岩田
では、このように長い間、
『スーパーマリオ』が、ビデオゲームのなかで、
主役のひとりであり続けられた理由は何だと思いますか?
江口
難しい質問ですけど、
僕は、信頼感の積み重ねではないかなと思います。
子どもの頃に『スーパーマリオ』を遊んだ人たちが
親の世代になってきて、お子さんから
「今度の新しい『マリオ』を買ってほしい」と言われても、
抵抗なく買っていただけるものになってきていると思うんです。
それはたぶん、買ってくださるお客さんのなかに、
“いつ買っても安心”という気持ちが
あるのではないかと思うんです。
紺野
そうですね。25年という長い歴史のなかで、
「子どもの頃に夢中になって遊んだよなあ」とか、
「懐かしいなあ」という気持ちは
それぞれ各時代に遊んだお客さんのなかにあると思いますね。
ですから、当時のファミコン世代の方が、
Wiiの『Newスーパーマリオ』を買ってきて、
「子どもといっしょに遊びました」という声を聞くことも多いです。
江口
しかも、いつも同じものではなくて、
さっきも話に出たように、その時々で
変えよう、変えようとしてきましたし。
岩田
その時代、その時代でけっこう違うものですからね。
江口
だから、昔遊んだ人が
新しく発売されたソフトを買っても、
また新鮮な楽しさや驚きがあって、
それが新たな信頼の積み重ねになっているのかなと思います。
でもその一方で、初代の『マリオ』をいまの子どもが遊んでも
きっと面白いはずなんです。
岩田
確かに、いまのお子さんも昔の『マリオ』を遊べますし、
ファミコン世代の方が久しぶりに新しい『マリオ』を遊んでも、
すぐに遊べてしまうところがありますよね。
先日の社長が訊く『スーパーマリオコレクション スペシャルパック』のときに、
杉山さんから訊いた話なんですけど、
押し入れから、久しぶりに『マリオコレクション』を取り出して遊んだら
「指が覚えていた」と話されていました。
小泉
僕が思うに、それは自転車と同じだと思うんです。
小さい頃に何回か転びながらも、自転車に乗れるようになると、
しばらく乗らなくなっても、いつでも乗れちゃいますよね。
それと似たようなところが『マリオ』のゲームにはあって、
それは10年経っても、25年経っても
乗れるような設計になっているからなんだろうと思うんです。
岩田
なるほど、面白いたとえですね。
小泉
たとえば、車輪が突然3つに増えたとしても、
自転車ならペダルをこげば前に進むようになっています。
岩田
最新の変速機が付いたとしても・・・。
小泉
すごくスピードが出る自転車でも、古くて背が低い自転車でも、
ペダルをこげば、必ず前には進むもんだと体が覚えてるんです。
岩田
『マリオ』の場合、Aボタンを押せば
ジャンプするというのは、ずっと変わっていませんからね。
小泉
ですから、絶対に変わらないところがあって、
それはさっきのゴールポールの話もそうですし、
いつの時代につくられた『マリオ』も指が覚えている、
基本的な原理が変わらないようにつくられているからこそ、
「今回も同じように遊べた」と
感じていただけるのではないかと思います。
それで、ロードレーサーのような本格的な自転車に乗りたいような人は、
3Dマリオを手にとっていただいて、実際に遊んでみると、
やっぱりそれも、ゴールに向かって前に進んでいくように
仕上がっているわけです。
岩田
最近の『マリオ』しか遊んだことのない若い人でも、
いきなり初代の『マリオ』をスッと遊べるようなところがあって、
それを、いまの小泉さんの“自転車理論”で考えると
けっこう説得力がありますね。ありがとうございました。
さて最後に、これからの『マリオ』に対して、
みなさんはどのようなことで関わっていくのか、
あるいはどのような『マリオ』であってほしいのか、
そんな話を訊いて終わりましょうか。
最初は木村さんからお願いします。
木村
はい。まだしばらくは、
マリオとわたしの関係は続くと思いますので、
宮本さん、手塚さん、紺野さんら先輩方が
大事につくってきた流れを、伸ばせるだけ、伸ばしていきたいと、
そんな想いで『マリオ』に関わっていきたいと思います。
紺野
わたしは、『マリオ』というブランドを、
ひとりでも多くの人に手にとっていただくために、
たとえば(※25)のように
各キャラクターの新しい魅力を広げたり、
体験していただけるようなときには
マリオに絡めたり、ルイージに絡めたりしながら、
