ゲームのサウンド制作ゲームサウンドが出来上がるまで
ゲームのサウンド制作は、音楽や効果音をつくるだけに留まりません。 ゲームのサウンド制作におけるサウンドクリエイターの仕事について、ゲームサウンドが出来上がるまでの制作の流れに沿って紹介します。
方針を決める
ゲームのサウンド制作は、ゲームの内容を把握して、そのゲームにはどういった音楽や効果音が必要なのかを洗い出すことから始まります。ゲームのディレクターやデザイナーたちと一緒にゲームの内容について確認したり、実際にゲームをプレイしたりすることによって、サウンドスタッフ自身が必要な音楽や効果音を洗い出していくケースが多いです。
音楽や効果音の洗い出しができたら、そのゲームにおけるサウンド全体の方針、コンセプトを決めます。そのゲームがどういった体験を提供させたいのかというゲーム全体の方針や、どのようなビジュアルなのかといったアートの方針などから、そのゲームにおけるサウンド全体の方針を決めていきます。
『ARMS』では、ゲームとして競技大会の熱気やお祭り感を演出したいという方針がありました。この方針を踏まえて、サウンド全体として音楽と効果音いずれにもパーカッションを多用するというアプローチをとりました。
ARMSグランプリ公式ソング
中断画面に入るときの効果音
バトル前演出の効果音
音の鳴らしかたを考える
ゲームは、映画のような、時間軸に沿って再生されるコンテンツとは異なり、プレイヤーの操作次第で、状況が変化したり分岐したりします。そのため、ゲームのサウンド制作では、音をつくるだけでなく、その音をどのように鳴らすかを考える必要があります。
音楽の鳴らしかたを考える
一本のゲームはさまざまな場面で構成されます。ゲーム音楽を作るうえでは、それぞれの場面にふさわしい音楽性を考えるのと同時に、どのような楽曲構成や鳴らし方が適切かを考える必要があります。
たとえば、ゲーム中の重要な出来事を、映画やドラマのワンシーンのように演出する場面において、一連の時間の流れに沿って情景を音楽的に描く一曲を考えたとします。この場合は、適切なタイミングで音楽をスタートさせたあと、そのまま楽曲の末尾まで鳴らしきることになるでしょう。
一方、ゲーム中のメニューシーンやステージ中に流れるBGMの場合は、プレイヤーの遊び方次第で、音楽が流れる時間の長さがいくらでも変わってしまいます。このため、音楽が途切れなく繰り返し再生されるようにしておき、場面が終了するタイミングにあわせて停止させる、またはフェードアウトさせる、といった鳴らし方になることが多いです。
このような、繰り返しループする楽曲の制作においては、どのくらいの周期でループさせるかも工夫のしどころです。ごく短いフレーズでループするシンプルな構成の音楽が、サクサクと次に進めたい場面にはとてもマッチしていることもあります。逆に、じっくり時間をかけて遊びたい場面で、このような音楽が延々と流れてしまうと、プレイヤーを落ち着かない気持ちにさせてしまうかもしれません。
ゲーム中に何度も訪れる場面では、そのBGMをプレイヤーが耳にする時間は延べ数十時間に及ぶこともあります。このような場面では、ループの周期を調整するのではなく、再生方法自体を工夫することで、プレイヤーの耳をより飽きにくくすることができます。
『ゼルダの伝説 ブレス・オブ・ザ・ワイルド』では、広大なフィールド全域に「試練の祠」と呼ばれる小規模なダンジョンが100か所以上、点在しています。この場面のBGMは、細かいフレーズを組み合わせながら再生することで、同じ祠を再び訪れたとしても、音楽の流れは毎回異なる展開をたどる仕組みになっています。結果的に、プレイヤーが何度も訪れる祠において、印象の統一感は保ちつつも独特の揺らぎ感を生み出す音楽にしています。
効果音の鳴らしかたを考える
効果音が果たす役割は多岐にわたるため、効果音の役割にあわせて、鳴らしかたを考えていきます。
例えば、効果音でプレイヤーの操作の結果を伝えるような場合、何種類の効果音に鳴らし分けたらよいか、を意識します。「敵に攻撃が命中しなかった場合」「敵に攻撃が命中し、ダメージを与えた場合」「敵に攻撃が命中したが、ダメージを与えられなかった場合」というように、プレイヤーに伝えたい結果のパターンに応じて、効果音を鳴らすかどうか、また音の内容をどのように分けるか、を決めていきます。
また、複数の効果音が重なって鳴ってしまうようなケースでは、一つひとつの効果音が分かりにくくなり、それぞれの役割を果たせなくなります。こういった時には、効果音が鳴るタイミングを整理することで、プレイヤーに何が起きたかが伝わりやすくなります。
