3. 5秒で魅力を伝える
岩田
早矢仕さんがプロジェクトを任されてから、
これまでつくってきたものはどんな作品があって、
その時々で、どんなことを考えてこられましたか?
早矢仕
当時、Team NINJAのなかでは、
もとあるゲームを移植してさらに多くの方に届けるという、
ひとつのラインを横に広げる役割が多かったんです。
といっても単なる移植ではなく、
それ単体でもきちんと価値を持たせる必要がありましたし、
遊んだことがある方にもご満足いただけるものでないといけない。
お客さんに「ここが変わったね」とわかってもらえないと、
買っていただけませんから。
岩田
「なんでここを変えちゃったんだ?」と言われてはいけないし、
「なんでここを変えていないんだ!」と言われてもいけないので。
早矢仕
そうですね。
開発者として「ここを直したい」「よくしたい」と思っても、
なかなかお客さんに伝わらないところが悩みどころです。
任天堂さんの『マリオギャラクシー 2』(※10)を拝見すると、
“ヨッシーに乗れる”ということが、
『2』の絶対的なアイコンになっていますよね。
岩田
『マリオギャラクシー』(※11)から『2』になったとき、
確かに、ヨッシーに乗ったマリオが画面に登場することで、
前作と大きく違う印象になっていますね。
早矢仕
「この星のステージで遊べることが前作と違いますよ」では、
パッと見、前作の別のステージといっしょなので、
なかなかお客さんには伝わりませんからね。
『2』の出し方を見て、そんなことも参考にしています。
またそれとは別にDSソフトの『NINJA GAIDEN Dragon Sword』(※12)
というタイトルも担当したんですが、これははじめからではなく
「ちょっとうまくいっていないので何とかしてくれ」
ということで、途中から入ったんです。
岩田
そういう場合、最初からやるより難易度が高いですよね。
早矢仕
はい。じつは、これは僕にとって心残りのひとつなんですが・・・。
僕が入った時点で、ゲームはある程度できていたんですけど、
いまひとつ、魅力が足りないと感じたんです。
でも締め切りが迫っていたので、「タッチペンを駆使した
アクションゲーム」としての面白さだけに特化しようとしたんです。
それはある程度達成できたと思いますし、
お客さんからも評価いただきました。
でもそもそも、携帯機の遊び方は、据置機とは
ライフスタイルを含めて違うものになるはずなので、
本当は遊び方そのものを変えなければいけなかったんです。
岩田
生活のなかにゲームがどのように入るのかは、
据置機と携帯機では違っているんですよね。
基本的に、据置機はまとまった時間に
気合いを入れてテレビの前に座ってはじめるものですけど、
携帯機は持ち歩いて、空き時間にちょっと出して遊んだり、
寝る前に遊んだりといった遊び方をしますから。
早矢仕
そうなんです。ですから、今回
『DEAD OR ALIVE Dimensions』を
3DSで出していくうえで、
そのときのリベンジをしてやろうという想いがありました。
今回はいちから自分で立ち上げられたので、
携帯ゲーム機の遊び方として僕が思っていたことを、
きちんと出せたかな、と思っています。
岩田
携帯機の『DEAD OR ALIVE』はこうあるべき、
と最初から考えてアプローチできたんですね。
早矢仕さんはこれまで、『NINJA GAIDEN』以外は
据置機を担当されていたんですか?
早矢仕
そうです。
据置機と携帯機のやり方の違いは、
頭のなかでその違いを考えながら進めてきました。
岩田
ゲームの進行テンポから何から、全部変わるんですよね。
そもそもゲームの“間(ま)”が違うし、
どういうテンポで何を間に挟むべきかが変わってきますよね。
早矢仕
はい。たとえば携帯機は短いテンポで
区切りを用意しないといけないものですよね。
その視点で言えば、じつは格闘ゲームは
携帯機に合っていると思うんです。
岩田
もともと、アーケードで生まれた格闘ゲームというジャンルは、
短い時間で決着がつくところからスタートしていますからね。
本来は、こまぎれの時間をうまく使うことに
向いているゲームデザインのはずだということですね。
早矢仕
はい。だからこそ、ぜひ3DSソフトは
『DEAD OR ALIVE』でいきたいと思っていました。
岩田
Team NINJAさんにとって『DEAD OR ALIVE』という
ソフトの位置づけや、徹底的にこだわっている部分はどこですか?
早矢仕
じつは“5秒で魅力が伝わる格闘ゲーム”
という僕なりのコンセプトがあるんです。
岩田
5秒。勝負は5秒間なんですね。
早矢仕
はい。それこそゲームセンターに置いてある場合は、
たとえば筐体の画面をパッと5秒くらい見たら、
通りすぎてしまいますよね。
僕はアーケードゲームを直接つくってはいないんですが、
たとえばキャラクターが戦闘中、
ステージから落ちたり、壁に叩きつけられたりする派手な演出が
5秒でお客さんを惹きつける。
そういう格闘ゲームを目指しているんです。
このゲームを知らない人でもパッと見て、
しかも言葉ではなく動いているもので伝わるということが、
僕らの『DEAD OR ALIVE』としてあるべき姿だと、
いつも話をしています。
岩田
5秒というのは、初期のころから使われている言葉なんですか?
早矢仕
はい。『DEAD OR ALIVE』の魅力をスタッフに語るとき、
みんなが納得しやすいものとして僕が言葉にしたものです。
岩田
早矢仕さんがつくられた言葉なんですね。
早矢仕
はい、そうです。30秒のCMだといろいろ伝えられるんですが、
5秒は本当に一瞬なんですよ。
岩田
5秒のハードルは高いですね。
早矢仕
はい。でも僕らのルーツをひも解くと、
やはりゲームセンターでつくった格闘ゲームなので
そういうことなんじゃないかなと意識しています。
岩田
わたしの印象ではTeam NINJAさんのゲームには
“華”のある派手さを感じます。
早矢仕
あ、それはいい表現ですね(笑)。
多分、「5秒」っていうことを別の表現で
置き換えていただいているんだと思います。
岩田
一方、ただ華のある派手さを追求するなら
ムービー型演出に持っていくという方法もあるんですが、
『DEAD OR ALIVE』の場合は、
あくまでゲームの流れのなかで華を持たせている感じがします。
以前、登場いただいた「社長が訊く」でもお訊きしましたが、
『METROID Other M』(※13)で
サムス(※14)がかっこよく動くのを見て、
「Team NINJAさんがこだわりを持って
表現しているところがここなんだな」と感じましたから。