岩田
さて、そのように悪戦苦闘の末に
できあがったDSi LLですが、
3色のカラーバリエーションがどうやって決まったのか、
その話も訊いてみましょうか。
藤野
いつも携帯ゲーム機の色を決めるときは
たくさんの試作品にいろんな色を塗れるんですけど、
今回は開発を急いでいましたので
モデル屋さんで20台のサンプルをつくっていただき、
どの色を塗ろうかと悩みに悩んで、
20色に決め打ちしてプレゼンしました。
そこで「再調整してください」と言われて、
最終的に提案したのが
「ナチュラルホワイト」と「ダークブラウン」です。
岩田
最初はこの2色だけでいく予定だったんですね。
藤野
量産できるのは2色だと言われてましたので。
岩田
ところが、営業部門のほうから
「3色欲しい!」と強い要望が出されたんです。
藤野
はい。
そこで「ワインレッド」を加えることにしたのですが、
いま考えると、3色にしてよかったと思います。
岩田
がんばって3色にしてよかったですよね。
並べたときの見栄えがすごく変わりましたから。
藤野
はい。
ただ、「ナチュラルホワイト」と「ダークブラウン」は
すんなり決まったんですけど、
「ワインレッド」はどんな色具合にすればいいのか、
すごく悩みました。
そこで、社内の人から意見を聞いたりしながら、
最終的にあのような色にしました。
米山
量販店などでお聞きすると、その「ワインレッド」は
シニアの方だけでなく、
若い女性も購入されているという話ですよね。
藤野
若い女性の方に受ける色は
「ナチュラルホワイト」だと思っていましたので
それはちょっと驚きでしたね。
岩田
実際「ワインレッド」は人気色だと思います。
藤野
そうですね。ただ、ツートンにしたおかげで、
作業量が2倍になったのがしんどかったんですけど。
岩田
今回、ツートンカラーにしたのは、どうしてですか?
藤野
もともとDS LiteやDSiのときから
ツートンカラーにしてみたいと思っていたんですけど、
ヒンジ(本体と上ぶたの接続部分)のところが複雑で
うまくできなかったんです
岩田
でも今回は、本体デザインを全部任されたので、
ぜひツートンをやってやろうということですか。
藤野
はい。
ただ、3色ともシックな色合いになりましたので、
シニア向けの商品に見られる傾向があって・・・。
岩田
そう感じておられるお客さんも
決して少なくないようですね。
藤野
でも、それは
デザイナーとして納得できないんです。
岩田
そもそもあのようなカラーリングにしたのは、
シニアのお客様だけをターゲットにしようと考えたからではなくて、
リビングやダイニングのテーブルの上に
DSi LLを置いてほしいという狙いがあったからなんですよね。
藤野
はい。やっぱりビビッドな色だと
ずっと出しておいてはもらえませんし、
テーブルの上に置きっぱなしにするときに
どんな色だったら出しっぱなしにしても抵抗がないか、
それをじっくり考えて選んだ色なんですね。
そのために家具屋さんをずいぶん回りましたし(笑)。
米山
今回はヒンジが2段階で止まるようにしたのも、
テーブルの上でプレイしてほしいからなんです。
岩田
上ぶたを開くと、2段階で止まるんですね。
米山
はい。DSiのときは
155度くらいで止まるだけだったんですけど、
DSi LLでは、それに加えて
120度くらいでも止まるようにしました。
ただ、実現するのはちょっと難しいところもあったんです。
2段階で止めるというのは、携帯電話でも・・・。
岩田
ほとんどのものが1ヵ所しか止まらないですよね。
米山
ええ。
開け閉めする回数の多い商品ですから、
耐久性のことなども考えて、
ふつうは1ヵ所でしか止まらないようにしているんですね。
でも、今回は液晶が大きくなって、視野角も広がって、
周りのみんなもいっしょに楽しめるようになったので、
120度でも止まるようにしたいと思ったんです。
岩田
なるほど。
米山
さらに音がよく聞こえるようになりました。
岩田
実際に購入されたお客さんからも
「音がすごくよくなった」という声もお聞きしていますけど
どんな工夫をしたのですか?
