることが多かったので、
今回はかなり勝手の違った仕事になりました(笑)。
岩田
ちなみに、杉山さんとわたしは、
ファミコン時代からのおつきあいです。
わたしが初めてファミコンのプログラムを書いたときに、
杉山さんはドット絵を描いてくれたんですね。
タイトルはナイショですけど(笑)。
松永
同じく情報開発本部制作部の松永です。
『Wii Fit』ではチーフディレクターを担当しました。
これまではデザイナーとして
絵を描く仕事が多かったんですけど、
今回は初めて制作全体のとりまとめをしました。
この仕事に入る前は、『スーパーマリオ64DS』(※1)に関わり、
マリオのアニメーションなどをつくっていました。
※1
『スーパーマリオ64DS』=ニンテンドーDSと同時に発売された3Dアクションゲーム。2004年12月発売。
岩田
さて、『Wii Fit』というソフトをつくるにあたって、
最初にこの企画を聞いたとき、途方に暮れたんじゃないかと思います。
いきなり「毎日体重を量ることをゲームにしたい」と
宮本さんからお題を出されたとき、どう思いましたか?
杉山
もともとWiiの立ち上げ時に、
宮本さんには「パック構想」というアイデアがありまして、
その中に「スポーツパック」、「パーティパック」、
そして「ヘルスパック」がありました。
それぞれ、「スポーツパック」は『Wii Sports』に、
「パーティパック」は『はじめてのWii』に、
「ヘルスパック」は『Wii Fit』になりました。
「ヘルスパック」に関しては、1日1回、
Wiiの電源をつけたくなるように、
体重計を使ってみようという話だったんです。
それを聞いたときは、ちょっとおもしろいかなって、
気楽な気持ちで考えていたんですけど、
実際に開発がはじまってみると、
とんでもないことに巻き込まれてしまったと思いました(笑)。
岩田
『マリオカート』のようなソフトだと、
それが、任天堂が力を入れて販売する商品になるということは、
はじめからわかりきったことですよね。
でも、『Wii Fit』をつくりはじめたとき、
これが、そのような商品のひとつになると
想像することができましたか?
杉山
とんでもないです(笑)。全く想像できませんでした。
まず、体重計を使う場所から考えはじめたわけですから。
岩田
体重計って普通、お風呂場に置かれるものですよね(笑)。
杉山
ですから、体重計をどうやってリビングに
持っていってもらえるようにするかという、
とても根本のところから考えはじめました。
たとえばUSBメモリ(※2)を使うとか・・・。
岩田
なるほど、お風呂場で体重を量って、データをUSBメモリに移し、
それをテレビのそばのWiiに持って行くようにすると・・・。
ハッキリ言って、ダメな企画ですね(笑)。
一同
(笑)
※2
USBメモリ=パソコンなどのデータを手軽にやりとりできる、持ち運び可能なフラッシュメモリのこと。
杉山
初期のころは本当に悶々としていて、
体重計を使うことが前提だと、想像以上に制限が多く、
まったくいい企画が出なかったんです。
岩田
松永さんは、杉山さんと同時期に、
「体重計のソフトをつくるぞ」と言われたんですか?
松永
僕は、杉山さんよりも先に、 宮本さんから「健康」のお題を与えられていて、
DSで健康系ソフトの実験をやっていました。
岩田
松永さんのほうが、 「健康」に関しては長く悩んでいたわけですね(笑)。
『マリオ64DS』をつくり終えて、やれやれと思ってるところに
「次は健康がテーマだ」って言われて、
「はぁ?」って思いませんでしたか?
松永
やっぱり最初は途方に暮れました(笑)。
とりあえず、「健康」に関する本を買ってきたり、
ネットなどで資料をかき集めるところからはじめたんですけど、
「さて、どうしたものか・・・」と思いました。
まさに、手のつけようがないというのは、このことかと(笑)。
岩田
本を読んで、どんなテーマに引っかかりましたか?
