ゲームのサウンド制作ゲームの魅力を
引き立てるアプローチ
ここまでは、制作の流れに沿って、ゲームサウンドの仕事内容を見てきました。サウンドスタッフは、音のことだけを考えているわけではありません。重要なのは、ゲーム制作者の一員として、ゲーム体験をより楽しく魅力的にすることです。ここからは、サウンドスタッフが、音に関する技術面や演出面において、自分の得意分野や独創的なアイデアを活かし、ゲームの魅力向上に取り組んでいるアプローチについて紹介します。
インタラクティブな演出
ゲームは、プレイヤーの操作に反応して状況が変わる、インタラクティブなメディアです。ゲームのサウンドは、プレイヤーの操作やゲーム内の状況に応じて、音楽や効果音を変化させることで、プレイヤーのゲーム体験をより豊かにすることができます。
例えばゲームの状況が変わった時を考えます。音楽自体を違う曲に変える、という方法もありますが、状況の変わり方によっては、曲自体は同じまま、プレイヤーの行動に合わせてその内容を変化させる、といった方法がより効果的な場合もあります。
『マリオカート8 デラックス』では、イケイケトラックと呼ばれるリズムトラックがコースBGMに追加される仕組みを用意しています。プレイヤーの順位が1位になって、2位との差が徐々に開いてくると、それに応じてイケイケトラックの音量が上がっていきます。逆に、こうらが当たってプレイヤーの順位が1位から2位に下がるとイケイケトラックがぴたっと止まります。こうした仕組みを用意することで、プレイヤーが1位で走っているときのうれしい気持ちを盛り上げるようにしています。
プレイヤーの操作やゲーム内の状況にあわせて鳴らされる効果音は、そのものがインタラクティブであるとも言えますが、その中にも、再生されるたびに変化するような仕組みを使った効果音があります。
音楽のコードやスケールにあわせて効果音の音階を変化させることで、音楽と効果音が一体となった、より音楽的なアプローチをとることもできます。『スーパーマリオ オデッセイ』では、キャプチャーしたシマハナチャンが伸びるときの効果音を音楽のスケールにあわせて上昇させることで、プレイヤーにわかりやすく手応えを伝えるようにしています。
ゲームに合わせて音楽や効果音が変化するのではなく、サウンドにあわせてゲームに変化を起こすことで、遊びの幅を広げたり、グラフィックとも一体となった演出を作り出したりすることもできます。
『スプラトゥーン2』では、音楽のリズムに合わせてキャラクター・エフェクト・ライトなどを動かすことで、より没入感の高い演出を作り出しています。
音響技術や信号処理の応用
音響の技術を利用することで、よりゲームサウンドの可能性を広げるアプローチをとることが出来ます。『Nintendo Labo Toy-Con 04: VR Kit』では、バーチャルリアリティ空間にいる臨場感を表現するために、音の前後感や広がりを出すための立体音響処理を行いました。サウンドスタッフは、ゲームの特性に合った立体音響技術を検討したり、ゲームに適した調整を行ったりしています。
また、エフェクトのような信号処理を、ゲームの演出に利用することもできます。ディレイやリバーブなどの一般的なエフェクト処理を用いるケースもありますが、ゲームの演出に合わせて独自のエフェクト処理を行うこともあります。『スーパーマリオメーカー 2』では、コース中のいろいろな場所にオトをしかけることができる「オトアソビ」という機能があります。「オトアソビ」の1つとして、うねうねと音全体が変化するようなサウンド表現を用意しました。これは、サウンドスタッフが複数のエフェクトを組み合わせた独自のエフェクト処理を作成することで実現しています。
そのほかにも、膨大な音声データを効率的に扱う上では音声圧縮技術の知識が役立ちますし、音声認識技術を使ってゲームプレイに新たな面白さを生み出すこともできます。音声合成の分野では、よりバリエーション豊かで活き活きとしたキャラクター表現になるように既成のシステムにチューニングを施すこともあります。また、架空言語のボイス表現でゲームの世界観やキャラクターの魅力を高めるために、独自のシステムを考案することもあります。
音に関わるさまざまな技術を活用することで、ゲームサウンドならではの可能性を広げることができます。
ゲームサウンドを支えるプログラムの仕事
ゲームのすべてのサウンドは、プログラムでコントロールされています。 一つ一つの音楽や効果音を適切なタイミングで鳴らしたり止めたりするのも、プログラムの緻密な制御によるものです。 このため、ゲームサウンド制作の仕事は、ゲーム開発やシステム開発を担当するプログラマーの仕事と密接な関わりがあります。
ゲームサウンドならではのインタラクティブな表現や、音に連動したゲーム演出は、サウンド制作者のアイデアと、ゲームプログラム開発者の技術力やセンスが組み合わさって実現しています。
また、近年のゲームサウンド制作においては、より高度な表現や技術が求められるようになってきており、開発規模が拡大しています。多彩なサウンド表現を効率よく実現するためには、サウンド制作者の作業を支えるサウンドシステムや開発ツールが欠かせません。 サウンドシステムはグラフィックス、AI、ゲームフレームワークといったさまざまな分野とも連携を取る必要がありますので、 サウンドシステム開発者にはサウンドに特化した技術力だけではなく、プログラム能力と幅広い技術分野への関心を持つことが求められます。
音を題材とした遊びの提案
任天堂のサウンドスタッフは、ゲームのサウンド制作だけにとどまらず、音を専門に担当するスタッフならではの視点で、どうすればゲームをより面白く魅力的なものにできるかを考えることも大切にしています。
『Splatoon(スプラトゥーン)』開発中に、開発スタッフに対してミニゲームの企画募集がありました。そこで、サウンドスタッフが試作を用意して「イカラジオ」を提案し、採用されました。『スプラトゥーン2』でも「イカラジオ2」のミニゲームがあります。
『スーパーマリオ オデッセイ』では、ミュージシャンを探して集めるという遊びをサウンドスタッフが提案し、ミュージシャンの人数が増えるとBGMの楽器パートが増えるような仕組みを用意しました。
『Nintendo Labo Toy-Con 01: Variety Kit』の「ピアノ」には、波形カードを読み込ませることで音色を変えて演奏できるシンセサイザー機能や、自分の演奏を録音・再生できるシーケンサー機能があります。この機能は、サウンドスタッフの音楽制作の知識を活かして、プランナーやプログラマーと協力して実現しました。