いろんなジャンルのゲームを制作していきたいと思っています。
※25
『ルイージマンション』=ゲームキューブと同時発売のアクションアドベンチャーゲーム。2001年9月発売。
江口
任天堂はこれからもずっと、『マリオ』シリーズを出していくと思いますけど、
先ほども話に出たように、『マリオ』の何が変わらなくて、
何を変えてもいいのかを、つくる人たちがちゃんと理解して、
その上で、すべてをわかった気にはならずに、みんなで
「ここが違うんじゃないか」とか、「ここはこうしたほうがいい」とか、
いろいろと話し合いながらつくっていくこと、それが
お客さんの信頼につながっていくんじゃないかと思います。
それは『マリオ』に限らず、どんなソフトもそうですが、
大切な部分はちゃんと受け継いでいきながら、
新しいものを加えていきたいと思います。
小泉
僕はこれまでずっと3Dマリオをつくってきましたが、
そもそも3Dは、空中に浮いてるものを取ったり、
乗ったりすること自体が難しかったんです。
でもニンテンドー3DSで距離感がひと目でわかるようになれば、
いままで遊びにくかった、空に浮かぶ足場をジャンプで乗り継いで、
落ちたらゲームオーバーになるみたいな緊張感あるステージを、
積極的につくれそうに感じています。
ですから『マリオ』はまだまだこれから
やれることがいっぱいあると思っています。
それから、もっともっと『マリオ』というキャラクターに
親しんでもらいたいですね。
今回、25周年を記念して
「(※26)をつくってみない?」という話が出て、
面白そうなので『うごくメモ帳』(※27)を使ってつくってみたんです。
絵と楽曲制作は、東京制作部スタッフのお手製です。歌もスタッフです(笑)。
この絵描き歌を使って、
世界中の人たちがマリオを描いてくれると素敵だと思うんです。
かんたんに描けるので、チャレンジしてみてほしいですね。
※26
マリオの絵描き歌=「スーパーマリオ25周年」を記念して制作された、マリオの絵描き歌。
※27
『うごくメモ帳』=2008年12月に配信が開始された、無料のニンテンドーDSiウェア。タッチペンで手書きメモを作成できる。また、何枚も書いたメモを再生して、パラパラマンガ(動画)をつくることができる。『うごくメモ帳』について詳しくはこちら。
岩田
ありがとうございました。
わたしはこれまで、その時々のビデオゲーム技術でできる、
いろんなことを、ものすごく貪欲に盛り込んでいるソフト、
それが『マリオ』であるといった印象がありました。
たとえば、スーパーファミコンと同時発売の『マリオワールド』では
まるでスーパーファミコンの性能カタログであるかのように、
そのハードでできる、いろんなことが盛り込まれていましたし、
その後に出た『スーパーマリオ64』では
「どれだけゲーム開発のハードルを上げれば気が済むんですか?」
と言いたくなってしまうくらい、
N64でできるいろんなことを見せてくれました。
ただ一方では『マリオ』のゲームとして守るべきことを絶対に守っています。
だからこそ、『マリオ』シリーズのあるタイトルを遊んだ人が
別のタイトルを手にとったとしても、
さっき小泉さんが話されていた“自転車理論”のように、
指に経験値がたまっているからこそ、すぐに遊べるんだと思います。
そしてミスをしたときに
「あー、自分が悪かったんだ・・・」と思えるようなところがあって、
「さあ、もう1回!」という頭のなかに響く声を聞きながら遊んで、
それを乗り越えたときに、強烈な快感が味わえる。
そういうところがシリーズ全部に共通しているんだと思います。
もちろん、タイトルごとに新しい表現や
新しく加わった開発スタッフのアイデアを貪欲に取りこんで、
アウトプットし続けているのが『スーパーマリオ』ですし、
その流れを止めないことが、これからのお客さんの期待に
応えることなんだと思います。
たくさんの娯楽の流行り廃りがあるなかで、
『スーパーマリオ』が、日本だけでなく、
国や民族や文化に関係なく、世界中で
受け入れられていることは奇跡のように思えますし、
誕生から25年が経ってもバリバリの現役で、
いまだに最前線に立っていられるというのも、
ものすごい幸運とご縁のたまものだと思います。
これからもお客さんの期待を裏切ることなく、
新しい娯楽を生み出せるよう、努力していきたいですね。
本日はどうもありがとうございました。
一同
ありがとうございました。