岩田
アドバンス版の『リズム天国』がヒットして、
アーケード版の開発も進むなかで、
いよいよ「つぎの『リズム天国』はなんだ?」
というトライがはじまっていくわけですが。
・・・・・・苦労しましたね、大澤さん。
大澤
・・・・・・はい。
岩田
『メイド イン ワリオ』シリーズや
前作の『リズム天国』での仕事ぶりを見ていると、
大澤さんのやり方というのは、
自分の考えを模索しながら手を動かして、
とにかく触れるものをいったんつくってしまって、
ほかの人たちがそれに触りながら
「ああ、なるほど、こういうものか」と理解して、
大澤さんについていく、
というスタイルだったと思うんです。
ところが、今回の大澤さんは、
ニンテンドーDSの勉強というか、基礎研究から
はじめなきゃいけなかったんですよね。
大澤
はい、そうです。
ニンテンドーDSというハードの勉強をして、
新しいプログラム言語とフォーマットの研究をして、
それと並行して、タッチペンでどう遊んでもらうか、
ということをずっと考えてて・・・・・・。
岩田
そこは大きな悩みどころだったでしょうね。
なにしろ、アドバンス版『リズム天国』のキモは、
「ジャストでボタンを押す快感」というのが
とても大きな要素としてあったわけですから。
アドバンス版では、その快感を追求するために
サウンドやプログラムの部分で
そうとう気を遣ったと聞いています。
それは、米さんの担当ですか?
米
そうですね。
ボタンを押したときに反応を返すのは、
どのゲームでも同じなんですけど、
アドバンス版の『リズム天国』では
「いま押した!」という瞬間的な反応を、
なるべくお客さんがはっきりとわかる形で
表現することに苦労しました。
具体的には、ひとつひとつの効果音が、
するどく、パチッと立ち上がるように
気をつけながらやっていました。
岩田
そういうふうに、
「シャープな入力」を重要視するなら、
おそらくタッチペンよりもボタンのほうが
適しているともいえる。
米
そうですね。
岩田
けれども、
DSで新しい『リズム天国』を出すなら、
やはりタッチペンを使いたい。
あのシャープなリズムを取る快感を、
タッチペンでどう感じさせるのか。
このあたりがきっと悩みだったんですよね。
大澤
・・・・・・はい。まさに、そこがいちばん。
正直、最初は・・・・・・ダメだったら、
ボタンの入力に戻る・・・・・・ということも
考えなくてはいけないと思ってました。
ただ、せっかくハードが進化しているのに、
同じことをやってもらうのもどうかと・・・・・・。
岩田
難しいところですね。
そこに、かなりの時間をかけていたというか、
延々と研究をしていたという印象があります。
大澤
たとえば、最初は、
タッチパネルのふちにペンを当てたとき、
「カツッ、カツッ」という音がするような
入力方法も考えたりしました。
ただ・・・・・・ちょっと難しいかな・・・・・・と。
岩田
手応えのある入力にしようとしてたんですね。
大澤
はい。そのあと、最終的に採用した
「はじく」の原点になった、
タッチペンをスライドさせるアクションを
試すことになるんです。
ただ、グッと力を入れるポイントと、
スライドさせる入力に・・・・・・ちょっと慣れが必要で。
どうやれば気持ちよく感じられるかということを、
「ボタンでの入力」に戻ることも考慮しつつ、
ずっと試行錯誤してました。
けっきょく、スライド部分に音を組み合わせることで
気持ちよくタイミングをとれることがわかって、
タッチペンでの入力に絞ることになるんですが・・・・・・。
岩田
その過程に、どのくらい時間がかかりました?
大澤
・・・・・・そうですね・・・・・・基礎研究に2〜3ヵ月。
そのあとが・・・・・・半年以上でしょうか。
岩田
うん。半年ぐらい苦しんでいた印象があります。
大澤
・・・・・・・・・・・・ずっと悶々としてました。
竹内
いや、もう、悶々としてましたよ、ずっと。
岩田
「求道者・大澤」が悶々としているあいだ、
竹内さんはどうやって力になろうとするんですか?
竹内
いや、なんにもできないです。
岩田
(笑)
竹内
とりあえず、できてきたものを触って、
「うーん、よくわからないけど、おもしろいな!」
とか、なんかこう「上げて、上げて!」みたいな、
そういうことぐらいしかできないんですよ(笑)。
岩田
でも、そういうときって、
「よくわからないけど」という状態で
無闇にほめても、大澤さんって、
ちっとも盛り上がらないでしょう?
竹内
そうなんです!
ぜんっぜん、乗ってこない!
一同
(笑)
大澤
・・・・・・・・・・・・。
岩田
求道者はね、
自分でダメだと思っているときに、
人が何を言ってもダメなんですよ。
竹内
そうですね。そうなんですよ。
もう、ずいぶん長いつき合いですけど、
そのあたりはいまだにわかり合えてない(笑)。
一同
(笑)
大澤
・・・・・・・・・・・・。
竹内
でも、やっぱり、
毎回、大澤さんが出してくるものって、
いままでに見たことがないものばっかりで、
そこが魅力なわけですから、これはもう、
つき合っていくしかないんですよ。
岩田
いや、それはそうですよ。
今回も、最終的に仕上がったものを触ると、
操作体系の種類の少なさのわりに
まぁ、なんといろんなバリエーションがあるのかと、
そのアイデアの豊富さに驚きますから。
竹内
ええ、ほんとに。
大澤
・・・・・・・・・・・・。
岩田
ゲームの中心に大澤さんがいて、
そのまわりをグラフィックの竹内さんと
サウンドの米さんがフォローするというのが
前作からの体制なわけですけど、
その悶々としていた時期、
米さんはまだ加わっていなかったんですか?
米
まだ、入ってなかったです。
そのときはWiiのチャンネルを
つくってたりしました。
岩田
あ、Wiiの本体機能をやっていた時期ですね。
米
はい。ただ、ぼくのほうにも、
大澤さんの悶々とした様子が伝わっててきてて、
早くそっちへ行かなきゃ、と。
岩田
いいチームですねぇ(笑)。
早く手伝いにいかなきゃと。
大澤
・・・・・・・・・・・・。
米
で、いちおう、ちょっと時間が空いたときに、
サンプルになるサウンドをササッとつくって、
「これ、どうぞ」って持って行くんですけど、
「うーーーん・・・・・・」という感じで(笑)。
「ああ、じゃあまたつくってきます」と。
岩田
「また出直してきます」と。
米
そうなんです。
その、片手間でどうにかなるものじゃないんですよね。
竹内
そうそうそう。もう全身全霊でやらないと。この人は。
岩田
だって、本人が全身全霊でやってますからね。
大澤
・・・・・・・・・・・・。
竹内
いや、本当に。そうなんですよね。
岩田
そういう大澤さんを見ているとね、
私は、ゲームづくりそのものの不思議さというか、
奥深さ、すごみみたいなものを感じるんです。
おそらく、ゲームがどうつくられているかなんて、
遊んでいる人にはわからないと思うんですけど、
あるひとつのゲームを組み立てるということは、
操作と遊びの構造を一体化させながら、
何かのテーマ、ひとつのコンセプトをそこに貫いて
延々と試行錯誤をくり返すということですからね。
だから、なんていうんでしょう、
ひとつのものを表現するために、
膨大な可能性を追求して、
そして極めるように収束させていく。
そんなふうにつくられるものって、
ほかにあんまりないんじゃないかと感じるんですよ。