岩田
あと、社外の開発者のみなさんに
指摘されてきたことなんですけど、
HD対応かどうか、ということも含めて、
「他社さんのハードでは実現できるけれど、
Wiiでは実現が難しい」ということが、
これまでは、どうしてもあったと思うんです。
岩田
「Wii U」では、そういう制約を
なるべくきれいに取り除きたかった
っていう意識もあるんです。
このハードで、あらゆるものをつくる人たちに対して、
“挑戦状”というと少し大げさですけど、
「あなたのつくっているものは、新しい構造を使ったら
長所を全部活かしたまま、もっとおもしろくなりませんか」とか
「あなたが長年抱えていた課題を解決するきっかけが
この構造にはありませんか」というような
提案をしていきたいと思っているんですね。
宮本
そうですね。
それは、まあどっちかっていうと、
自分にとってそうなんですけどね。
岩田
今回提案する新しい構造で、
自分たちの身の回りで長年感じていた、
「こういうことを解決したいんだけど」っていうことを
たくさん解決できることがわかったので、
私たちは「これは筋がいい」と感じているわけですね。
それは、きっと社外の開発者の方にも
感じていただけるはずだし、
宮本さん以外の開発者の人たちも
そう思うんじゃないでしょうか。
宮本
そう思ってもらえると、
プレイスタイルもずいぶんと新しいことが可能になるし、
以前のプレイスタイルの中で限界になっていたことが
変わる場合もあるでしょうね。
いろいろ長い間議論しましたけども、
ネットワークにつながっている状態では
この新しい構造で何ができるのかという話は
いろいろできるんですけども、
じゃあネットワークにつながってない人にとって
この新しい構造はどういう価値があるのかということも
ずいぶん議論しましたよね。
宮本
その中で、両方に対してのある答えを準備することも
少しはできるようになってきたという気はしますね。
岩田
ネットワークにつながってない人にとっての答えの中で、
宮本さんがいま一番注目している可能性はどこですか。
宮本
新しいコントローラが可能にする
新しいマルチプレイのプレイスタイルはもちろんですが、
ふだんのテレビ放送に対してのゲームのあり方ですよね。
いまはやっぱりゲームというものが、
「子どもさんがゲームを遊んでしまうと
親御さんはテレビを取られる」となり、
「親御さんがテレビを見ていると
子どもさんは遊ばせてもらえない」
という構造になりがちですが、
新しいコントローラによって、
明らかに共存できるような形になってきましたし・・・。
岩田
これまでは、その対立によって、
「リビングルームにゲーム機が来ることはすばらしいことなのに、
リビングルームにゲーム機を呼んでしまったので
皮肉なことに遊ぶ時間が制限されてしまった」っていう、
別の問題が起きていたわけですよね。
岩田
新しいコントローラは、
それを違う形で解いているということですね。
岩田
もうひとつ、Wiiが発売されてしばらくして、
ゲームメディアやゲームファンのみなさんの認識が、
Wiiはファミリーでカジュアルな機械
というポジショニングとなり、
マイクロソフトさんやソニーさんのゲーム機は、
非常に似たポジションで、
ゲームを熱心に遊ぶ人たちのための機械、
というようなものになりましたよね。
いわゆる、カジュアル向けとコア向けという分け方です。
私自身は、コアゲーマーという言葉の定義はもっと広いもので、
いろんな方向への新しいチャレンジに、
貪欲につき合ってくださるのが
コアゲーマーの定義ではないのかなと思っていたので、
ステレオタイプなコア対カジュアルという言い方には、
違和感を感じていました。
その一方で、
Wiiがすべてのゲームを好きな人たちの
すべてのニーズに応えられたとは
もちろん思っていませんから、
そのこともちゃんと解決したいと思っていました。
今回のE3でのプレゼンテーション上のキーワードでは
「deeper and wider(より深く、より広く)」としましたが、
私自身はこの「Wii U」で
そういう提案をしていきたいと思っているんです。
当然、Wiiのときには、widerはすごくやっていたと
だれもが認めてくれていたと思うんですが、
deeperもある部分ではかなり取り組んだはずですが、
それが世の中の認識では、
「ああ、任天堂はカジュアルね」というふうに
どんどんなっていった印象もありますから。
