※このインタビューは、2009年12月4日に、任天堂ゲームセミナー受講生を対象に行われたものです。
岩田
みなさん、こんにちは。
受講生
こんにちは。
岩田
今日は昨年に引き続き、
「生・社長が訊く」(※1)をやろうと思います。
テーマは、本日が『New スーパーマリオブラザーズ Wii』(※2)の
発売の翌日ということで、
『マリオ』をテーマにするべきとも思ったのですが、
『マリオ』のことは先日の「社長が訊く」で訊いて
すでにホームページに掲載していますし、
受講生のみなさんに近い世代の人たちから
汗をかいた話をしてもらったほうが
より有用だろうと思いまして、
今日は『トモダチコレクション』の開発を担当した人たちに
集まっていただきました。
宮本さんの自己紹介は必要ないと思いますが、
みなさんがそれぞれ『トモコレ』で何をしたか、
ひとことずつしゃべってもらえますか。
まず、高橋さん。
高橋
高橋龍太郎と申します。よろしくお願いいたします。
受講生
よろしくお願いいたします。
岩田
高橋さんは入社何年目ですか?
高橋
入社8年目です。
『トモダチコレクション』ではディレクターを担当しました。
上司の坂本(賀勇)(※3)さんといっしょに企画を考えたり、
スケジュールの管理などをしていました。
※1
「生・社長が訊く」=2008年12月に、任天堂ゲームセミナー受講生を対象に、「社長が訊く ゲームセミナー2008〜『どうぶつの森』ができるまで〜」と題して開催された、社長が訊くインタビュー。
※2
『New スーパーマリオブラザーズ Wii』=2009年12月3日に、Wii用ソフトとして発売されたアクションゲーム。
※3
坂本賀勇=企画開発部所属。『トモダチコレクション』プロデューサー。『バルーンファイト』『ファミコン探偵倶楽部』『カードヒーロー』『メトロイド』シリーズなどのゲーム開発に関わる。
岡本
わたしは入社5年目の岡本まいと申します。
デザインディレクターを担当しました。
よろしくお願いします。
伊藤
こんにちは。
BGMを担当しました伊藤明日香と申します。
入社4年目です。よろしくお願いします。
海野
入社3年目の海野(うんの)将範と申します。
わたしはMiiのお世話の部分、たとえば、
Miiのお部屋に入って、食べ物をあげたり、
悩みを解決したりする部分を担当していました。
今日はよろしくお願いいたします。
岩田
はい、よろしくお願いいたします。
では、みなさんに話を振る前に、
Miiがどうやって生まれたのかという話は
やはり避けられないと思いますので、
まず、わたしからその話をさせてもらおうと思います。
高橋さんにも出ていただきました
「社長が訊く『トモダチコレクション』」
のなかでも触れていることですが、
宮本さんはずっとずっと前から
「似顔絵をゲームで使うことができれば、
きっと面白いことができるはずだ」ということを言い続けていて、
それが最終的にMiiというかたちになったんです。
それと、これも「社長が訊く『Wiiの間』」でしゃべったことですが、
日本では2000万人以上の人が自分のMiiを持っているんです。
それに、おおやけにはまだお話していないんですけど、
同じことをアメリカで調べてみると、
8000万人を超える人が
自分のMiiを持っていることがわかりました。
ですから、なんと日米だけで1億人を超える人たちが
「わたしは自分のMiiを持っています」と答えているんですね。
これは、20年以上も前から宮本さんのなかにあったひとつの野望に、
わたしが絡み、高橋さんが絡み、岡本さんが絡み、そして巻き込まれて
WiiにMiiという機能がついた結果として起こったことなんです。
じゃあ、ここで宮本さん、
なぜビデオゲームの世界に似顔絵を持ち込むことに可能性を感じたのか、
まず、その話から訊かせてもらえませんか?
ちなみに宮本さんは、
会議のときによく似顔絵を描いています(笑)。
宮本
(笑)
岩田
そのことと、Miiにどれくらい関係があるのかわかりませんけど、
どうして似顔絵に目をつけたのか、教えてください。
宮本
先に言っておくと、
僕は別に似顔絵上手じゃないんです。
ヘタなんです、どっちかと言うと。
だから似顔絵が上手な人がいつもうらやましいなと思っていて。
それでも、似顔絵を描いたりするのはむかしから好きで、
会議などでたくさんの人から名刺をいただいたりしたとき、
後から名刺を並べても、どんな顔の人だったのか
ぜんぜん思い出せないので、
そこで、名刺をいただいたら、似顔絵じゃないんですけど、
こんな感じの人という大ざっぱな特徴を
ピピピッと鉛筆で書いたりしています。
それで、Miiの話なんですけども、
高橋さんたちとは、何年前に仕事をしたんでしたっけね。
4、5年前にWiiをつくっているときで・・・。
岩田
Wiiの本体機能の開発が大詰めを迎えたのは
2006年の頭くらいからでしたから、
今からだと、丸4年くらい前ですね。
宮本
その少し前に
「似顔絵に取り組んでいるソフトがあるんですが」と、
高橋さんたちのチームを紹介されたんです。
でも、今回の『トモコレ』のメンバーを見たら、
高橋さんがいちばん年長なんですね。
このソフトはすごく若いチームでできてるんだと、
改めて驚きました。
で、僕はゲームの面白さというのは、
使っている人がインタラクティブなものに
いろんな興味を持って
ずっと触り続けるようなことだと思っているんです。
だから、究極のゲームはデザインCAD(※4)だと。
