問題の文章に関して、
いろんなことを指摘された以外に
「任天堂はこんなふうにして料理するのか」と
印象に残ったことはありますか？

経済の問題は
大きく分けて２種類ありますが・・・。

「知力で解く」と「感覚で解く」の２つですね。

はい。
「知力で解く」の問題では
平均して６〜７問を１パックにまとめて、
ひとつの経済テーマを理解するようになっているんです。

１パックを解くと
ひとつのテーマがだいたいわかるようになると。

ええ。
「階段」にたとえると、
１パックに５問の問題がある場合は５段の階段をのぼって、
ひとつのテーマを理解するような構造なんですね。
ところが、つくった問題をお見せすると、
「スタート地点が高すぎませんか？
もっと地べたから上がるようにしましょうよ」と。

（笑）

それで、地べたから問題をはじめるようにすると
１つの段の高さをもっと高くしないと、
目標の高さまで届かないんです。
そこで問題をつくり直してお見せすると、今度は
「１段が高すぎませんか？これじゃあ普通の人はのぼれません」
と言われまして。

どうしたらいいのと（笑）。

ホントに「どうすればいいんだ！？」と思ったんですが、
「２つに分ければいいじゃないですか」と、
涼しい顔でおっしゃられるんです。

つまり、１パックを２つに分けて
５段ずつ、計１０段にすればいいと。

「ああ、なるほど」と（笑）。
１回のパックで最後まで上がらせようとすると
とてもキツイ階段になってしまいますけど、
２回のパックで最後までわかってもらえればいいと。

１個、１個の段は低くても、
気がついたら目標の高さに着くということですね。

そうです。
それに、どうしても我々がつくろうとすると、
いい意味でも悪い意味でも
「ちなみにこんな話もあります」というオマケも書いちゃうんです。

知識がいっぱいあるから、
サービス精神で書き足しちゃうんですね。

でも、その結果、とても長くなったり、
かえってわかりにくくなったりしてしまうんです。
そこで、ひとつのテーマだけに集中して、
わかりやすいものにすることにしました。
こういう構成で問題をつくるのは、
新聞記事を書くのとは違う視点が必要となってくるので
とても新鮮でしたし、
「なるほど、こういう手があるんだ」と
勉強になりました。

わたしたちがゲームをつくるとき、
１度にたくさんのことをお伝えしようとしても
ついてきてもらえないということを
経験的に学んでいるんです。

なるほど。

お客さんにはいつでもコントローラを置いて
やめてしまう自由があるんですね。
最後までやらなきゃならないという義務もないんです。
そういったお客さんに対して、
「あと３０分がまんして遊んでくれたらぜったいに面白くなるから」
と言いたくても、「もういい」と感じられてしまえば、
容赦なくやめられてしまうのがゲームです。
わたしたちはそういったことに日常的に触れていますので、
わかりやすくするということに関しては、
異常なくらいこだわりを持っているんです。

そうなんでしょうね。

さて、今回のようなプロジェクトは
日経さんにとって、初めての取り組みですよね。

そのとおりです。

ですから、日経さんの社内での調整に関しても、
さまざまなご苦労があったと思うんですが・・・。

初めての取り組みではありましたけど
新規プロジェクト全般の担当役員だった
喜多恒雄（現・日本経済新聞社社長）が
当時、とても面白がってくれたんです。

そうだったんですか。

新規事業の予算を取るため、企画を申請したら、
比較的スムーズに承認のはんこが押されて戻ってきたと
記憶しています。
もともと日経という会社は、
部長から役員まで全部に通すという
日本的システムが重かったりするんですけど、
承認してくれた喜多が社長になったものですから、
ある意味で水戸黄門の・・・えーっと・・・。

印籠ですか（笑）。

そうです、そうです（笑）。
それで、スムーズに進めることはできたと思います。

もちろん、スムーズといっても
やっぱりいろいろありまして・・・。
新聞の記事部分をつくる場合なら、
基本的に編集局だけですべてが完結します。

はい。

ところが今回は、
我々が所属する教育事業本部だけでなく、
編集局や営業部門、そのほか社内のさまざまな部署がかかわる
大きなプロジェクトに育ったものですから、
勝手にできなくなった部分もありました。

いろんな部署に話を通さないといけないと。

はい。
たとえば「」と
任天堂さんから提案されて「それは面白い」となっても、
日経新聞の見出しをゲームソフトに出すようなことは
まったく前例がなかったんです。

誰の許可をとったらいいの、と？（笑）

ええ。
そこで法務部門に許可を得ようとすると、
「そういうことをしたことがないし、どうルール化しようか？」と
そこから話がはじまるんです。

でも、本物の見出しが読めたほうが、
魅力は圧倒的に増すんですよね。

そうですね。
場合によっては、見出しに矢印を付けたりとか。
「赤く囲ってもいいでしょうか？」
「えっ？見出しに手を入れるのは・・・」
という話になるわけです。

確かに（笑）。

で、何か新しいことをやるたびに、
果たしてこれは進めていいことなのか、
法務部門なり広報部門なりと
相談する必要が出てくるわけです。
結果的に全部ＯＫは出るんですが・・・。
今回この場には来ていませんが、
滝沢（孝宣）という、
教育事業本部の担当次長が、
そういった事務的なことを一切合切やってくれました。

部門間を走り回ってくださったんですか。

はい。
「」というのがありますよね。

音声でニュースを読み上げるんですよね。

ある打ち合わせのときに
「音声で読み上げる部分を、『日経ＤＳニュース』という
架空のニュース番組に仕立てたらどうでしょう」と
わたしが軽く言ってしまったんです。
すると任天堂さんも「いいですね！ぜひやりましょう」
と乗ってくださったんですけど、
ふと隣に座っていた滝沢を見ると
どんよりと暗くなってるんです。
ひとりだけ下を向いて（笑）。

（笑）

また仕事が増える（笑）。

で、案の定、滝沢はその後、
「架空のニュース番組に
“日経”と入れていいのか？」ということで、
社内を走り回るハメになりました。