社長が訊く ゲームセミナー2008〜『どうぶつの森』ができるまで〜
※このインタビューは、2008年12月5日に、
任天堂ゲームセミナー受講生を対象に行われたものです。
社長が訊く ゲームセミナー2008〜『どうぶつの森』ができるまで〜

2. フィールドは4つの島

岩田
完成された『どうぶつの森』を見た人は、
企画のはじめからどうぶつたちが住む森があり、
そこで気ままに暮らすゲームとして
つくられたと考えるんじゃないかと思います。
でも、最初の企画段階では、
そんなことは微塵も考えずに
徹底して仕組みから入っていったんですね。

江口
はい。

岩田
そういうことは、宮本さんたちの
ゲームづくりの秘密のように思えています。
はじめにキャラクターや世界はないんです。
もちろんストーリーもないんですね。


わたしは、いろんな人が書いた
企画書を見る機会が多いんですけど、その中で
キャラクターや世界観は熱く語られてはいるけれど、
ゲームシステムについては
まったく触れられてなかったりすると、
「これだと、まだ大事なことが決まっていないので、
作り始めてから迷走することになるんじゃないかなぁ」
と思ったりするんですよね。

江口
そうですね。
世界を先につくっても、どう収拾をつけるのか、
最後に悩むことになってしまいますし。

岩田
でもまあ、そうは言っても、
最初に世界のことが頭のなかにふくらんで
収拾がつかなくなるようなことは、
みんな少しずつ経験してることなんですけど(笑)。
私自身も過去に経験していますから。

江口
そうですね(笑)。

岩田
それで、リレー方式で楽しむ仕組みを考えて
そのあとはどんなことに取り組んでいったのですか?

江口
まず、モノを取ったり置いたり、
他の人と共有できるようにするには
どんな構造のフィールドにすればいいのか、
プログラム的な構造設計から入ったと思います。

岩田
野上さんは技術系の出身ではないですけど
プログラムの部分でも
どうやって実現できるかを考えるんですね。

野上
はい。まずはそこから考えます。

江口
そこで、ダンジョンでは
どれくらいのフロア数が持てるかとか、
アイテムはどんなふうに置いておこうとか、
そんな話をしていたんですけど、
当時はどうぶつと会話をするような話は
微塵もありませんでした。

会場風景
岩田
当時のどうぶつは
どんな感じでそこにいたんですか?

江口
単純なボタン操作で
指示を与えるような感じでした。

野上
プレーヤーごとにどうぶつを従える、
という仕組みだったんです。

岩田
ちょっとRPGぽいですね。
仲間が後ろからついてくるあたりは。

野上
どうぶつにはいろんな種類がいて、
それぞれ得意不得意があります。
プレイヤーは非力なので、
どうぶつたちに命令しながら進めていくんですが、
自分が引き連れているどうぶつの力だけでは
どうしても行けない場所があるんです。

江口
自分ではそこに行けないから
他の人に助けてもらうと。

岩田
コミュニケーションのキッカケになるような仕組みを
まず考えたんですね。
お父さん「何とかしてよ」と頼めるように。

野上
そうするためにはプレイヤーごとに
連れて行けるどうぶつを変えるようにして、
差をつけるようにすればいいと考えたんですね。

岩田
そうやって基本的な仕組みを考えていくと。
次に何をするんですか?

江口
その段階で、情報を整理しなおして、
デザイナーとかに説明するところまで進んだのですが、
開発の方向を根本から覆されてしまうような
出来事に遭遇してしまったんです。

野上
64DDで出せなくなってしまったんです。

江口
最初は64DDの大容量を活かすように
仕様書をまとめていたんですけど、
どんどん64DDを取り巻く状況が変わっていって、
最終的には、NINTENDO64のカセットで出せないかと。

岩田
せっかく大容量のバックアップデータが残せるはずだったのに、
ふつうのカセットでつくってくれと。

江口
カセットだとバックアップメモリが大容量じゃなくなっちゃうので、
内容を大幅に削らないといけなくなったんです。
そこで、どの部分を残せるかを考えたとき、
プレイヤー同士が相互に絡める、
フィールドの構造だけは何とか残そうと。
それらを、容量のちっちゃくなった
NINTENDO64のカセットに
どうやったら収めることができるのか、
考え直すことにしたんです。

野上
それに64DDには、時計機能が搭載されていたので、
もともとそれを使うことになっていたんです。

江口
そこでカセットのなかに
時計機能を入れることができないか、とか
カセットの容量を使って
どんな遊び方ができるのか、といった
検討をはじめました。

岩田
同じ頃、わたしは
『ポケモンスナップ』(※2)というソフトを
手がけていたんですけど、
このソフトも、64DDの大容量を活かして、
写真を撮りまくるようなゲームだったんです。
ところがこのソフトも64DDじゃなくなったわけです。


そこで、1枚の写真のデータを
いかにしてコンパクトにするかというところから
考え直すことにしたのですが、
そのまま写真データとしてしまうのではなく、
どのポケモンがどこにいて、
どっちを向いてて、
どういう状態か、
ということを情報に変換すれば、
そうとう小さいデータでも
ポケモンの写真をセーブできることがわかったんですね。


そうやって、ゲーム全体を
つくり変えるようなことをしたんですけど、
わたしたちは似たような経験をしているんですね(笑)。

江口
そうですね(笑)。
※2 『ポケモンスナップ』=1999年3月に、NINTENDO64用ソフトとして発売されたカメラアクションゲーム。

野上
それでNINTENDO64のカセットは
最大でどのくらいいけるのかという話をしました。
確か、1メガでしたっけ。

江口
そうそう。

野上
1メガのフラッシュが使えると。

岩田
1メガビット。
当時では大容量ですね、半導体としては。
いまだとカケラみたいですけど。

受講生
 (笑)

野上
そこにどうやって
それまで考えていたものを収めようかと。

岩田
ケチケチ大作戦がはじまるわけですね(笑)。

野上
そうです(笑)。
そもそも、企画段階で考えていたフィールドは
とても広大で、4つに分かれていたんです。
春夏秋冬を表す4つの島があり、
それぞれの島には細かいダンジョンがあって、
そこを冒険することになっていたんですね。
でも、そんな大きなものは到底入らないわけです。
じゃあ1個にしちゃえと。

江口
深いダンジョンはなし。
面積もギュッギュッと狭めましょうと。

岩田
それで村ができたんですね(笑)。

江口
そんな狭くなった村で
プレイヤーは何をすれば楽しいんだろうと。

野上
これじゃあ冒険はできないなあと。

受講生
 (笑)

野上
じゃあ冒険はやめちゃおうかという話になりまして。

江口
なりましたねえ。