とくに工業デザイン用の3D CADなんかは、
僕も十分に使いこなせないんですけど、
たぶん最高のおもちゃじゃないかなと思っているんです。
岩田
宮本さんは工業デザイナー出身ですから、
自分の家を建てようとするときは、
自分で模型をつくっちゃうような人なんですよね。
ですから、立体物を自由にデザインできるような仕組みは、
宮本さんにとってすごくいいおもちゃなんですね。
※4
デザインCAD=コンピュータを用いて、デザインの設計をすること。
宮本
CADって、すごく便利でしょう。
そこで、ファミコンの頃には、
簡単に使える2Dツールをつくりたいと思っていて、
NINTENDO64のときは、便利で簡単な3Dツールに
がんばってチャレンジして、
住宅メーカーとかに売り込めば
「新築のご成約記念にN64プレゼント!」みたいなことも
できるのになあ、とか考えていたんですけど(笑)。
受講生
(笑)
宮本
そういう意味でも、CADツールが
最高のインタラクティブゲームじゃないかなと思うんですけど、
「あなたは絵を描くのが好きだからそう思うだけで、
絵が描けない人にとっては、面白くないですよ」と
いつも言われてしまうんです。
けど、絵が描けない人のほうが、
ちょっとでも絵が描けたりするとうれしいじゃないですか。
絵の描ける人は、上手に描けないとうれしくないけど、
絵が描けない人は「オレにも絵が描けるんだ」と思ったら、
たぶん絵の描ける人よりもうれしいと思うんです。
だから、そういう絵を描く楽しさとか喜びを
人に伝えたいなあ、という気持ちがもともとあって、
ファミコンのディスクシステムの頃から
セーブデータがちょっとずつ増えていくようになったので、
何か絵を描く道具をつくりたいと思っていて。
そのときに気になったのが似顔絵なんです。
そもそも似顔絵というのは、
自分で描いた絵を人に見せて、周りの人を巻き込んで
どんどん拡がっていく可能性があるんですね。
そこで似顔絵ができるソフトをいろいろ試してはみるんですけど、
なかなか商品にはならないんです。
ゲームキューブの頃には
カードeリーダー(※5)でシュッと読み取ると、
似顔絵が出てくるとか、
カメラ(※6)でパシャッと写真を撮ると・・・。
岩田
顔写真を3Dモデルに貼り付けられたりしましたね。
※5
カードeリーダー=ゲームボーイアドバンスの周辺機器。カードeに印刷された二次元バーコードを読みこむことによって、ミニゲームが楽しめたり、新しいデータを追加することができた。
※6
カメラ=ゲームボーイアドバンス用に発売される予定だった「ゲームアイ」と呼ばれるカメラ。撮影したプレイヤーの顔をゲームキューブに取り込み、『ステージデビュー』(未発売)でプレイできることになっていた。
宮本
はい。そういうことを試したりしていたんですが、
実際にディレクターに「エディットツールをつくってください」と頼むと、
どんどんどんどん高性能化していくんですね。
「似顔絵だけでは面白くないので、
コスプレのようにいろんな服を着せられるようにしました」と。
でも、僕は、作業をたくさんすればするほど
面白くなるとは思わなくて、
逆に、ちょこっと軽いことをしただけなのに、
それが妙におかしかったり、
人の心に伝わるのが面白いと思うほうなんです。
だから、そういうことのできるツールをつくりたいと思って、
Wiiになってから、こけしのようなプレイヤーを使って、
ゲームをつくろうとしたんです。
岩田
当時は“こけし構想”と言ってましたね。
宮本
そう、“こけし構想”です。
『Wii Sports』(※7)で野球ゲームをつくることになったとき、
メジャーリーガーの選手の写真を取りこんで
筋肉ムキムキのリアルな選手をつくるんじゃなくて、
プレイヤーの分身であるこけしのような体の人で遊んだほうが、
たぶん本物の選手より面白いと思ったんです。
だから、開発中の画面にはこけしが出ていたんです。
それを見ながら、「このこけしが
家族のひとりひとりになったらいいんですけどね」
という話を懲りずに岩田さんにしていて。
その頃ちょうど、「似顔絵はなぜ似るのか?」という番組を
テレビで特集してまして、
僕の思ってる考えにすごく近かったんです。
要は、人の顔のパーツというのは、
目の大きな人とか、小さな人とかいろいろあるんですけど、
どっちかと言うと、どんなパーツを持ってるかというよりも、
どんなふうに並んでいるかで、顔の印象が変わるんです。
もともと人には、“標準顔”というのがイメージにあって
その標準の顔からどれくらいパーツがずれているかによって、
他人を区別しているというんです。
つまり似顔絵は、目の配置とか、眉の配置、
鼻の位置、口の位置をきちんと整えると、
顔の輪郭やパーツは似ていなくても、けっこう似るんですよ。
そんな話をその番組でやってて、面白いなと思ったんです。
だから僕も、そういう簡単なものがほしいなと思っていて、
こけしで実現しようとしたんですけど、
Wiiがすでに開発の最終段階に入っていて、
「どうしよう?」と思っているところに、
岩田さんが『トモコレ』の大もとになる、
似顔絵エディターを持ってきてくれたんです。
それはDSで動いていたんですけど、
まさに「コレや!」と思って、
岩田さんに「これは欲しい」と言いました。
※7
『Wii Sports』=「テニス」「ゴルフ」「ボウリング」「ベースボール」「ボクシング」の5種目を収録したスポーツゲーム。2006年12月、Wii本体と同時発売。