4. 3Dアニメの最先端を
岩田
はしもとさんが、今回ニンテンドー3DSで
はじめてゲームをつくるにあたって、
3DSを「どう活かしてやろう」って
思われましたか?
はしもと
正直なことを言うと、
最初に3D立体視というのを聞いたときは、
「うーん、どうしようかなぁ」
って思うところはありました。
立体視が生む楽しさやインパクトというのは
すごくわかったんですけど、
『牧場物語』も『ルーンファクトリー』も、
じっくり、長ーく遊んでもらって、
じわじわ楽しくなるような
タイプのゲームでしたから。
岩田
インパクトだけで「すごい!」とか、
「迫力たっぷり!」っていうゲームではないので、
「必ずしも立体視という特徴との相性が
よいものではないんじゃないか?」
ということですよね。
はしもと
そうですね。でもだからといって、
「立体視は使いません」って割り切ってしまうと、
つくり手としては負ける気がしたんです。
岩田
はい(笑)。
はしもと
そこで3DSで最初につくった
『牧場物語 はじまりの大地』(※14)では、
奥行きを活かせる“だんだん畑”を盛り込んだり、
カメラを上げたときの立体視の視差を
内部的に切り替えて、調整しています。
「3DSになったから『牧場物語』は
こんなにおもしろくなった」って
思ってもらえるものを、目指しました。
岩田
立体視以外にも、
新しいチャレンジはできましたか?
はしもと
大きなテーマとして
「フル3Dで、かつてない
スケールの大きい牧場の物語」
という目標があったんですが、
具体的には自分が住む牧場に
家やオブジェを自由に設置して
「自分好みのオリジナルの牧場をつくれる」
というシステムがいちばんのチャレンジでした。
・・・企画会議で自分が話した瞬間、
現場のスタッフたちは凍りつきましたけど(笑)。
岩田
まあ、言われた側は
「どうやって実現するんだ?」ってところから
考えはじめますからね。
はしもと
そうですね。
それで黙ったり、暗くなったり・・・(苦笑)。
でもなんとか形にすることができました。
岩田
先に発売された『牧場物語』は、
わたしたちから見ても
お客さんにとても高く評価されている感じが
伝わってきているんですが、
はしもとさんはどう感じられていますか?
はしもと
最初、やっぱりドキドキして
見守っていたんですが、
発売後の手ごたえは、おおいにありました。
岩田
タイミング的にもハードが普及して、勢いが出て、
ちょうど「さあ、次は何を遊ぼう?」って
お客さんがたくさんいらしたよい時期でしたよね。
はしもと
はい。でも自分はちょっとどん欲なので、
まだ満足していない部分はあります。
評価に関しても、より喜んでもらえるものを
つくっていきたいと思っています。
岩田
『牧場物語』と『ルーンファクトリー』では
お客さんの層、具体的には性別や年代などは、
けっこうちがうんですか?
はしもと
ええ、まず『牧場物語』は年齢で言うと
下は小学生くらい、上は20代以降の
幅広い年代の方に遊んでいただいていて、
山が2つ、ある感じです。
岩田
低年齢とその親御さん、
というイメージがありますね。
お母さんで夢中になっている方が多いと
お聞きしています。
はしもと
ええ、実際、多いですね。
「旦那さまのお弁当はつくらないけど、
××くんのお弁当つくりました」って、
おたよりもいただいたことがあります(笑)。
岩田
(笑)。
『牧場物語』はとくに
女性の方の支持率が高いんですよね。
はしもと
そうですね。対して『ルーンファクトリー』は、
中高生から20代前半くらいの男性の方を
中心に遊んでいただいています。
岩田
なるほど。
きれいな補完関係にあるんですね。
はしもと
最近は、小さい頃『牧場物語』を遊んでいた方が、
中高生になって『ルーンファクトリー』を遊んで、
大人になって『牧場物語』に帰ってきました、
みたいな流れもあります。
岩田
いまのお話を訊いて思ったんですが、
普通つくり手の作風というのは、
複数のゲームをつくられた場合でも、
だいたい同じ支持層になることが多いんです。
はしもとさんの場合はけっこう
めずらしいパターンですよ。
はしもと
ああ、そうかもしれません。
『朧村正』(※15)もまたぜんぜんちがう層ですね。
岩田
普通はぜんぜん別のゲームをつくっても、
その方の得意な作風が商品ににじみ出るので、
それに反応する人の年齢や性別、好みは、
だいたい同じになる傾向があるんです。
でもこの2作については、
最初に『ルーンファクトリー』をつくるときの発想が、
『牧場物語』から離れるところからのスタートという、
いわゆるポジショニングがうまくいって
そのまま別々に住み分けされているんでしょうね。
はしもと
そうだと思います。
岩田
今回ニンテンドー3DSで
はじめて『ルーンファクトリー』をつくるにあたって、
テーマは何だったんですか?
はしもと
「新しいハードで、新しいファンタジー体験を」
ということを意識しています。
アニメーションをぜんぶ3D立体視にしたり、
ボイスのボリュームアップであったり。
お客さんがよりこの世界に入り込んで、
意中の相手に心ときめいてもらうための表現を
強化していった感じです。
岩田
とくにあのアニメーションは今回、
世の中に3Dのノウハウがまだまだない中で、
試行錯誤があったんじゃないですか?
はしもと
じつはアニメは
3Dの邦画をつくられている会社さんに
依頼してつくっていただいています。
岩田
それはつまり、本当に
3D映画のノウハウがあるスタッフを
そのまま引っ張ってこられたわけですね。
はしもと
はい。DSで1作目をつくったとき、
3分以上のオープニングアニメをつくって、
「DSでどこまでアニメを魅力的に見せられるか?」
というのをやらせていただいたんですね。
だから今回の3DSでもやっぱり、
「3Dアニメの最先端に挑戦しよう」ということで、
力を入れてつくっています。
岩田
アニメは総量でどのくらい入っているんですか?
はしもと
オープニングアニメのほか、
主要キャラクターとはじめて出会うところや、
イベントシーンを合わせて、
10数か所、すべて3Dで入っています。
岩田
ニンテンドーダイレクト(※16)でも
アニメの映像はご紹介させていただきましたが
いろんな反響がありましたよね。
はしもとさんはどう感じられましたか?
はしもと
えーと、自分で言うのも何なんですが・・・。
『ルーンファクトリー』ってわりと
“濃いぃ部分”がありますよね。
岩田
はい。
はしもと
そこにスポットが当てられたことに、
ご覧になっていたお客さんは
けっこうビックリされたんじゃないかなと。
わたし自身も正直なところ、
「この映像、本当に流してもらっていいのかなぁ?」って
直前まで思っていましたから・・・。
岩田
ははは(笑)。
じつは、ニンテンドーダイレクトをやってみて
「お客さんとの距離を近づけることができた」
という手ごたえがあるんです。
はしもと
ああ、それはわたしも感じますね。
お客さんもつくり手も、
一緒になって楽しめていますよね。
岩田
そうなんです。
同じ時刻にみんなが一緒に見ているわけで、
期待や共感といったいろんな生の反響がわかるんです。
さらに言えば、あのタイミングなら
じつは商品に反映できたりするんですよね。
そこがまた、キャッチボールしながら
つくっている感じがあって、おもしろいんです。
はしもと
我々もやっぱり
あの場での反応はすごく気になっていて、
いくつかはそのときの声を参考にして、
つくり直した部分もあります。
個人的には、
「今度のダイレクトはどの場所からはじまるんだろう?」
なんてことも気になったりしています(笑)。
岩田
はい。
ご期待に応えられるように
これからも工夫したいと思います(笑)。