1. 店頭で迷われているお客さんを見て

岩田

これまで「社長が訊く」では
モノをつくる人からお話を訊いていたのですが、
今回はモノを売っている人からお訊きしたいと思います。

任天堂は、過去数年にわたって
“ゲーム人口の拡大”に取り組んできましたが、
お客さんの層が変わり、ゲーム売り場が変わっていくなかで、
任天堂でモノを売っている人たちは、どんなことを考えて、
今回の「Wii・DSソフト おさがしガイド」(※1)をつくるに至ったのか。
そういった背景となるストーリーを
「社長が訊く」を通して一度発信しておくことは、
わたしたちが日頃考えている問題意識や、
めざしていることを世の中にお伝えするという意味で
すごく価値があると考えて、
本日みなさんに集まっていただきました。
よろしくお願いいたします。

一同

よろしくお願いします。

「Wii・DSソフト おさがしガイド」カウンタータイプ、フロアタイプ

※1

「Wii・DSソフト おさがしガイド」=2009年12月より、一部の店頭で試験運用がはじまった、検索ツールのこと。任天堂だけでなく、ソフトメーカーから発売された、WiiとDSのソフト情報が収録されており、ソフト情報や映像などを誰でも簡単に検索することができる。
(「ニンテンドーおさがしガイド」は2013年10月25日をもってサービスを終了いたしました。)

岩田

それではまず、みなさんが何をしてこられたのか、
自己紹介をしていただきたいと思います。
専務取締役の波多野さんは、
自己紹介するまでもないかもしれませんが、
一応お願いします。

波多野

はい。営業本部の波多野です。
わたしは2004年の2月から、
国内の販売に関する営業部と営業戦略室のほかに、
ソフトメーカーさんとの窓口を担当する業務部、
宣伝とプロモーションを中心に行う企画部、
それとお客様相談室を担当しています。

岩田

任天堂が2004年に開発セクションの再編をしたことは
わりと外部の方にも知られていることなのですが、
実は同時に営業に関わる機能をすべて
営業本部の波多野さんのもとに集めて、
巨大な本部組織にしたんですよね。
そしてその後に、DSとWiiが世に出て行くことになるのですが、
その営業体制の中心になっている人が波多野さんです。

波多野

はい。

竹内

営業戦略室の竹内です。
わたしはもともと、現場で営業をやりながら
販売データをとりまとめる仕事をしていたのですが、
2005年の2月に営業戦略室に異動になりまして、
国内の発売タイトルの編成をしたり、販売戦略を立案したり、
パートナー企業さんとの協業の仕事を行ったり、
ネットワーク関係の仕事をしながら、
本日のテーマになっている
店頭関係のお仕事も担当しておりまして、
そのグループのマネージャーをしています。

尾田

営業戦略室の尾田です。
わたしは、竹内さんのグループのなかで、
店頭でどのように商品をプロモーションしていくかとか、
どんな売り場づくりをしていくかとか、
主に店頭販促の業務を担当しています。

酒井

企画部に所属しています、酒井です。
企画部では、店頭での販促というよりも、
広告・宣伝プロモーション全体を扱っていまして、
そのなかでわたしはネットワーク系のプロモーションの
『みんなのニンテンドーチャンネル』(※2)
運用を担当しています。

※2

『みんなのニンテンドーチャンネル』=Wiiチャンネルのひとつ。Wiiショッピングチャンネルから無料でダウンロードできる。WiiやDSに関する、さまざまな情報やソフト映像などが楽しめるほか、お客さんの「おすすめ投票」をもとにした「おすすめランク」など、お好みのソフトを探すこともできる。

岩田

酒井さんは『みんなのニンテンドーチャンネル』を
運営している中心人物のひとりですが、
『みんなのニンテンドーチャンネル』に集まったデータを
「おさがしガイド」に活かせるということで、
今回のプロジェクトに参加することになったんですよね。

酒井

はい。

岩田

さて、今回の「Wii・DSソフト おさがしガイド」は
お客さんが店頭でソフト探しをするときに
お手伝いをさせていただく検索ツールですが、
すでに、2009年12月から
全国6店舗で試験運用がはじまっています。

この検索ツールが実現することになったのは、
波多野さんが、週末になると必ず近所の販売店に行かれて
毎週観察するようなことをずっと続けてこられていて、
そこで感じた問題意識がすべての原点かな、と
わたしは思っているのですが、
その話からお訊きしてもいいですか?