そもそも、いまのコア向けのゲームと呼ばれているものの
構造の基礎のある部分は、
間違いなく宮本さんのアウトプットが
元になったはずなんですから。
宮本
そうですね・・・
どうしてもコアとカジュアルというように
ジャンル分けされたほうが認識しやすいので、
メディアのみなさんにもそういう傾向はあるんですけども、
ゼルダなんかを見てもらったらわかるように、
任天堂には、かなりコアなつくり込みをする
メンバーがそろっているんですね。
ですから、僕ら自身はあまり意識していないんです。
ただ、「HDという選択をWiiのときにはしなかった」
ということが、いまコアとカジュアルを
分けている大きな要素になっていて、
もちろんそれ以外にも、
コントローラの問題、課題とか、
ネットワークの機能とか、
いろんなものはあるんですけど、
やっぱり一番みなさんにわかりやすいところでは
HDが大きなポイントだったんじゃないでしょうか。
今回のハードというのは、
HDとしては同じようなことができて、
その上に、この新しいコントローラを使う
新しい構造が付加されているんですね。
だから、いままでのコア向けと呼ばれるゲームが、
さらにおもしろい構造に発展するチャンスを
持っていると思うんですよ。
そういう意味では、コア、カジュアル関係なく
いろんなゲームが出てきたらうれしいなと思っていますね。
岩田
いまの、コア対カジュアル論は、
何か解けない対立のように論じられているんですけど
今回の「Wii U」の提案で、そのコアカジュアル論が
変わる可能性があると思うんですよ。
いままで、両者の間にあった障壁は、
何となくのイメージで、
実は心理的なものにすぎないのではないか、
とも思うんですね。
たとえば、ゼルダは間違いなく
骨太なお客さんのゲームとして
ずっとつくられ続けてるわけで、
任天堂にそういうものがないわけじゃないんですよ。
それなのに、心理的には「任天堂=カジュアル」と
考えておられる方も多いんです。
この「Wii U」で、
ちゃんとその心理的な壁が壊せていけたら、
「ゲーム人口拡大」という私たちの目標が、
次のステップに行くというか、
お客さんの数が増えて、新しい人が入ってきて、
その人たちの中から、もっと凝った操作、
深い遊び込みの要素に反応してくれる人たちが育っていって、
結果的にその人たちがものすごく熱心な
ゲームのファンにもなってくれる
ということが可能になると思うんです。
そもそもゲームの歴史ってそうだったはずなんですから、
その流れがなくならないようにしたいと思っているんです。
それが、本当の意味での“みんなのゲーム”なんですよ。
“みんなのゲーム”というのは、
ただ広いだけじゃなくて、
深さを持ったみんなのゲームだと思うんですね。
宮本
そうですね。
今回は、リビングに置いても、
プライベートの部屋に置いても、
それなりの機能を発揮するという機械に
なってきたような気がするんですけどね。
岩田
では最後に、任天堂がこの「Wii U」を、
お客さんにお届けするにあたって、
世界中の、これを見てくださっている方々に、
宮本さんからのメッセージをお願いできますか?
宮本
そうですね・・・。
やっぱり長いビデオゲームの歴史の中で、
やっと任天堂のハードだけで遊べるようになりました、
ということですね。
いつもテレビにお世話になっていたけど、
やっと親から独り立ちしました、
みたいな感じなんです(笑)。
宮本
この機能が、たぶん、
いろんな据置型のビデオゲームの
限界を変えていくと思うので、
世界中のゲームをつくっている人たちが
何を生み出してくれるのか、
期待して見ている部分もあります。
みなさんに積極的に生活の中で使ってみてほしい、
と思っています。
岩田
僕らが長年議論した、
「リビングルームにある新しいゲーム機の姿」、
「ゲーム機の使われかた」が、
この構造でいかに実現できるのか。
それは、責任重大だとも思うし、わくわくもするし。
そんな気持ちで、これから発売に向けてがんばります、
っていうことですね。
宮本
はい、そうですね。
家でもフルに使われる機械にしたいと思っています。
「これなしの生活には戻れない」と、
そんなふうに、なればいいなと思っています。
岩田
これを読んでおられるみなさんだけじゃなく、
みなさんの家族全員にそう思ってもらいたいですね。
今日はありがとうございました。