3. 4本足で歩いていたどうぶつたち
岩田
みなさん、『どうぶつの森』がもともと、
ダンジョンを冒険するゲームだったというのは
ちょっと想像を絶する話だったんじゃないでしょうか。
でも、設計したときはそうだったんですね。
野上
もともとダンジョンを冒険するというのは
導入部分で入れるつもりでした。
そのあと、プレイヤー同士が
いっしょに遊ぶといったことをやりたかったので、
NINTENDO64に変更することになってから
導入部分をごっそり取って、
プレイヤー同士がコミュニケーションをするところだけで
ゲームをつくろうと決めたんです。
岩田
その思い切りが、
のちに大ヒットするソフトに化けることになるんですね。
何が幸いするかわかりませんね。
江口
コンパクトになったフィールドで
プレイヤーが何をするんだと考えたときに、
最初にこれかなと思ったのは
「自分の部屋を持つこと」だったんです。
その部屋を思い思いに飾って、
飾る材料もどこからか手に入れてくる。
それをプレイヤー同士で見せ合うのはどうだろうかと。
岩田
いま、すごくさらりと言いましたけど、
すごく大事なことを言ったんですよね。
自分の部屋を持って、そこを飾るという
とても単純なことなんですけど、
お客さんにとっては長く遊べる仕組みを
そのときに考えたんですね。
江口
はい。で、そのあと
村の要素づくりをはじめました。
家具などはどういったところから供給して、
その元手は何にしようとか。
岩田
そこで初めて、通貨のベルや
たぬきちの店が生まれたんですね。
江口
たぬきちのようなどうぶつは、
もともとは4本足で歩いていたんです。
江口
鳥は空を飛んでいました。
それぞれの特技を活かして、
冒険の役に立つはずだったんです。
でも、冒険はなくなりましたし、
プレイヤーと会話をするとなれば
4本足で歩いてるのは不都合ですので、
いっそのこと立たせてしまおうと。
岩田
それで2本足で歩くようになったんですね。
スタッフたちは怒り出しませんでしたか、
そこまで翻弄されると。
野上
怒ったんでしょうね。
でも、最初に決めた前提がなくなりましたから・・・。
江口
そのままやっていても
どうにもならないから、
どこかで思い切る必要があったんですよね、当時は。
岩田
みなさん、プロのゲームづくりもけっこうひどいでしょ?
岩田
ただ、最初に考えていた大事なことは、
実はずっと変わらなかったんですよね。
江口
はい。やっぱり人と人とが絡むための
フィールドをつくるということに関しては、
最初から一貫して考えていたことですので。
野上
そこで、人と人とが絡んで、
コミュニケーションにつながるようにするために
プレイヤーごとに差が生まれるようにしようと。
そもそも時間差で遊ぶゲームですし。
岩田
それまでのゲームだと
指先が器用な人が上手だったり、
運良く強いアイテムを取れた人が
効率よく先に進んだり、
そこで差が生まれるということがあっても
遊ぶ時間で差が生まれるというようなことは
わりと少なかったと思うんです。
野上
遊ぶ時間で差が生まれるように、
お店の商品を誰かが買って、売り切れてしまうと、
次に来た人はもう手に入らないようにしました。
岩田
ゲームの世界で
ある人が商品を買ったら、
もう別の人は買えないというのは
あまり例のないパターンですよね。
1個しか売ってない商品というのはありましたけど。
江口
でも、その場合でも
後から遊ぶ人のために補充されたりしましたからね。
野上
だから、遊んだ人からは
怒られないかなあと心配もしたんですけど、
逆にそれがコミュニケーションの
キッカケになると思ったんです。
「お父さんが買ったあれ、わたしにちょうだい」
と、子どもから言われたりすることも
起こると思ったんですね。
それに、ムシやサカナは後から追加したものなんですけど、
捕れるムシや釣れるサカナは時間帯によって違うので、
お父さんが夜遅く遊んでも・・・
野上
夜遅く遊ぶとたぬきちの店が閉まってるので、
寂しい思いをするんですけど、
すごいサカナを釣れば
子どもから尊敬されるんじゃないかと。
岩田
差をつける材料を探しては
工夫しながら足していったんですね。
江口
村の地形や住んでる住民が
村ごとに全部違うようになっているのも、
そういう理由があってやったことなんです。
岩田
当時はけっこう珍しいゲームでしたよね。
最初に村をつくろうとすると、
地形が自動生成されて、
友だちの家に行ってみると
違いが初めてわかる。
江口
おでかけしたときに
自分の村の地形と違うので、
見たときはすごく新鮮ですし、
「お店はどこにあるの?」と聞くだけでも
コミュニケーションが生まれるじゃないですか。
岩田
「人と違うこと」が
このゲームの大きなテーマになっていったんですね。
じゃあここで、大事なことを聞きます。
わたしはあの当時、
こんなに目的のないゲームは初めて見たんですけど、
このような商品を世に出すことに
勇気がいりませんでしたか?
江口
僕らは絶対におもしろいと思っていたんです。
でも、いままでのゲームに慣れてきた人が、
ゴールもエンディングもないのに
これをおもしろいと思っていただけるのか、
そこはとても不安でしたね。
岩田
宮本さんが当時、言ってました。
「ゲームのようなことをだらだら遊ぶあそびなんだよ」と。
「だらだら」という形容詞がついてるのが
すごく新鮮だなあと思ったんですけど、
どちらかと言うとゲームは
一生懸命にやるものでしょう?
野上
僕自身、結婚してから感じるようになったんですけど、
家のなかで、そんなに一生懸命
ゲームをやってられないんですよね。
岩田
帰りが早いとは言えないのに、
帰ってゲームで遊んでいたら
何を言われるかわかりませんからね。
わたしも人ごとじゃありませんし(笑)。
野上
なので、一生懸命やらなくても、
ちょっと空いた時間に遊んで、すぐやめて、
それで満足できるようなゲームをつくりたいというのが
当時のテーマでもあったんですね。
江口
そうですね。
だから、だらだら遊んでいると
やることがなくなるようにしたんです。
お店に行っても商品は売り切れてるし。
江口
夜も遅いし、もうそろそろ寝たらと。
で、また明日も遊んでねと。
岩田
ふつうのゲームは
やめさせないようにつくるんですけどね(笑)。