3. 『スーパーマリオ』を“『マリオ』らしく”するために

岩田

『スーパーマリオ』が生まれて25年が経ち、
たくさんのシリーズが登場しましたが、
みなさんがそれぞれ『マリオ』のタイトルをつくるときに、
どのようなことを大事にされてきましたか?
言い方を変えますと、
『スーパーマリオ』を“『マリオ』らしく”するために、
宮本さんからどんなことを教わりましたか?

江口

僕が関わったのは『マリオ3』と『マリオワールド』でしたので、
あまり“マリオらしさ”ということを考えたことがないんです。
ただひたすらコースを描く仕事をしていましたから・・・。

紺野

そもそも宮本さんはあの当時、→“マリオらしさ”について
語っている印象はありませんでしたね。

岩田

確かに、シリーズの初期の頃は、
“マリオらしさ”を語るような歴史はまだありませんからね。

紺野

むしろ口癖のように言っていたのは、
「それ、おもろいの?」とか「それって気持ちいいの?」でした。
それは自分の開発している以外のソフトに対してもそうでしたね。
たとえば昼休みにちょっとゲームをしていると、
後ろから覗いては、「それ、おもろいの?」と聞かれることが多かったんです。
なので、「いや、まあまあですね」と答えたりとか。

岩田

「まあまあ」って、何も答えていないに等しくないですか(笑)。

紺野

「まあまあ」のなかにも、言いたいことはいっぱいあるんですけど、
でもやっぱり「まあまあですね」と答えてました(笑)。

岩田

(笑)

江口

「いつ聞かれるんだろう」みたいな恐怖がありましたから、
何が面白いのかを、自分で一生懸命に
分析しなくちゃいけない感じはありましたね。

紺野

ああ、そうでしたね。
だから、昼休みに遊んでいても
ちょっとしたプレッシャーがあったんです。

岩田

宮本さんは質問をすることで、
みんなに考えさせていたんですかね。

紺野

そんな気がします。

江口

いや、どこまで計算して「それ、おもろいの?」
と聞いていたのかはわかりませんけどね。
たぶん単純に気になっただけなんじゃないかと(笑)。

一同

(笑)

岩田

面白いことは、その理由がわからないと気が済まないのが
宮本さんですものね。
実際に宮本さんといっしょにゲームをつくっているときは、
どんなことをおっしゃっていましたか?

江口

ネタを出す順番の重要性を教えられたりしました。
たとえば、地形や敵のネタが複数あったとき、
それを組み合わせたものを、いきなり最初から見せるのではなく、
1個ずつ順番に見せるようにしようと。

岩田

そうすれば、後から複数のネタが組み合わさって出てきても、
「これはあそこで見たやつだから、こういう動きをするはずだ」と
予想がつくんですね。

紺野

そうなんです。
ですから、まず基本編があって、応用編があって、
さらに組み合わせれば上級編もつくれると。
なので「ひとつのネタを、3回は使う」みたいなことを、
けっこう口癖のように言っていました。
「一粒で3回くらいおいしくせなあかん」と。

岩田

確かにそう言われて、
『スーパーマリオ』のコースを思い浮かべてみると、
」と思えるようなことがありますね。
そもそも、あの当時の宮本さんは、
いまよりも遥かに、現場に入りこんでものづくりをしていたでしょうから、
いっしょにつくっていくなかで
自然に学べたことも多かったんでしょうね。

紺野

そうですね。
いっしょにコースも描いていました。

江口

それでいっしょにコースを描きながら
すごく細かいことを遠慮なく言うんです。
「このノコノコ、もう1ブロック前やん」とか。
でも、ノコノコとノコノコの間が、2ブロックでも3ブロックでも、
2匹出てくることに変わりはありませんから、
僕らは「同じやん」と思うんですけど、
「ちょっと詰めたほうがいいんやない?」とか、
けっこう細かいことを、素直に、正直に言葉にされていました。
まあ、そのへんはいまでも変わらないことですけど(笑)。

岩田

ああ、ぜんぜん変わらないですね(笑)。

江口

最初の感じた印象をすごく大事にされるんですよね。
そこで、宮本さんに言われたとおりに直してみると、
触り心地がぜんぜん違うものになるんです。
そういうことを現場で何度も目の当たりにしました。

紺野

しかも、先ほども言いましたように、
毎朝「このブロックの位置はここに」と指定をして、
それが動く状態になって触れるのは1日1回だけだったんですね。

岩田

当時はプログラマーに頼まなければ、
コースデータを更新できなかった時代ですからね。

紺野

どんなに頑張っても午前と午後に2回、
触れるくらいだったんですが、
開発の終盤になってくると、僕らも疲れてきて、
「これくらいでもういいんじゃないか?」みたいな感じに
なってくることもあったんですけど・・・。

岩田

最後の最後まで諦めようともせず、
細かいことにも絶対に妥協しない人が現れるんですよね(笑)。

紺野

そうなんです(笑)。

岩田

「ここの間は、2ブロックじゃなくて」みたいな(笑)。

紺野

「いまのはやっぱりもう1回戻そう」とか(笑)。

江口

そのくらい、本当に細かいことを言ってました。
直す手間は一切考えず、少しでもいいものにするためには
遠慮なしでいくという姿勢が、当時から宮本さんにはありました。

紺野

本当にそうですね・・・。
ああ、いろいろ思い出してきました(笑)。
たとえば、『マリオ3』をつくったとき、
わたしは敵の仕様をいっぱい書いたんです。
そのとき苦労して悩んだのが、マメクリボーという
クリボーの小さいキャラクターだったんです。
マメクリボーを降らせて、マリオにまとわりつくと
動きが遅くなってしまう、という仕様だったんですが、
それを動かしてみても、なんだかイマイチだったんです。

岩田

自分でイマイチなことがわかっていたわけですね。

紺野

はい(笑)。
わたしは、マメクリボーがまとわりつくから、
マリオの身体が重くなって、ジャンプが重たくなる、
という仕様に基づいてつくりますから、
重力を重くして、マリオの速度も半分にして、
「のそのそ」する動きをつくりこんでいたんです。
それを宮本さんに見てもらったのですが、
そもそも自分でいいとは思っていないものが、
「これは面白いね」と言われるわけないですよね。
なので案の定「こんなんアカンわ」と
ボーンと一蹴されてしまって。

岩田

宮本さんはダメなものにはけっこう冷たいですからねえ(笑)。

紺野

はい(笑)。
そこで、何度も調整して、それを触ってもらったのですが、
やっぱりバーンと一蹴されて。

岩田

「やっぱりアカンわ」と?(笑)

紺野

はい(笑)。それで最後に宮本さんは
「こんなことしてても、たぶんおもろくならへんで」
と言って、新しい提案をしてくれたんです。
それは、マリオの重力を重くするのではなく、
頭の上に透明のブロックを置くやり方だったんです。

岩田

それ以上、跳べなくしちゃえというわけですか。

紺野

はい。ジャンプしても、途中で頭打ちになってしまうんです。
だから、マリオの速度は変えなくていいんです。
すごくかんたんな解決方法だったんですけど、

これがすごくよかったんです(笑)。

岩田

あー、それは、悔しかったでしょう(笑)。

紺野

はい、それはもう(笑)。
理屈じゃないということがわかりましたし、
その後も、自分が行き詰まったときに
まったく違うアプローチを示してくれるようなことは
たくさん経験しているのですが・・・
でもやっぱり、いま思い出しても悔しいですよね(笑)。

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