岩田
大変長らくお待たせしました。
任天堂側のスタッフ、服部さんと松下さんは
どのタイミングで今回の開発に加わったんですか?
山上
まず服部さんは、僕はすごく意外だったんですけど、
今回の『罪と罰』の企画書をトレジャーさんからいただいたとき、
それを見て「わたしはこれをやりたい」と自ら立候補したんです。
中川
ええーっ!
前川
そうだったんですか!? それは初耳です。
山上
ハッキリ言って、
服部さんが自らやりたいと言うのは思いもしなかったので。
岩田
・・・わたしもちょっと衝撃です。
一同
(笑)
岩田
服部さんは、前回の「社長が訊く」では
『ガールズモード』(※12)
で登場いただいてますから、
すごいダイナミックレンジですね(笑)。
服部
(笑)
※12
『ガールズモード』=『わがままファッション ガールズモード』。ニンテンドーDS用ソフトとして、2008年10月に発売された、わがままコーディネートゲーム。
岩田
本当に言ったんですね?
「関わらせてほしい」と。
服部
そうです。自分から言いました。
たぶん入社して初めて、自分から
「コレやりたいです」と言ったと思います。
山上
たぶん服部さんは、『罪と罰』の世界観に
めちゃくちゃ興味があったんだと思うんです。
岩田
なるほど。
もともと服部さんは前作を遊んでいたんですか?
服部
NINTENDO64のときは難しすぎて、
実はできなかったんです。
中川
・・・(つらそうな表情に)。
岩田
(笑)。
「これができないヤツは、うちのチーム員じゃない」
と言われるような人だったんですね(笑)。
服部
そうなんです(笑)。
でも、パッケージだったり世界観だったりとか、
まわりの人からも話を聞いたりして
すごく魅力を感じてたんです。
ただ、自分ではちょっと入れなくて・・・。
でも、こんなに魅力的なのに、
すごく悔しかったんです。
岩田
なるほど。
魅力的とか言われると、
やっぱりうれしいですか、鈴木さん。
鈴木
女性から言われると(笑)。
服部
うふふ(笑)。
なので、そのような悔しさと同時に
「もったいない」という思いもすごくありまして。
そこで、「浅くする」ということではないんですけど、
入り口を入りやすくすることはできるんじゃないかと。
岩田
深さはそのままに、入口を入りやすくして、
一見さんお断りじゃなくしたいと。
服部
そうです。おそらくそれは
『ガールズモード』も同じなんです。
あのゲームもすごく深いんですけど・・・。
岩田
服部さんがチームに加わったあと、
終盤の調整段階で
取っつきやすくなりましたよね。
服部
はい。その同じような感覚を
『罪と罰』にもぜひ応用したいと思いました。
岩田
なるほど。
松下さんの関わりはどうだったんですか?
松下
実は僕はもともと担当じゃなかったんです。
ただ、ある程度カタチになったものがあがってきたときに
触らせてもらってはいたんです。
で、トレジャーさんに感想を伝えに行くとき、
たまたま僕も東京にいまして・・・。
山上
「おいで」と言ったんだよね。
松下
それでいっしょに行ったら
山上さんから「担当です」と紹介されて、
いろいろお話してたら、
ほんとうに担当に決まってしまったんです(笑)。
一同
(笑)
前川
いや、でも助かりました。
松下さんはアクションシューティング系のゲームにも
かなり詳しいので、
そういう人に見てもらえて本当に助かりました。
山上
松下さんは究極に近いところまでプレイできますし、
入口の部分は服部さんが見てくれるので、
その意味でいいバランスになったと思います。
岩田
服部さん、入口のところでは
どんなやりとりがあったんですか?