波多野

はい。時系列を追ってお話ししますと、
DSを発売した翌年の2005年の後半くらいから、
ソフトメーカーさんのゲームも含めてなのですが、
任天堂の製品販売スペースを
販売店さんにたくさんとってもらいたいという意識が
とても強かったんです。

岩田

DSの発売直後は、 販売スペースが
あまりいただけていなかったですからね。

波多野

発売して1年くらいたっても、
タイトル数がさほど多くなかったこともありますが、
期待するほど販売スペースをいただけなかったんです。
ところが2006年になると、DS Liteも発売されて
DSの市場がすごく好調になったんですね。

岩田

DS Liteが出たのは2006年の3月で、
5月には『New スーパーマリオブラザーズ』(※3)も発売されました。

※3

『New スーパーマリオブラザーズ』=2006年5月にDS用ソフトとして発売された、アクションゲーム。2010年1月3日時点の累計販売数は572万本。(株式会社メディアクリエイト調べ)

波多野

それでDSの市場がどんどん活性化して、
ソフトも次から次に発売されて、
広い販売スペースをとっていただけるようになりました。
ところが、2006年の夏の後半くらいからでしょうか、
ご来店いただいたお客さんのなかに
店頭での戸惑いが感じられるようになったんです。

岩田

毎週、継続してお店を観察していたからこそ、
そのような変化を感じられたんですね。

波多野

そうです。それはまさに、
任天堂が掲げた“ゲーム人口の拡大”によって
生じたことだったのですが、
どのように商品を選べばよいのかと
戸惑っておられるお客さんの姿を
肌で感じられるようになったんです。

岩田

それまでのゲーム売り場では
あまりお見かけしなかったような幅広いお客さんが、
たくさんいらっしゃるようになりましたからね。

波多野

ですから、従来のような商品の陳列方法では
新しいお客さんたちが戸惑われるのは当然で、
もっとわかりやすく商品を並べられたらと思うのですが、
そこはなかなか変わっていかないんですね。

岩田

売り場は販売店さんのものですので、
わたしたちがこうして欲しいと考えても、
翌日からすぐに変わるということにはならないですよね。

波多野

そこで、営業戦略室と企画部で協力して、
店頭に置くPOPなどは
できるだけわかりやすいものを提供させていただくようにしたり、
商品をわかりやすく説明したパンフレットなども
置かせていただくようにしたのですが、
それでも、お客さんにはまだまだわかりにくいんですね。
ご来店されて、まずは興味のあるパッケージの表、
そして、必ず裏までご覧になるんですけど、
それでも購入する判断がおつきにならないようなんです。

岩田

せっかくパッケージの裏まで見ていただいたのに、
それを棚に戻されると、わたしたちとしては
すごく残念なんですよね。
興味を持っていただいて、
「買おうかな、どうしようかな」というところまで行かれたのに、
それを棚に戻されたということは、何かが足らないんですよね。

波多野

そう、足らないんです。
しかも、同じようなジャンルで
似たようなソフトがたくさん出てくるようになって、
お客さんはますます迷われるようになったんです。

岩田

当時、DSソフトが爆発的に増えましたので、
ますますソフト選びが難しくなったんですね。

波多野

そういうお客さんに対して、
説明不足をだんだん強く感じるようになりまして、
「これではいかんなあ」と思うのですが、
何をどうしていいか、答えがすぐに見つからないんです。
で、その翌年の2007年くらいに、
売り場のスペースがますます拡がって、タイトルもさらに増えて、
よりわかりづらくなっていったんです。

岩田

そもそもこれまでのゲームの売り場というのは、
自分で欲しいソフトを選んで、レジに持ってきてくださるお客さんを
メインに考えられていることが多いですよね。
ゲーム売り場の場合には、
以前はソフトを自力で選択できるお客さんが主な対象だったので、
そういった売り場でよかったのですが。

波多野

そうなんです。
でも、それではダメだということで、
印刷物のようなもので
お客さんに簡単に確認していただけるようなものを
つくることができないかとも思ったのですが、
そういうものだと、毎月発行しなければいけません。
それに、店頭に立っている販売員の方が
そういうものだけで、お客さんに対して
十分に対応していただけるのかどうか、疑問もありました。
もちろん「DSステーション」(※4)で、
お客さんが試遊機でゲームに触られたり、
さらにモニターで映像をご覧いただくこともできますので、
それはそれでわかりやすいのですが、
いざ商品が陳列されている棚に行かれても、
どれを買ったらいいのかおわかりにならないんです。
このような状況を見ていますと、メーカーであるわたしたちとしても、
お客さんに対して申し訳ないという気持ちになりまして。

岩田

明らかに困っておられるお客様を毎週見ているのに、
その方たちに対して有効な手が打てないことへの
歯がゆさのようなものがずっとあったんですね。

波多野

ええ、ずっと歯がゆい思いをしていました。
ですから、店頭でお客さんが戸惑いながら商品を探し、
購入される行動を見ていたことが、
今回のことに至るすべての原点になっているんです。

※4

「DSステーション」=ゲームショップや量販店のゲームコーナーなどに設置。自分のDSに新作ソフトの体験版やゲームの追加データなどを無料でダウンロードすることができたり、Wi-Fiコネクションを使って、世界中の人とゲームプレイを楽しむことが可能。また、ニンテンドーDSiまたは、ニンテンドーDSi LLに限り、ニンテンドーDSi専用ソフト(DSiウェア)をダウンロード購入することができる。
→「DSステーション」について、詳しくはこちら。

任天堂ホームページ

Wii・DSソフト おさがしガイド

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