実は、わりと早い時期から
山上さんとわたしの間では
「『罪と罰』をＷｉｉでつくらないの？」
という話をしていたんです。

え、そうなんですか！？

そうなんですよ（笑）。

わたしは今作の企画書を提出させてもらってから、
わずか３日で返事が来たので驚いたんです。
結果が出るまで、数ヵ月待たされることもあるので、
この２人には「ゆっくりしてていいよ」
と言ってたくらいですから。

（うなずく）

僕としては、前川さんから企画書をいただいたとき、
すごくうれしかったんですよ。
ところが、岩田さんと打ち合わせをするのが
企画書が届いてから３日後でしたので・・・。

届いた日に山上さんと会えていれば、
わたしは即日で決めていました。

ええーっ！

（笑）

だから３日後に
僕は喜び勇んで岩田さんのところに持っていって、
「来ましたっ！」「やろう！」という感じで決まったんです。

そうだったんですか。

わたしたちの間では、そんな感じで決まったんですけど、
トレジャーさんのなかではどうして
Ｗｉｉ版の『罪と罰』をやろうということになったのですか？

先ほど少し言いかけましたけど・・・。

Ｗｉｉリモコンがキッカケという話ですね。

もともとこのゲームに出てくる武器は
ガンソードという、いわゆる銃剣なんです。
ですから、斬って撃つのが基本操作です。
その操作がＷｉｉリモコンに
すごく向いてると思ったのがキッカケです。
Ｗｉｉリモコンで照準ができるし、
ヌンチャクでプレイヤーの操作もできる・・・。
そこで「これを使って、『罪と罰』をつくろうよ」と
この２人をけしかけたんです。

で、けしかけられた中川さんは
どう思ったんですか？

先ほども話しましたけど
ＮＩＮＴＥＮＤＯ６４のときの苦労が蘇ってきまして・・・。

トラウマになっていたんですね。

・・・（黙ってうなずく）。

（笑）。
すぐにエンジン全開には、とうていなれないですよね。

無理でした。

前川さん、そんな中川さんをどうやって説得したんですか？

もともと「やりたい」とは言ってたんです。

やりたいけど・・・。

「やりたくない」とは決して言わなかったんです。

・・・（静かにうなずく）。

それで「やろうよ」と言ったら、
「やりたいですね。でも大変だからちょっと待って・・・」
という感じだったので・・・。

決意するのにちょっと時間がかかったんですね。
鈴木さんはこの話が来てどう思いましたか？

実はそのとき、
ゲーム制作からしばらく離れていました。
開発体制の変化や、
新作やオリジナルを作るのが難しくなってましたので。
「もうゲームはつくらなくてもいいかな」くらいに
思っていました。

はい。

イラストや漫画の仕事もしてますし。
ただ、中川さんがディレクターをやるというので
それだったらやってもいいなと思ったんです。

それはどうしてなんですか？

中川さんは技術も確かですが労を惜しまず、
何があっても最後まで投げ出さない人なので。

最後までやり遂げる男。

・・・（首を横に振る）。

（笑）

鈴木さんに関しては
僕から「鈴木さんをぜひ」とお願いしました。
すでに退社されてる話はお聞きしてたんですけど、
やっぱり前作のテイストを出したいと思いましたので。

デザイナーが変わると、テイストが変わるので
違うゲームになっちゃうんですよね。
そこは絶対にはずせなかったですね、やっぱり。

鈴木さんも無事スタッフに加わることになって
最初はどんな感じで開発がはじまったんですか？

鈴木さんに「何でもいいから描いてよ」と。

え？ 「何でもいいから描いてよ」と頼むんですか？

そのパターン、うちの会社では多いです。

多いです。

（うんうんとうなずく）

ものすごく。

（笑）。
ふつう、ディレクターというのは
そういう頼み方じゃないほうが多いと思うんですよね。
だけど、それで世界が破綻せずにできていくというのは、
面白い関係ですね。

そもそも仕様書をキッチリ書いて
そのとおりに開発を進めていく方法も正しいと思うんです。
そのやり方であれば、間違いなくモノがあがってきますから。
でも、そのやり方だと、仕様書以上のものには
なかなかならないですよね。

なるほど。

とくに、アクションやシューティングのように
リアルタイムで動くゲームの場合、
“動かしてナンボ”というところがありますので、
まずは動かしてから実際に触って
それを修正していくという繰り返しで
どんどんよくなっていくゲームだと思うんです。

あの・・・というより、
いまは長いつきあいになりましたけど、
仕事をいっしょにはじめた頃は具体的に絵を頼んでいたんです。
けど・・・。

けど？

僕が何を言っても
まったく違う絵が返ってくるんです。

（笑）

だから具体的に言ってもしょうがないということですか？（笑）

（うなずく）

自分としては
ひとひねりして返そうとしていたんです。

でも、たぶん・・・
それはこっちもいっしょだと思うんです。
「こういうモデルをつくりましたから、
かっこよく動かしてくださいよ」と言われても、
プログラマーとしては好き勝手に動かしたりしてますから。

それで、頼んでもいない動きを見るのも
また楽しみだったりするんですね。

つまりそれは、
デザイナーとプログラマーの双方が
アドリブをきかせ合いながら、
「そうきたか。じゃあオレはこうだ」みたいな。

そうそう。

そうそう。

なんかジャズセッションみたいですね。
それがトレジャー式ものづくりなんでしょうか、前川さん。

まさしくそうだと思います。
なので、それぞれの立場で自主的に動いてもらわないと
前に進めないんですよ、うちの会社は。

だから「できるまで待ってよ」と
言われちゃうんですよね。

（笑）