服部
チュートリアルをしっかりつくるとか、
初心者の方でもちゃんと遊べる難易度にするとか、
基本的な部分をまず押さえていきました。
ただ、開発に関わっていくにつれて、
気軽に難易度を下げちゃいけないと思うようになったんです。
岩田
それを気軽にやってしまうと
このゲームが台無しになると思ったんですね。
服部
はい。それに前作のファンの方だったり、
トレジャーさんのファンの方がたくさんいらっしゃって、
その方たちがあってこそのゲーム、という部分を
絶対に揺るがしてはいけないと思いました。
岩田
そもそもシューティングというゲームは
一時期はビデオゲームの王道として
すごくたくさんのお客さんが遊んでいたんですけど、
たくさんの人が落ちこぼれてしまったというか、
遊ぶ人が減ってしまった典型的なジャンルなんですよね。
服部
はい。
岩田
かつてシューテイングゲームを楽しんでおられたたくさんの人が
今はほとんどやらなくなってしまっているんですが、
でも、「実はあれ、気持ちよくて好きなんだよね」、
という想いをお持ちの人は少なからずいらっしゃるので、
その人たちが入りにくくならないようにだけは
したかったということでしょうか。
服部
そうです。
そういった方たちが楽しくプレイできればいいと。
あとは、納得ができないだったりとか、
よくわからないままやられちゃうとか、
そういうことだけは避けなきゃいけなくて。
ある意味、覚えて遊ぶ、覚えて上達していくことが
気持ちいいタイプのゲームだと思うんですけど、
でも、どうしてやられたのかもわからないままに
進んでいったりとか、
気持ち悪さの部分を解消するというところを中心に
お話をしました。
岩田
中川さんは今回、
任天堂からこういった話が来たとき、
どういうふうに聞こえていたんですか?
中川
僕は前作のとき、すごく苦労しましたので、
難易度に関しては「このへんがほどよいな」ということは
たっぷり勉強させていただいてました。
岩田
山上さんとたっぷりやりとりしたからですか。
中川
はい。ただ今回も開発スタッフにコアゲーマーが多いので、
みんなWiiリモコンではなく、
普段慣れているゲームキューブのコントローラを
中心に開発していたんです。
岩田
はい。
中川
それで好きにつくってるんですよ、
すんげー難しいやつを。
岩田
トレジャーさんらしく(笑)。
中川
僕はそれを横目で見ながら
「これはあとから直してくださいと言われるよなあ」と・・・。
そう思いながらも、僕が「直せ」と言うと角が立つんで、
任天堂さんが言ってくれるのを待ってたんです。
岩田
自分が言うと角が立つので
言われるのを期待して待っていたんですか(笑)。
中川
はい。そしたら、逆のことを言われてしまって・・・。
岩田
はい?
中川
「カンタンすぎる」と・・・。
「なんですかこれは」と。
一同
(笑)
中川
「敵をすぐに全滅できます」と言うので
「ええーっ、すごく難しいはずですけど?」と答えたら
「こんなにカンタンだとファンは納得しません」と、
そんなことまで言われまして・・・。
岩田
任天堂からトレジャーさんに
そんなことまで言ったんですか・・・。
中川
で、話を聞いてみると、
Wiiリモコンだと狙いやすいので
敵を全滅できるんです。
岩田
ああ、なるほど。
山上
そもそもWiiリモコンは
シューティングに向いたコントローラですから。
岩田
だからカンタンに敵を倒せるんですね。
でも、こともあろうにトレジャーさんに
「もっと難しく」と言ったんですか(笑)。
松下
はい。開発の終盤になって
「もっと難しくしてください」という話をしました。
服部
「わたしごときが、やられずにクリアできてどうするんですか?」
みたいなことも言いましたし(笑)。
岩田
へえ〜、それはちょっと衝撃の事実(笑)。
松下
前作は右の敵と左の敵は同時に狙えなかったんです。
でもWiiリモコンだと、右を撃ってすぐに左も撃てるので
画面上の敵をほぼ同時に狙えちゃうんですね。
だから、コントローラに合わせた調整を
どうしてもやる必要がありまして・・・。
岩田
でも、難易度のバランスを調整するのは
カンタンなことではないですよね。
Wiiリモコンで遊びたい人もいれば
ゲームキューブのコントローラで遊びたい人もいて、
さらにクラシックコントローラにも対応してますし。
山上
結果的には、場所場所によって、
Wiiリモコンが有利な箇所や、
ときにはゲームキューブのコントローラや
クラシックコントローラが有利な場所をつくりました。
だから、トータルでやってみると、
どのコントローラで遊んでも変わらず楽しいんです。
ただ、場所場所で、ここはWiiリモコンでとか
コントローラを細かく変えてプレイすれば、
どれも有利ということになるかもしれませんが。
岩田
まあ、そんなことをしても面白くないですよね(笑)。
でも、けっこういまの話は驚きました。
任天堂がトレジャーさんに「もっと難しく」と言ったというのは。
これは「社長が訊く」をやらなければ
わたしも絶対に知らないままだったと思います。
一同
(笑)