糸井
あと、ぼくが気をつけてることのひとつに、
「網羅的にならないように」っていうことがあって。
宮本
はい。
糸井
Aかな、Bかな、っていう話をしているときに、
「Fもあるんですよね」みたいなことを
言い出す人がいるんですよね。
で、「がんばります!」の人って、
Cもあって、Dもあって、EもFもGもあるんです、
みたいな方向に行っちゃうんですよ。
いったん、ぜんぶそろえようとする、みたいな。
でも、ほんとうに価値を生むかっていうと、
AとBしか知らなくて、それだけを、
じーっと見つめていたときのほうが
おもしろかったっていうこともあるわけで。
Googleみたいに、
ものすごい規模で徹底的にやるならべつですけどね。
宮本
うん、うん。
糸井
宮本さんの仕事も網羅的ではないじゃないですか。
宮本
違いますね。
糸井
たとえば、マリオっていう有名なキャラクターもね、
ドットの都合とか、必然性があったにせよ、
網羅的にいえば、企画のときに
「ひげのオヤジ」以外のタイプも
そろえられるべきでしょう?
だって、子どもが遊ぶゲームなのに、ヒゲのオヤジだよ?
宮本
ねぇ(笑)。
たぶん、マリオをつくったときは、
マリオのほかにもう1個ぐらい、描いてたぐらいですよね。
ラフなのを、こう、鉛筆で。
糸井
じゃ、A案とB案くらい(笑)。
宮本
うん、当て馬でもなく。
ただ、最初になんとなくふたつ描いちゃった、
みたいな感じだったと思います、うん。
やっぱり、絵や企画はほとんどひとりでつくってたというのもあるし、
当時は、ぜんぶができあがってから、
「どう売ろうか?」っていう話になるので、
チェックされることもないし、
プログラマーは絵を描いて持って行くだけで、
よろこんでくれるし。
糸井
そうすると、思いついたA案をじっくり磨き込んでいく、
っていうことになりますよね。
宮本
そうなりますよね。
まぁ、ファミコンですから、容量の都合もありますし。
糸井
ああ、そうか、そうか。
宮本
ただ、容量という制約があっても、
どうしても気になる、というところはしつこくやるんですよ。
たとえば、急に土管でワープするのはよしとするけど、
土管に入るときは上から入るようにするとかね。
横から重なってもダメやろう、とか。
糸井
ああ、なるほどね。
宮本
それとか、1−1をクリアすると、突然、地下に行きますよね。
糸井
はい。
宮本
あの地下のステージがはじまったときに、
最初からマリオが地下に立ってるのは
おかしい、と思ったんです。
さっきお城の前を通って行ったマリオが
「どうして、地下に立ってるんだ?」って。
かといって、地下に降りる演出を入れる余裕はないので、
上からボトンと落ちてくることにしたんですが、
それだけでね、意外にOKなんですよ。
「そこをもっと細かく描いたほうがいいですよね」
って言われると、また違うことになるんですけど。
糸井
つまり、昔は制約があったから、
優先順位の高いものを絞り込んで
シンプルに考えざるをえなかったというか。
宮本
ああ、それはすごく思いますよ。
制限のある中でやってたことで、
救われてたことがいっぱいある。
つくっていない部分は、
プレイヤーがおぎなってくれてます。
糸井
それこそ、アルファベットでいえば、
AとBしかないようなとこでやってるわけで、
その意味でいうと、AとBだけの選択肢に、
もう戻れない時代の子たちは、
ぼくらがしなくてよかった苦労を
しなくちゃいけないのかもしれない。
宮本
そうなんですよね。
ちょっとかわいそうな気もします。
糸井
さっき言った、
結婚前の男女のさまざまな問題を
「結婚するか、しないか」というところに
絞って考えるというのも、
まさに、AかBかという簡単な形に戻してるわけで。
宮本
そうですね。
糸井
どう簡単にできるか、
っていうのに慣れないといけないですよね。
それは「がんばります!」とは違う
まったく違うアプローチなんじゃないかな。
宮本
あと、たとえば1年間に出るソフトの数とかも
昔はすごくわかりやすかったんですよね。
年にソフトが2本とかだったりするから、
それが出なかったら、売上がないわけです。
糸井
あ、なるほど。
宮本
年末商戦に1本もソフトが出ないというのが
なにを意味するか、自然にわかるわけです。
そうなると、「出そう!」という方向に向かって
シンプルに優先順位を決めていくしかない。
糸井
うん。それは、間に合わせますよね。
宮本
そう。で、それがだんだん、
1年間に10本とか、20本とか出るようになってきて、
それぞれのソフトを預かるようになってくると、
そんなにリアリティーがなくなってきますよね。
そうすると、いろいろ考えはじめてしまう。
糸井
「出そう!」というポジティブなところに
そろわなくなっていくんですね。
宮本
そうなんです。
たぶん、ぼくも、そうなる可能性はあったんですけど、
うまくかいくぐったというか、なんというか、
ぼくは経営陣に入ったのでね、
そうするとまたシンプルになるんです。
糸井
あーー、なるほど。
宮本
経営陣になると、やっぱり、
年末にソフトがそろわないとどうなるかみたいなことが、
はっきりわかるんですよ。
糸井
そうですね。
宮本
だからね、経営の目線になればなるほど、
シンプルにものを考えられるようになるんやと。
糸井
大発見じゃないですか。
宮本
大発見かもわかりません(笑)。
糸井
ねぇ。
よく、エグゼクティブの視点を持てとか、
会社を運営してるのは自分なんだと思ったら、
問題は見えてくるっていう言い方をするけど、
ようするに、経営陣の発想を持ったほうが、
問題が単純化できるんですよね。
宮本
そう思いますね。
だから、ここ10年ぐらいっていうのは、
ものすごく単純化に走ってるんですよ、自分が。
で、スタッフはどんどん複雑なほうにいってるでしょ。
その落差がおもしろいっていうかね。
あの、誤解されないように言っておきたいんですけど、
会社というのはね、実質的には、
その複雑な人たちに支えられてるんですよ。
糸井
うん、うん。
宮本
それは、すごくわかる。
けど、それは十分に理解したうえで、
複雑なことをして支えてくれてる人たちを単純化していくのに、
ぼくは何をしたらいいんやろうっていうのが、
ここしばらくの自分のテーマになってきてるんですよね。
そういう人たちに「単純な考え方も必要よ?」ってことを
一所懸命に説明するっていうのがここ数年の仕事。
・・・ただ、正直に言っておくと、
まだ、自分でも、両方を求めてるかな(笑)。
糸井
うん。すごくよくわかるわ、それ。
宮本
(笑)