インタビュー

桜井政博さんが訊く 『ファイアーエムブレム 新・暗黒竜と光の剣』

2.リニューアルされた『暗黒竜と光の剣』

桜井
わたしがHAL研究所に入って数ヶ月のころ。
まだピチピチの若造だったころ、
『暗黒竜と光の剣』が発売されました。
成広
あ、そうだったんですか。
桜井
社内で、いっしょに仕事をしていた
先輩プログラマーの1人が、
発売をものすごく楽しみにしていて。
御社と仕事をしていた1人だったのですが、
「これはおもしろいに決まってるから絶対に買うんだ!」
と張り切っていました。
で、彼が遊ぶ姿を後ろからジーッと見ていたんです。
そんなことができるのも、
ゲーム会社に就職したからなんですけど(笑)。
成広
本当に(笑)。
で、実際に見てどうでしたか?
桜井
『エムブレム』の魅力についてはいろいろ語られますよね。
キャラクターやサウンド、シナリオや戦闘バランス・・・。
でも、わたしが初めて『暗黒竜と光の剣』を見て、
何よりもショックを受けたのは、最初の戦闘シーンだったんです。
マルスたちの軍隊が、海賊と闘いますよね。
成広
はい。
桜井
敵から攻撃を受けたとき、
のっしのっしと歩いてきた海賊が、

あの独特のアクションと耳に残る効果音も含めて、
「スゴイインパクトだ!!」と思って。
気がついたら、自分用のソフトを手にしてましたね(笑)。
なので、私のとっかかりは、戦闘アニメーションです。
それをキッカケに深くはまりこみ、
このソフトのいろんなおもしろさを知っていきました。
成広
桜井さんらしいキッカケですね。
桜井
ところで今回の『新・暗黒竜と光の剣』は
ファミコン版のリニューアルですけど、
そもそもDSで『エムブレム』が出るのは初めてなんですよね。
成広
そうです。
桜井
DSが発売されて3年以上過ぎただけに、
すごく意外な感じがしますね。
成広
ゲームキューブ版(※5)やWii版(※6)といった、
据置型ゲーム機での開発が進んでいたので
この時期になってしまったんです。

※5 ゲームキューブ版=シリーズ9作目の『ファイアーエムブレム 蒼炎の軌跡』のこと。2005年4月発売。

※6 Wii版=シリーズ10作目の『ファイアーエムブレム 暁の女神』のこと。2007年2月発売。

桜井
でも、なぜこのタイミングで
『暗黒竜と光の剣』なんですか?
成広
ファミコンの発売からちょうど25年たち、
一周回ってきたように感じているんです。
それに、『エムブレム』に限らず、
ファミコン時代に話題になったソフトのことを
知らない人のほうが多くなってるんじゃないかと思いまして。
桜井
確かにそうですね。
成広
Wii版の『暁の女神』はちょうどシリーズ10作目でした。
ですから、DS版では初心に帰って、第1作目をつくりなおし、
このシリーズの楽しさを改めて知っていただくための
キッカケになればいいなあと思ったんですね。
桜井
なるほど。
今作を実際にプレイして感じたんですけど、
キャラクターのメッセージが本当におもしろいですね。
ファミコン版にあったおかしさというか、
へんてこさがそのまま残っていてうれしかったです。
成広
基本的にはファミコン版のセリフを
できるだけ生かしたかったんです。
最近のシリーズは容量が増えて、
セリフの量も長いパターンが多くなっていたんですが、
今回はあえてセリフを削る方向でつくりました。
数行の短いセリフであっても、
お客さんにいろんな意味を
くみ取ってほしいと思ったんです。
桜井
今回、スカウト(※7)したキャラクターがいたら、
あとから別の人がそのキャラに話しかけられたりしますけど、
メッセージのふくらませ方が絶妙で
ニヤニヤしてしまいました。

※7 スカウト=本作では、敵軍の兵士に特定のキャラクターで話しかけることで、 そのキャラクターを自軍に引き抜くことができる。

成広
やっぱり、キャラクターの背景とか
妄想するのは楽しいですよね。
でも、そんなつもりで書いたんじゃないのに、という
受け止められ方をされることもあったりするんですが(笑)。
桜井
お客さんによって、
感じ方はそれぞれということですね。
成広
いろいろ楽しんでくれるのは
ありがたいことです。
桜井
あと、DSならではの話をすると、
『エムブレム』は2画面との相性がすごくいいですね。
マップを消さずに戦闘ができたりとか、
マップを見ながらステータスも見られたりとか。
それに、最新作としての手応えもありました。
ベースになってるのはファミコン版なんですけど、
昔のものとは思えなくて。
成広
基本的にはファミコン版のリメイクではなくって、
リニューアル、つまり新作として作り直そう
という勢いで取り組んできましたので、
要素的にも、内容的にも新しいものに仕上がったと思います。
桜井
タッチペンでの操作もできるようになりましたしね。
成広
でも好みが分かれるかもしれません。
少なくとも僕はボタン操作のほうが好きです。
桜井
えーっ、そうなんですか。
わたしはタッチペンで操作していて、
キャラクターの移動がすごく楽になったなあって。
成広
もちろん、タッチペン操作でも
最大限、快適に楽しめるよう調整しました。
でも、このゲームはもともと
ボタン操作を基本に設計されているんです。
ものすごく気持ちよく動かせるように、
キーレスポンスに関しては命をかけてつくってきました。
レスポンスを悪くすることで、お客さんの思考を切りたくなかったんです。
桜井
気持ちよく操作できるために、
効果音にも気をつかってますよね。
なんかもいいですね。
成広
そのあたりの触り心地に関しては、
アクションゲームにも負けないくらいにこだわってきました。
地味な部分なんですけど(苦笑)。
桜井
直接見えないところこそ重要です!(笑)
成広
やっぱり、任天堂さんの近くで仕事をさせていただいてますので、
見えない部分へのこだわりがヒシヒシと伝わってくるんです。
任天堂のみなさんは、そういったところに本当にこだわるというか・・・
しつこいというか・・・(笑)。
桜井
渋い表情で、そんなこと言わないでくださいよ(笑)。
成広
(笑)。いや、ホントにそう思いますね。