岩田
2007年に、大型のDS Liteをペンディングにしたあと、
ニンテンドーDSiの開発がはじまって、
そのとき桑原さんははじめて
ハードのプロジェクトリーダーになったんでしたよね。
桑原
はい。もう、そのときから
DSiができあがったら、デカいDSiをつくるんだ、
ということがほぼ決まっていました。
岩田
わたしも、大型のDS Liteを
ペンディングにしたということもあって、
「DSiは大小の2つ出しましょうよ」とは言っていたんですが、
さすがに同時には進行できなかったですね(笑)。
桑原
すみません、大小2つ同時はさすがに無理でした(笑)。
でも、DSiの開発を進めながらも、
誰も口には出さないんですけど、
スタッフのなかに「次はデカいのをつくる」という
雰囲気があったんです。
そもそもDSiはまずコンパクトにして
持ちやすい方向でつくってましたので、
ますます大きいのが欲しくなりまして(笑)。
ですから、すぐにでもつくりたいと思いました。
岩田
大きいのをつくろうとすると、
はじめは画面サイズの検討からはじまるんですか?
桑原
最初は紙切れに絵を描いていたんです、
液晶のサイズのものを。
岩田
紙に描いて確認していたんですか。
桑原
ええ。
岩田
なんとローテクな(笑)。
桑原
ボール紙をDSi LLのサイズに切って、
それに液晶のサイズを描いたんです。
これくらいがいいかなぁとかやっていました。
米山
その当時は僕、
DSiの量産立ち上げのために中国にいたんです。
そしたら、桑原さんから
なんとも汚い手描きの絵のメールが送られてきまして。
桑原
(笑)
米山
そのときはDSiにかかりっきりでしたので、
そんなものを見る余裕はなかったんですけど。
岩田
まだDSiの量産立ち上げをやっている最中に、
「大きい画面もやりましょう」と相談してきたと。
まあ、そうでないと、この時期に出ていないんですよね。
桑原
ええ。それで、4.2インチの液晶が
使えることになりました。
米山
液晶というのは、1枚の大きな液晶から、
どれだけとれるかでコストが決まってくるんです。
岩田
そもそも液晶は
1枚の大きなガラスの上につくられて、
それを切って1個1個のパネルにするんですよね。
米山
はい。だからロスが出ないように、
効率のいい大きさにすることが大事なんです。
桑原
ところが、4.2インチの液晶が使えるようになっても、
「画面が粗くなるんじゃないの?」と
心配する声が少なくなかったんです。
岩田
実際、DSi LLの発表をしたとき、
そのままの解像度で画面を大きくしたら
液晶のドットがカクカクと見えてしまって、
見た目がすごく悪くなるんじゃないかと
すごく心配されていた方がたくさんいらっしゃいましたよね。
桑原
実は、そういった心配は社内にもありました。
そこで、液晶メーカーさんに来てもらって
デモをお願いしたんです。
すると「大丈夫、全く問題ない」ということになりました。
あと、広視野角の液晶を採用したことも
大きく変わったことですね。
岩田
2年前に大型のDS Liteをつくろうとしたとき、
広視野角の液晶を使おうとは考えなかったんですか?
桑原
当時は、コスト的に採用するのは不可能でした。
でも、2年前よりも値段が安くなってきていて、
広視野角じゃない液晶と比べても
値段があまり変わらなくなってきていたんです。
そこで今回採用することにしまして、
実際に見てみると、横からのぞき込んでも
しっかり見えるようになったのがすごくいいと思います。
岩田
大画面と広視野角が、
今回のDSi LLにとって、すごく相性がよかったんですね。
桑原
はい。
岩田
そうやって使える液晶が決まってきて、
その後にデザイナーにバトンが渡るんですか?
桑原
ほとんどいっしょに動いてました。
藤野
手描きでちょろちょろっと描いたものをポンと渡されて、
これをデザインしてくれと言われたんです。
岩田
で、ちょろちょろっと描いたものを渡された
藤野さんは最初に何を考えたんですか?
藤野
本当には見せるのは恥ずかしいんですけど、
最初につくったサンプルを持ってきまして、
実はコレなんですけど・・・。
岩田
DSiをそのまま大きくしたんですね。
藤野
そのままDSiです(笑)。
デカくなってるぶん、
角のアールを大きくとったりして、
やさしい感じにバランスをとってやってはみたんですけど・・・。
桑原
これをつくったとき、
実は今回のDSi LLの最終的なデザイン案もあがっていたんです。
でも、藤野さんは煮え切らなくて。
岩田
どっちを採用したらいいのか
迷っていたんですね?
藤野
はい、迷ってました。
桑原
もう、わたしとしては
どっちかに早く決めて、
早く終わりたかったんですけど(笑)。
一同
(笑)
岩田
そのままDSiを大きくすれば、
DSiのノウハウのままで、いろんなことが進んで
開発や製造も確実だけど、一方で
お客さんからは
「ただ大きくなっただけだよね」と見られてしまうという
ジレンマが藤野さんのなかにあったんですね。
藤野
はい。
DSiは完成された形でしたし、
DSiシリーズとして、
何かを変えなくてはいけないんですけど、
変えすぎてもダメという、その線引きがすごく難しくて。
米山
でも、今度のDSi LLは
テーブルの上に置きっぱなしにしてほしいという話があって、
それがDSiがそのまま大きくなったのでは
そんな気持ちにはなれない、ということもあったんです。
藤野
そこで、家具屋さんとかをいろいろ回って、
どんな感じがいいんだろうと研究したり・・・。
岩田
それで最終的に、
このトップパネルというアクセントをつけることで
DSiらしさを保ちつつも、ちょっと違う感じになって、
それが、リビングのテーブルに置くものとして、
プラスアルファの価値になるということが
決断の決め手になったんですね。
米山
やっぱり、テーブルの上に置いて、
家族の誰かが触りたくなる感じが大事だったんです。
藤野
デザインをはじめた頃は
やわらかくやさしい印象にするために、
角のアールを大きくとるようなデザインにしたんですけど、
すると、デカくて、やぼったい感じになってしまったんですね。
それをなんとかしたいと思いまして、
透明感のあるトップパネルを貼ることで
見た目はやわらかいんだけど、どこかピシッとした、
そういうデザインをめざすことにしました。
さらにトップパネルにはふくらみを持たせて
まるでお椀に水を張ったような感じを出そうと・・・。
岩田
ああ、なるほど。
水の表面張力のイメージなんですね。
藤野
はい。
桑原
ところがこのトップパネルが
すごいくせ者だったんです。
藤野
僕のわがままのせいで
みんなに迷惑をかけることになってしまいました。