松永
ダイエットにテーマを絞れるかなと思いました。
そこでダイエット関係の本をひと通り集めてみたんですけど、
いろんな種類があるんです。
体を動かしてやせるダイエットがあれば、
食事を制限するダイエットもありますし、
お客さんがとっかかりやすいダイエットはどれだろうと考えて、
僕は、食事のほうからアプローチしてみることにしました。
毎日食事でとった摂取カロリーを、
DSで簡単に記録できるようになれば便利になるだろうと。
岩田
例えば、お昼にラーメンを食べたから何カロリーというのを
DSにためていくようにしたんですね。
松永
さらに、体重データも入力できるようにして、
体重が増えたのは、これを食べたせいだということが
自分で判断できるようにして、
それをダイエットにつなげられればと考えました。
岩田
これはわたしの体験談なんですけど、
途中バージョンの『Wii Fit』で毎日体重をチェックするようにしていて、
1週間かけて体重が少しずつ減っていったことがあったんです。
ところが、日曜日に外食をして、
翌朝、体重を量ってみたら愕然としてしまったんです(笑)。
わずか1回の食事で、1週間の努力が台無しになることもあるんですよね。
松永さんは、体重が増えたり減ったりすることの理由が、
ちゃんとわかるようになればおもしろいと思ったんですね。
そのとき、宮本さんから「体重を毎日量るのはおもしろい」
という話を聞かされていたんですか?
松永
その話は、僕がある程度DSで試行錯誤してから聞かされました。
宮本さんから最初に与えられたお題は、
DSで、食べたものを簡単に入力できるソフトを開発してほしい、
ということでした。そこで試作品をつくってみたんですけど・・・。
岩田
宮本さんからは何と言われましたか?
松永
ボロクソに言われました(笑)。
一同
(笑)
岩田
宮本さんって、ダメな企画には本当にキビシイですもんね(笑)。
そのあとの転機はどうやって訪れるんですか?
松永
体重計のテーマを出されたときです。
そこからDSではなくWiiで本格的にやろうということになりました。
岩田
それで、プロデューサーの杉山さんと一緒になるわけですね。
杉山
そうですね。当時は、本当に手探りの状態で、
ハッキリ言って、モノになるのかどうかもわかりませんでした。
とりあえず、いろんな体重計を買ってきたり、
体重計のメーカーさんに話を聞きにいったりしたのですが・・・。
岩田
体重計のメーカーさんに行って
どのような話をしてきたのですか?
杉山
体重計って、ほとんどの家庭に普及しているんじゃないかと
思っていたので、実際はどうなのかなと思ったんですが、
体脂肪計のようなものはコンスタントに売れているようなんです。
そこで、メーカーさんからは、
体脂肪計の仕組みについて聞いたりしまして、
体重計には本当にくわしくなりました(笑)。
岩田
そもそも、任天堂の中でゲームをつくるときって、
外部の会社に相談に行くことってほとんどありませんよね。
『マリオ』をつくるときに、「どうしたらおもしろくなりますか?」なんて、
ほかの会社の人に、相談しないですから(笑)。
だから、体重計メーカーさんに行くことになったとき、
抵抗感もあったんじゃないですか?
杉山
その気持ちは当然ありました(笑)。
まったく畑違いの分野ですし、
僕たちには営業の経験もありませんでしたし。
松永
実は僕、社用車を運転したこともなかったんです(笑)。
一同
(笑)
松永
しかも、会ってくださったメーカーの方も、
こちらがどんな意図で来ているのかわからなかったみたいで・・・。
岩田
「ゲームメーカーの人が、
体重計メーカーに何の用?」って感じですね(笑)。
松永
はい(笑)。体重計がテーマで、
それをテレビにつなぎたいという説明をしたんですが
なかなか意図が伝わらなくって・・・。
岩田
メーカーさんからすると、体重計に画面がついてるのに、
わざわざテレビに映す必要がないと思うのは当然ですよね。
前回登場した澤野さんは、「中国の工場を紹介しますよ」って
言われたという話をしてましたが(笑)。
杉山
まさにそんな感じでした(笑)。
体重計のメーカーさんにとって、メインの商品は体脂肪計なんです。
だから、わたしたちの提案は、しっかりと聞いておられましたが、
興味をもってもらえなかったのかも知れません。