3. 売り場にメリハリをつける

岩田

ゲーム売り場というのは本来、
事前に雑誌やホームページで調べて来られたお客さんが
指名買いができるようになっていて、
あのたくさんの棚の中からソフトを見つけ出し、
レジのところに持ってきてくださるということを前提につくられていましたが、
お客さんの層がどんどん変わってきているのに、
売り場はなかなか変わらない現実があったんですね。

波多野

そうなんです。
そこで、どういうソフトの並べ方をしたら
お客さんに見つけていただきやすくなるのか、
コンシェルジュの結果を
ご理解をいただいた販売店さんといっしょに
実験させていただくことになりました。

岩田

そこで、波多野さんは
コンシェルジュのレポートを分析したあとで、
何社かの家電量販店さんのトップの方にお会いして、
売り場でどんなことが起きているのかということを、
お話をされる機会があったそうですね。

波多野

はい。わたしがお会いしたのは、トップの方々だけでなく、
販売の、いわゆる売るほうの責任者の方々とも、
いろいろとお話をさせていただく機会があったんです。
そのときに、ゲーム売り場についての考えを
お聞きすることができたのですが、
そもそもゲームというのは、発売日にパッと売れ、
その後はだらだらと売れて、
次第に収束していくものだとおっしゃるんですね。

岩田

売り場の責任者の方たちは、
ゲームは発売日に行列ができて、
その週末に売ってしまう商品と考えておられると。

波多野

そうです。
瞬間的にパッと売るもので、
そういう買い方をされるお客さんばかりだと
考えておられる方が多かったんです。

岩田

極端な話、早くレジを打つことができることが
お客さんへの最大のサービスとして優先されていたと。

波多野

ゲーム売り場ではそういった、
商品を早くお客さんにお渡しできる、
オペレーション能力の高さが
お客さんへのサービスとして求められていたんです。
任天堂には、継続的に売れるような商品が多いのですが、
そのようなことを認識されている方はあまりおられないようなんですね。
そこで、コンシェルジュのレポートとともに
現状をお話したら、
「ああ、そういうことなんですか」と大変驚かれて、
「・・・じゃあ変えなければいけませんね」と。
しかも、ある大手家電量販店の社長さんは、
任天堂の売り場提案をご理解いただき、
「これまでわたしたちの売り方は間違っていました」と、
ハッキリおっしゃったんです。

岩田

その社長さんは、波多野さんの話を聞かれて、
売り場に行かれて、実際にいかにその指摘通りのことが
目の前で起こっているということを実感されたそうですね。

波多野

そうなんです。
わからないお客さんが大変増えていることに対して、
どんな内容のソフトなのか、
ちゃんと説明できることが必要だと気づかれて、
お客さんに親切でわかりやすい売り場づくりを
いっしょにやっていきましょうという話になりました。

岩田

そこで、新しいレイアウトにして、
新しい売り場づくりをしたら、どう変わるのか、
何店舗かで、モデル店のようなことをはじめたんですよね。

波多野

ええ、その通りです。

岩田

現場を担当した竹内さんにお訊きしますけど、
モデル店をはじめるとき、どんなことを考えたのですか?

竹内

コンシェルジュのデータは3000件あったのですが、
それをすべて見返しまして、
いったいどこに問題があるのかというのを出していくと、
おおまかに2つの問題に集約されました。
1つ目は、“商品の内容がわからない”。
そしてもう1つは、目的の商品があったとしても
“商品の陳列場所がわからない”です。
お客さんがお求めのソフトが
たぶんこの棚のあたりにありそうだとはわかっていても、
なかなか見つけることができないという問題があるんですね。

岩田

買いたいモノを探して、それで見つけられないと、
買わないで諦めてしまわれることがすごく多いんですよね。
実際、自分を振り返ってみても、
他の商品を買うときに、そういうことがけっこう多いですから。
で、わたしたちが想像していた以上に、そういうことが
いっぱい起こっていたということなんですね。

竹内

そこで最初に、
モデル店では商品の陳列の方法を見直すことにしまして、
まず「わかりやすいレイアウト」というコンセプトを掲げました。
ゲームの売り場はだいたいどこでもそうなんですけど、
棚が一列にズラーッと並んでいるところに、
お客さんは自分で欲しいソフトを探してくださいね、
というスタイルが一般的です。
そういう環境にありましたので、
このカテゴリーのソフトはここ、
このカテゴリーのソフトはここ、というように、
しっかり明示するレイアウトを心がけました。

