糸井
岩田さんが、「ほぼ日刊イトイ新聞」という
ぼくのウェブサイトに来てくれたときにね、
「アイデアというのは
複数の問題をいっぺんに解決することだ」という
宮本さんのことばを紹介してくれたんですよ。
宮本
ああ、はい。
糸井
これはね、見事に、
「ことばで言えてる」と思うんですよ。
で、役に立つし、教えてもらったほうもうれしいし、
たぶん、宮本さんだって、そういうふうに
きちんとことばになってうれしかったんじゃないかな。
まぁ、宮本さんの言ったことばを
ちゃんと拾って、覚えて、広めたのは、
宮本さんじゃなくて、岩田さんなんですけど。
宮本
そう、そうなんですよね(笑)。
糸井
そこがちょっとね(笑)。
でも、やっぱり、ことばにできないわけじゃない。
宮本
うーん、そうですね。
あの、ちょっと変な話かもしれませんけど、
「アイデアというのは複数の問題を解決するものだ」って
あらためてことばにしてもらってはじめて、
ぼくはそれについて考えるようになったんですよ。
あ、そうそう、そうなんだ、って思って。
糸井
(笑)
宮本
で、そこを入口にしていろいろ考えているうちに、
最近、思ったのが、「問題意識」ということで。
やっぱり、アイデアというのは、問題とか障害とか、
困ったこととセットになってると思うんですね。
糸井
うん、うん。
宮本
たとえば、ぼくが5人ぐらいのメンバーと会議をしていて、
ぼくが「これがいい」って思って言ったときに、
2人ぐらいが「それで決まりですね」って言うけど、
あとの3人は「ええー?」って言うんです。
で、「いいですね」っていう2人は、いつも同じなんです。
手塚(卓志)(※2)さんと、中郷(俊彦)(※3)さん。
※2
手塚卓志=宮本茂と共に『スーパーマリオブラザーズ』を制作。その後、『スーパーマリオ』シリーズや『ヨッシー』シリーズ、『どうぶつの森』シリーズなどのゲーム開発に携わる。任天堂情報開発本部 制作部部長。
※3
中郷俊彦さん=宮本茂と共に『スーパーマリオブラザーズ』を制作。株式会社エス.アール.ディー代表取締役社長。
糸井
うん(笑)。
宮本
なんでその3人の意見がいっつも合うかというと、
ウマが合うから、という簡単な言い方もできるけど、
やっぱり、問題意識が同じなんだろうなと。
糸井
うん、うん、うん。
宮本
問題のとらえ方がいっしょなので、
「そこに答えがあるぞ!」ということが、すぐにわかるという。
だから、別の問題意識を持っている人とか、
そもそも問題意識を持ってない人にとっては、
なにがいいのかぜんぜんわからないということになる。
糸井
なるほど、なるほど。
宮本
ということなんだな、というところまで考えて。
そこから、また、徐々に、考えを広げていって、
いままたちょうどその考えが発展してきてるんですよ。
糸井
おおー、いいじゃないですか。
宮本
そのあたりのことを一気に語っていいですか。
糸井
語りましょうよ。
宮本
ぼくは、横井(軍平)(※4)さんのことを、
師匠やと自分で勝手に思ってたんですけど、
その横井さんといっしょに会議をしてるときに、
「きみ、けっこうネガティブやな」
って言われたことがあって、
それがね、すごく、刺さってるんですよ。
糸井
ほうーー、ほう、ほう。
※4
横井軍平さん=任天堂在職中にゲーム&ウオッチやゲームボーイなどのゲーム機のほか、ファミコンロボットや『Dr.マリオ』などの開発を中心となって手がける。故人。
宮本
言われてみるとね、たしかにね、
横井さん、ポジティブなんですよ。
糸井
うん、うん。
宮本
けど、ぼくは自分では
ぜんぜんネガティブなつもりはないんです。
それで、どういうことなんやろうといろいろ考えてると、
なにかを考えるときに、ぼくは、まず、
「できないことリスト」をつくろうとする傾向があるんです。
たとえば、ファミコンっていうハードでは、
なにができて、なにができないのか。
とくに、「なにができないか」っていうことを、
たくさん知ってることは
すごく、ぼくにとっては大事なんです。
糸井
おもしろい(笑)。
宮本
だから、なにかを考えるときに、
ダメなことっていうのをいっぱい挙げるんですね。
「こっちを立てれば、こっちが立たず」
っていうアイデアがあったとすると、
「こっちが立たず」っていうほうを必ず考えるんですよ。
それは、ネガティブといえば、ネガティブですよね。
じゃあ、ネガティブとポジティブの境い目はどこにあるのかっていうと、
じつは、つねにネガティブとポジティブは共存してるんです。
だから、ポジティブなことしか考えてない人っていうのは、
ただの能天気な人で(笑)。
糸井
そうですね。
宮本
で、ネガティブなことを知ってることは大事なんですが、
ネガティブなことだけをずっと言ってる人は
ただの悲観的な人間で。
糸井
うん、うん。
ポジティブだけだと脳天気すぎて、
ネガティブだけだと悲観的すぎる。
宮本
そうなんです。
じゃあ、どうすればいいかっていうと、
「行こう!」って決めたときにいかにポジティブになれるか、
っていうことなんとちゃうかなと。
糸井
そう思いますね。
つまり、「きみ、ネガティブやな」って言ったときの横井さんは、
製作の責任者に、より近い者としての発言なんですよね。
宮本
ああ、うん、うん。
糸井
だから、極端にいうと、クオリティーのことだけを考えて、
商品として出なくても平気って思えるのが、
ネガティブを言える人の立場なんですよ。
で、なんとか出さなきゃいけないっていうときは、
それは苦しいなぁって言いながらも、
そのままそこにいるだけじゃ、
その日ぐっすり寝られないんですよ。
宮本
うん。
糸井
だって、出さなきゃなんないんだから。
最後はこれでいい、っていう答えを出さないといけないから、
ネガティブのまんまじゃ済まないんですよ。
宮本
そうですね、うん。
糸井
そしてそれは、どっちも必要なんですけどね。
宮本
出口にちゃんと出ることを最終目標にしてるっていう人と
よりよい道を探すってことを仕事にしてる人の違いなんですよね。
糸井
そうそうそうそう。
だから、その、「行こう!」っていうときに
ポジティブになれるっていうのは、
そのプロジェクトに対して責任を持つ人がとるべき態度。
宮本
うん、まさにその通り。
そうです。
糸井
(笑)