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激闘!カスタムロボ :: カスタムロボ ちょっといい話


第6回「ジオラマとポージング」 2007.2.21

 今回はジオラマとポージングについてです。


 『激闘!カスタムロボ』でバトルモードとともに力を入れたのが、このポージング&ジオラマモードです。なかなか他のゲームにはない遊びで、かつ『カスタムロボ』に合致した要素だという点で、個人的に今回の新フィーチャーの中でもっとも気に入ってます。


ゲーム画面 DSでカスタムロボを開発するに当たり、まず最初にスタッフ間でどんな新要素を入れるべきかをいろいろ話し合い、そこで順当に出てきたのが、もっとロボットをいじりたい、という意見でした。以前からカスタマイズでパーツを付け替える作業が楽しいという話はあり、特にロクヨン版ではボタンに対応したいくつかのアクションポーズを取らせることができるという仕様があって、これがヒントになりました。
 カスタマイズしたロボを自由に観賞したい→パーツだけでなくポーズも変えたい→既定のポーズ集から選ぶのではなくタッチスクリーンで自由に変えたい→背景も選べると楽しい→それはつまりジオラマだ! という発想でイメージが出来ていった感じです。


 ポージングの操作システムは随分いろいろ試しました。普段CGツールをいじってるデザイナーに意見を聞きながら、プログラマに頑張って試行錯誤してもらったのですが、面白かったのはセクションごとに出てくる意見が異なることでした。
  デザイナーに制作途中のポージングモードをテストプレイさせると、相当ややこしい操作システムでも簡単に思い通りのポーズを作っちゃうんですね。それはそうです。普段から仕事で3DCGツールを使いこなしているのですから。デザイナーのテストプレイは、参考になりそうで参考にならないぞ、と。


 ちょっと専門的な話になるのですが、人体のような関節を持った3Dモデルのモーションを制御する場合、大きく分けて2種類の方法があります。一つは「フォワードキネマティックス(FK)」、もう一つを「インバースキネマティックス(IK)」といいます。
 FKというのは、モデルの根元を基準に動かす計算方法です。例えばひじを折り曲げた状態で二の腕(上腕)を前後に動かすと、腕全体がそのまま前後に動き、走っているときの腕の振りのようになります。これがFKによるモーションです。
 これに対してIKというのは、モデルの先端(末端)に他の部位が引っ張られるような動きをさせる計算方法です。操り人形の腕を引っ張ると、それに追従して体全体がクタッとついてくるような動きです。


 試作では両方を作ってみました。いかにも人形をいじってるような感触はIKの方が出るので面白いと思ったのですが、思い通りのポーズを取らせるのが難しいんですね。FKの方が動きは硬い感じになるのですが、慣れれば確実に思い通りのポーズが作れます。どちらも一長一短があるので、部位によってIKとFKを使い分ける実験などもしたのですが、IKはどうやっても初心者向けにできないところがあって、最終的に全てFKで統一しました。


 背景のジオラマについては、最初にスタッフ全員にアイディア出しをしてもらいました。まさに何でもありで、好き勝手に数百種類は案を出してもらいました。結局使わなかった案の一例を挙げると、教室、コタツ、露天風呂、ラーメン屋台(店のおじさん付き)、大奥、孫悟空のお釈迦様の手の上などなど……。

ゲーム画面 ポリゴン数などの制限があるにしても、やろうと思えば案外どんなものでもジオラマ化できるのですが、方針として「カッコいいジオラマをメインとする」ことにしていました。その上で、適度にギャグっぽいジオラマもちりばめる感じです。笑えるネタも大切だと考えていましたが、それはあくまでカッコいいジオラマがあるからこそ引き立つものなので、比率としてこれは逆転させないよう気をつけました。それに、どんなクールなジオラマでもポーズ次第でいくらでもギャグにできるのですが、その逆はやりにくいということもありますし。


 ニンテンドーDSというハードの発売以来、多くのソフトで今までにない新しい遊びが提案されていて、僕も刺激を受けることが多いのですが、今回のポージングとジオラマもちょっとだけそういう意識がありました。
 現実世界におけるジオラマという趣味は、マニアックなものですが、熱心な人も多く、楽しい世界です。それをデジタル上で行なうというのは、一つのアイディアだと思うんです。細かい手直しや、空を飛ばしたり、地中に潜らせたりなんてことが簡単にできるとか、モーション、アニメーションがつけられるという独自性もあります。
 まあ、そうやって進めていくと、最後はCGムービーを作るということになっちゃうのかもしれませんが、誰でも手軽に自己表現ができるツールとして、こういうものもありでは? と思って作ったのですが、どうでしょう。カスタムロボじゃなくても、何か他のロボットアニメとか特撮番組の世界でもこれができたら楽しい気がします。


 もちろん、今回『激闘!カスタムロボ』でも、さらにできることはあったと思います。地表面の自由な座標に配置できるようにするとか、いろんなエフェクトが出せるようにするとか、ジオラマに対するロボのサイズ比を変更できるようにする等々。とは言え、開発者としては新しい何かを模索する楽しさがありますが、そういうものを深めていった先にどれだけのニーズがあるかは何とも言えず、難しいところだとは思っています。
 ただ、何にせよ今回、作ったジオラマをWi-Fi対戦などで通信相手に見せられる仕様にできたので、そこはすごく良かったです。楽しいジオラマを作っても、それをゲームの側で評価する方法はないので、Wi-Fiのおかげで楽しみ方がとても広がったと思います。


 最後に、ジオラマについて一つマメ情報を。ポージングのときに、ポーズリセットで「はい」を選択するときにLボタンを押しながらだと「大の字」のポーズにリセットされます。基本のポーズにバリエーションがあると良いかと思って入れた隠し要素だったのですが、シナリオ内で説明しておくべきだったかもとちょっと後悔……。


ゲーム画面 ゲーム画面

 さて、コラムは今回で最終回になります。
 『激闘!カスタムロボ』ではWi-Fi対戦が実現し、一つの大きな夢をかなえることができたと思います。環境を用意してくださり一緒に作ってきた任天堂にも、熱心にプレイしてくれている全国のコマンダーの皆さんにも、本当に感謝しています。


 これまでお付き合いいただき、ありがとうございました。またいつか皆さんにお会いできる日を楽しみにしています。