『スプラトゥーン2』では、「敵を倒したら、次に進むためのジャンプポイントが出現した」という場面がありました。「敵に攻撃して破裂させる」「ジャンプポイントが出現する」といったことがほぼ同時に起こるため、そのままでは状況が分かりにくいです。こういった時には、タイミングを整理することで、プレイヤーに情報を順番に伝えてあげる必要があります。
このケースでは、サウンド担当者がプランナーやデザイナーと相談しながら、情報の伝え方や遊びの手応えを整理しました。プレイに慣れていて早く先に進みたい人のために、ジャンプポイント自体は敵の破裂と同時に出現させています。そのうえで、ジャンプポイントを指す矢印と効果音については、少し遅れたタイミングで出してあげることで、慣れていないプレイヤーでも、状況を把握しやすいように、工夫しています。
音をつくる
実際に、いよいよ音楽や効果音を作っていきます。「ゲームの音楽と効果音」で紹介しているように、実際に音をつくる作業にはさまざまな方法があります。できあがった音は、実際にゲームをプレイして確認します。そして必要に応じて、音そのものと鳴らし方の両方を改善しては、またゲームを確認する、という作業を繰り返しながら、ゲーム上のサウンドを作り上げていきます。
全体を整える
3D空間内での音の聞こえ方を整える
現実の世界に近い「縦・横・奥行き」のある3Dの世界を扱うゲームでは、プレイヤーは現実の世界に近いイメージでゲーム画面内の世界をとらえます。したがって、ゲームの中で鳴る音を現実の世界に近い聞こえ方にすることが重要になってきます。そのためには、3D空間内での物体の位置やその移動の様子、視点との位置関係などに応じて、音も適切に変化させ、空間全体として納得感のあるような鳴り方にする必要があります。
そこで、「距離による音の減衰」や「空間内での音の反響」、「壁などによる音の遮蔽」など、現実と同じような空間内での音の振る舞いを適切にシミュレートすることによって、ゲームの臨場感を高めていきます。
ただし、3D空間を扱うゲームであっても、必ずしも現実世界をシミュレートすることが、プレイヤーにとって最優先だとは限りません。たとえば「プレイヤーに注目させたい音については距離による音の減衰率を変える」ことで、あえて現実を忠実にシミュレートせずに、ゲームの手ごたえや遊んだ時の快適さを優先した方がよい場合もあります。
『ARMS』では、攻撃のヒット音は手ごたえを出すために距離による音量の減衰を行わず、それ以外の動作音は距離による音量の減衰を行うような音響空間の設計を行いました。
音のバランスを整える
ゲームに必要な音楽、効果音がある程度出揃ったら、それら全体を見て、音量などのバランスを調整します。ゲームでは、プレイヤーの操作次第で、音が鳴るタイミングはさまざまに変化します。たとえば、たくさんの音が重なったり連続して鳴ったりするような場面もあれば、しばらくの間目立つ音が鳴らないような状況も起こり得ます。したがって、どのような状況下においても違和感のないように注意して、音楽と効果音のバランスを調整していく必要があります。
特定のシチュエーションにおいて、一時的に音量のバランスを変える、といった方法も、ゲームでは使われます。たとえば、アイテムを取ったときにファンファーレを鳴らすようなシチュエーションにおいては、「ファンファーレが鳴っている間は、その他の音の音量を下げる」といった方法で、ファンファーレの音を際立たせることができます。
音と音の関係性を意識しつつ、どのように工夫して全体での鳴りかたを調整していくかは、サウンドスタッフの腕の見せ所です。
出力に応じた調整をする
ゲームから再生される音は、再生される機器によっても聞こえ方が異なります。 『Nintendo Switch』では、プレイスタイルに合わせて3つのモードを自由に選ぶことができます。テーブルモードや携帯モードのときは、本体内蔵スピーカーあるいはヘッドフォン端子からステレオ音声が出力されます。TVモードでは、HDMIケーブルからのサラウンド音声出力にも対応しています。
サウンドスタッフは、どのプレイスタイルでも快適にサウンドを楽しめるようにするため、大きな音と小さな音の音量差(ダイナミックレンジ)や、再生されるスピーカーを考慮した音の帯域バランスなどの調整を行います。また、サラウンド出力時には、マルチチャンネルを効果的に使ったサウンドデザインによって、プレイヤーの没入感を高めることもできます。