天野
実は今回のスピーカーは、
DSiと同じものを使っているんです。
ただ、DSiのときはスピーカーの穴が横長で・・・。
岩田
小さな穴が左右にひとつずつ開いてましたよね。
天野
なんですけど、藤野さんと相談しながら、
左右それぞれ7個の小さな穴を開けることにしました。
藤野
今回の商品はわかりやすさもとても大事ですから、
これがスピーカーだというのが
すぐにわかるようにしたかったんです。
それに画面もデカくなることですし、
当然、音もデカくしたい、という思いがありました。
ただ、スピーカーはこれまでと同じものですので、
どうやったら大きな音になるか、ということを考えて
試行錯誤を繰り返した結果、
音も大きく聞こえるようになりました。
米山
スピーカーが同じでも
スピーカーエンクロージャ(※5)の体積がありますので
音が大きく聞こえるようになったこともあるんですね。
岩田
先日、久しぶりに
『バンドブラザーズDX』(※6)を遊んだんですけど、
何か、妙にうれしく感じたんですね(笑)。
米山
やっぱり音が大きく、豊かになりましたからね(笑)。
※5
スピーカーエンクロージャ=エンクロージャとは筐体を意味し、この場合はスピーカーの箱のこと。低音が再生されることで豊かな音質になる。
※6
『バンドブラザーズDX』=2008年6月発売のDS用ソフト『大合奏!バンドブラザーズDX』。
岩田
あと、もうひとつうれしいのは、
DSi LLについてくる、大きなタッチペン。
わたしはアレ、隠れたヒットだと思っているんですが。
クラブニンテンドーのお客様のコメントを読んでいても、
評判がいいですよ。
藤野
実はアレ、ナイショでつくってたんです。
岩田
誰からも頼まれもせずにつくっていたんですか?
藤野
そうです。絶対に必要になるだろうと思って、
ずっとナイショでつくっていました。
ただ、大きさが決められていないものですから、
どのくらいの大きさにしたらいいのか、けっこう悩みまして。
岩田
DSi LLの本体に収納するものではないですから、
どんなサイズにしようと、藤野さんの自由だったんですね。
藤野
はい。
自由すぎて、逆に困りました。
太さもどれくらいがいいのかとか、
長さもどれくらいがいいのかとか。
岩田
任天堂はペンをデザインする会社ではないですしね。
藤野
(笑)。
だから、このときは
文房具屋さんをすごく回りました。
岩田
家具屋さんの次は文房具屋さんですか。
デザイナーは足でネタを集めるんですね(笑)。
藤野
はい。そこでいろんなペンを参考にして
最終的にあのデザインにしたんですけど。
米山
そもそもプラスチックで
太いものをつくるのはけっこう難しいんです。
そこで芯を、ボディで覆うようにして、
さらにペン先もありますから、
3つのパーツの組み合わせでつくったんです。
藤野
それで本体の色に合わせて
ツートンにすることもできました。
さらに岩田さんにプレゼンしたときに
「転がらないようにしてくださいね」と
注文をいただいてましたので。
岩田
だって、わたしたちは
「テーブルの上で使ってください」と言っているのに、
せっかくのペンがコロコロ転がるとイヤですからね。
藤野
僕も「確かにそうだ」と思いまして、
制作していただいている会社の方と話していたら、
芯の2ヵ所の部分を、ボディの外側に出さないと
成形できないことがわかったんです。
そこで、片方をペンのクリップみたいなデザインにして。
すると岩田さんのお題にも応えられて、
見た目もペンぽくなって、よかったと思ったら、
また、怒られたんです。
岩田
また怒られたんですか?
藤野
見た目はペンぽいのに、
「どうしてポケットに指せないんだ?」と。
でもそこは、実際にペンじゃないので割り切ったんです。
米山
・・・それも僕が言ったんじゃないよね?(笑)
藤野
違います違います(笑)。
一同
(笑)