岩田

また、そのカテゴリーは、
お客さんにとって探しやすいものでないといけないですよね。
たとえば「あいうえお順」に並べることは
ゲームの場合はとても無意味じゃないですか。

竹内

はい、すごく無意味です。ですので、
イメージとしては、入口から入ったところに最も・・・。

岩田

イチオシの商品が置かれていると。

竹内

そうです。
あと、商品情報をあまりお持ちでないお客さんは、
売り場の奥まで行かれるのに抵抗がおありでしょうから、
徐々に奥に行くに従って、ゲームに詳しい方が
ゆっくりと見ていただけるようなものを置いたりするとか。
あとは、コマーシャルの映像が映し出されているところに、
しっかり商品も陳列されているようにしたりだとか、
同じ定番品でも、売れている量に応じて
陳列の面積を変えたんです。

岩田

売り場にメリハリをつけたんですね。

竹内

そうです。メリハリをつけるために、
古いソフトでも定番のソフトは、棚一面に並べるようにして、
そばのモニターではプロモーション映像を流すようにしましょうと。
一方、たまにしか売れないソフトに関しては
パッケージひとつ分で陳列してみたり、
場合によっては「ブック陳列でもいいです」、
という提案もしていました。

岩田

ブック陳列というのは、
本棚のように、背表紙しか見えない陳列方法ですね。

竹内

はい。ゲームメーカーが
「ブック陳列でもいい」みたいな提案をしたのは
たぶん初めてだと思います。

岩田

ブック陳列であっても、品揃えとして用意しておけば、
欲しいと思っておられるお客さんには
きっと探していただけるでしょうし、
商品名をご存じないようなお客さんが来られたときは、
ちゃんと出会いが生まれるように
売り場にメリハリをつけるようにしたんですね。

竹内

はい。そうすることで、
お店でお客さんに商品を
簡単に探していただけるようにしましょう、ということで
モデル店を展開してみました。

岩田

実際にモデル店をやってみて、どうでしたか?

竹内

実際にやったのが2009年の6〜7月なのですが、
モデル店ですごく印象に残ったことがありました。
DSソフトの『リズム天国ゴールド』(※5)
2008年の夏に発売されて、
まだそれなりに売れ続けているソフトだったのですが、
店頭に行くと、過去のソフトの扱いになっていたんですね。

岩田

発売から1年近くたってますからね。

※5

『リズム天国ゴールド』=つんく♂さんがプロデュースを担当した、ノリ感ゲーム。2008年7月にDS用ソフトとして発売され、2010年1月3日時点の累計販売数は186万本。(株式会社メディアクリエイト調べ)

竹内

ところが、お客さんの問い合わせがけっこうありまして、
ときどき探しに来られるお客さんもいらしたんです。
そこで、思い切って陳列を広くとってみたところ、
モデル店のなかの1店舗で
その週末に売り切れてしまったんです。

岩田

それはうれしいですね。

竹内

うれしかったですね(笑)。
そういったことがありましたから
過去に発売されたソフトであっても、
お客さんとしっかり出会いをつくることで
商品が動いていくものだと実感できました。

岩田

波多野さん、逆の意味で言うと、
あらゆる商品を売る側の人は、
売り場をいろいろと工夫されていると思いますが、
ゲームという商品に関しては、
昔は特別にそういうことをしなくても、
なぜかたくさんのお客さんに受け入れられて
買っていただくことができた、
比較的ラッキーなビジネスだったのではないかと思うんですね。

波多野

そうですね。
陳列というテーマを中心に、
お客さんのことをずっと考えてきますと、
1年間同じパターンということはたぶんないと思うんです。
毎週新しい商品が次々に発売されて、
何年かに1度は新しいハードも発売されるわけですから。

岩田

すると新しい課題も出てきますね。

波多野

ですから、そのときそのときに
お客さんに商品をどのようにご理解いただくのか、
どのように安心して買っていただくのか、
そういった売り場をメーカーも提案しなければいけないし、
販売店さんの側も、お客さんの層が違っていたりと、
それぞれの特徴がありますので、
お店独自の研究をしていただいて、
わたしたちもお手伝いをさせていただくことが
これからは欠かせないことだと思いますね。

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