岩田
ゲームの構造としては見通しが立つとしても、
今回の場合、参加作品の数から見ても
物量との戦いになることは容易に想像できるんですが、
そこはどうやって乗り越えたんですか?
森住
基本的に、全部わたしが見ています。
主人公側だけではなく、
敵のサブキャラクターひとつとっても、
それぞれ必ず原作の設定がありますから、
具体的に指示書をつくって、
あがったモノを全部チェックして進めました。
岩田
敵キャラも気を抜けないわけですよね。
ファンのみなさんの期待に応えるためには。
森住
はい。そういうポイントって、
資料だけではわからないので、
プレイしてつかむしかないんです。
ですから、まずわたしのほうですべてプレイして、
そこをつくるスタッフには
「これを参照して」っていうデータを用意したり、
マップならマップの写真を撮って、
ピンポイントで指示を出して、時間を節約するんです。
まあ、そこまでやるのがたいへんで、
開発最初の半年間くらい、ずっとそのために
ゲームを延々とプレイしていました。
岩田
いや、なかなかありえないんですよね、
いまの時代にそういうつくりかたは(笑)。
塚中
全体がものすごいボリュームになることは
開発当初からわかっていたことではあったのですが、
じつはこのゲーム、けっこう少数精鋭でつくっています。
中核にいるスタッフが、
職人的な仕事さばきでこなしているんです。
岩田
少数精鋭なんですか? すごい物量なのに。
森住
こういったキャラクター作品を扱うときは、
「大人数でたくさんつくるよりも、
わかっている人間がつくるほうが速い」
というのが我々の経験で得た結論でして、
たとえば、キャラクターのバトルシーンの
ドット絵の原画は、敵以外は全部ひとりで描いています。
岩田
え? ひとりですか!?
森住
はい。パーツの動かしかたとか、
たとえば髪の毛をドットで描くときには
全部分割して描かなければいけないんですけど、
普通の原画マンではできないんです。
岩田
あー、本当に特化された、職人の世界なんですねえ。
森住
そのスタッフは、斉藤和衛さんというフリーの漫画家の方で
わたしと一緒に『スーパーロボット大戦』の頃から10年以上、
こういった原画を描く仕事をしている人間です。
今回は物量的にさすがに全部はできなくて、
ボス級の敵はもうひとり、別の方に頼んだんですけど、
ふたりで全原画をあげています。
土屋
その話、いまはじめて聞きましたけど、
それはすごいですね・・・!
森住
「どうすれば少ない枚数で動きを表現できるか?」
といった技術に精通したスタッフなんです。
この世界の表現に落とすにはどうすればいいかを
瞬時に割り出すことができるんです。
岩田
バトルシーンのドットキャラ以外にも、
カットインしてくるリアル頭身の絵だったり、
立ち絵などもありますけれど、
そちらもクオリティーを統一する必要はありますよね。
森住
カットインと立ち絵も、ひとりでやっているんです。
岩田
えっ? それもひとりなんですか!?
森住
ひとりで、時間をかけてつくっています。
やはり今回、絵柄の統一が必要だったので、
複数の人間にやらせてしまうと、
作品ごとに絵柄が変わってしまうんですね。
ただでさえ別のゲームなのに、
そこで違和感が出るのは
どうしても避けなければいけないので。
岩田
うーん・・・驚きました(笑)。
森住
「何年前の話?」ってなりますよね。
「スーパーファミコンの頃じゃないんだぞ?」って(笑)。
岩田
まぁ、最近は、
こういうつくりかたは聞いたことがないですね。
森住
でもやっぱり
「一を言って十をわかる人」じゃないと、
結局、わたしが対応できる時間にも限界がありますし、
修正ばかりだと結果、もっと時間がかかるんです。
岩田
29作品すべてを、原作者が認めるまでの
レベルに仕上げるわけですからね。
森住
はい。
寺田
でも、1タイトルの中に
『サクラ大戦』シリーズだったら6キャラいて、
それぞれ立ち絵も10枚くらいはあるんです。
本当、ひとりでやる物量じゃないというか、
ちょっと、考えられないですね、それは(笑)。
森住
少数精鋭とはいっても、当然チームとして
つくっているゲームではあるんですけど、
少なくとも先にあげた
旧知の熟練スタッフがいなければぜったい無理でした。
本当に特殊なつくりかただと思います。
寺田
バラバラな絵柄のゲームが集まっているのに、
不思議とこの作品内でのイメージ統一が取れているのが
ずっと不思議だったんです。
ようやく謎が解けました。
森住
こちらは春山和則さんという
フリーのデザイナーの方なんですが、
お世話になりっぱなしです(笑)。
塚中
モノリスソフトさんの中に、そういう島があるんですよ。
社内に入るとわかるんですけど、
高橋(哲哉)さん(※26)のチームとは、空気があきらかにちがう、
“クロスゾーン島”というか・・・。
森住
巌流島って呼ばれています(笑)。
一同
(爆笑)
岩田
やっぱり『プロジェクト クロスゾーン』は、森住さんの
ゲームの歴史を結晶化させたゲームなんだと感じました。
自分がプレイヤーとして遊んできて、
それぞれに感じた魅力を抽出して、
それをひとつの世界をつくる。
それを、もともと『スーパーロボット大戦』などで
たくさんの物量と戦い慣れている人たちが
職人的な勘と技術でつくりあげる、
そういう話を訊いている気がします。
森住
そのつもりでやっぱりやらないと、
本当の意味でお客さんと向き合えないと思うんです。
もうゲームをやっていると、職業病じゃないですが、
全然関係ないゲームでもつい
「ここセーブデータ残しておいたほうがいいかなあ?」
とか考えちゃったりしますから。
岩田
職業病ですね(笑)。
森住
はい(笑)。
そういう意味では、
純粋にプレイヤーとして
楽しめてないのかもしれません。
岩田
いや、それが森住さんにとっての
楽しみなんじゃないですか?
森住
ああ、たしかにそうです(笑)。
自分がゲームを遊んで得た何かを土台に、
そこから自分の手で、
さらに新たな何かを実現するというのは、
考えてみれば、普通のユーザーさんよりも
とてもぜいたくな楽しみかもしれませんね(笑)。
塚中
そんなわがままを
聞いていただいた各社さんには、
感謝してもしきれないです、本当に。
森住
最初は「厳しい意見もいただくかもしれない」と
思っていたんです。
「そうなったらどう交渉しようか」とも
思っていたんですけども、
絵にしても、セリフにしても、
ほとんど要望をくんでいただけて・・・。
塚中
企画の相談をしたときが1回目で、
初監修のときが、2回目のターニングポイントでしたね。
土屋
そうですね。
立ち絵ですとか、カットインですとか。
絵柄のチェックであると同時に、
描き手さんが世界観などをどのように理解されているのか、
確認しあう場だったと思います。
岩田
はじめての監修って、
「これならまかせて大丈夫だ」になるのか、
それとも「これではまかせられない」になるのか、
見極める場でもあるんですよね。
土屋
はい。
岩田
そこでつまずくと、その後、
どう直しても妥協で終わってしまうわけで。
けれども、そうならずに進めたのが、
このプロジェクトのすごく運のよかったところでもあり、
このプロジェクトが成立した必然のポイントなのかもしれませんね。