2. つくり手としての“力の源”
岩田
『ルーンファクトリー』が
『牧場物語』から大きく変わった点として、
舞台のほかにはどんなことがあったんですか?
はしもと
要素としてはやっぱり、
モンスターとのバトルがあることが
いちばんの大きなちがいですね。
岩田
ファンタジーですから、
モンスターがいるのはおかしくないですけど、
『牧場物語』から見ると相当大きな変化なんですよね。
その「変えよう」とした部分に対して、
最初の周りの反応はどんな感じでしたか?
はしもと
『牧場物語』ファンの方からは、
「なんで戦いを持ちこむんだ?」といった声を
たくさんいただきました。
岩田
『牧場物語』ファンの方々にとっては
「戦いやファンタジーの世界にはない、
ほのぼのした世界だから魅力的なんだ!」っていう、
意識がはっきりとあったわけですね。
はしもと
そうですね。やっぱりそこは
社内の企画段階でもかなり議論があって、
「本流に悪い影響が出たらどうするんだ!?」といった
大反対にもあいました。
岩田
どこを変え、どこを守っていくかは
あらゆるシリーズがぶつかる壁ですからね。
変えたことは当初
「なんかちがうんじゃないか?」って言われても、
のちに「これはよかったね」っていうふうになるものもあれば、
さらに大きく“化ける”こともあります。
でも、つくり手は神様じゃないし、
答えは自分ではわからないので、
もがきつつ、やるしかないんですよね。
はしもと
まったく、そのとおりです。
岩田
その判断は会社としても
なかなかGOを出しづらかったでしょう。
はしもと
『牧場物語』の根幹をなすこだわりですから、
相当怖かったと思います。
でもそれをくつがえすことが
『ルーンファクトリー』をやる意味でもあったと思うんです。
岩田
はい。
はしもと
でも個人的には、だんだん
そういった反対をくつがえしていくのが
快感になってきたというか・・・。
岩田
(笑)。
周りが怖がっているのをやりとげて、
結果を出すのが快感に変わってきたわけですか?
はしもと
ええ、そうなんです(笑)。
でも、定番シリーズになるほど
熱心なファンなら次がどんな改変を行うか、
ある程度、予想できてしまいますし、
ときにそれはつくり手が思ってる以上の
期待だったりすることがあるんですね。
前の会社で格闘アクションを長くつくっていて、
そういったことをおおいに経験していました。
岩田
わたしが思うのは、ゲームを
まったく別の方向に伸ばしたときこそ、
そこにさらにお客さんが
別のおもしろさを足してくれるというか、
新しい魅力が生まれるような気がしているんです。
遊ぶ側が予想外のことで虚(きょ)をつかれると、
心の動きがより大きくなるわけで、
結果、つくったこと以上のことまで含めて
感じとられて、それが広がることがあるんですね。
はしもと
そういう意味では『ルーンファクトリー』が
『牧場物語』シリーズからスピンオフして、
もうひとつのシリーズとして認められた理由は
まさにそこにあるのかな、と思います。
岩田
2つのシリーズはいまも
それぞれ新作がつくられ続けていますが、
はしもとさんから見てこの2作は
どういうふうに位置づけられているんですか?
はしもと
『ルーンファクトリー2』(※10)からは、
『新牧場物語』の副題をはずしているんですが、
この頃は「いかに差別化するか」を
ずっと考えていました。
岩田
副題をはずすということは、
「『牧場物語』シリーズではないですよ」って
宣言をしたわけですからね。
はしもと
はい。でも『ルーンファクトリー3』(※11)以降になると、
アンケートなどを見ているうちに、
「『ルーンファクトリー』がおもしろかったので、
『牧場物語』をはじめて買いました」という声や、
その逆の声をよく見かけるようになったんです。
岩田
ああ、それはそれぞれの個性を受け入れたうえで、
両作品とも同時に楽しんでおられる方が
確実に増えてきているからなんでしょうね。
はしもと
最近はお客様から
「なぜ『牧場物語』には
『ルーンファクトリー』にあるアレがないの?」
って言われることも出てきました。
岩田
最初「なんで変えるんだ!」っていう声をいただいていたのに、
いまはその真逆の声をいただくようになったんですか。
はしもと
はい(笑)。
いまは一方で好評だったシステムを
もう一方にいかに導入するかといったことを、
積極的に考えるようになりました。
岩田
2作品が別々に受け入れられたので、
お互いの要素をかけあわせて、
進化する意味に変わっていったんですね。
はしもと
そうです。
岩田
それにしても、この2つのシリーズを
同時につくり続けるというのは、
たいへんなことだと思うんです。
はしもとさんの、つくり手としての
“力の源”って何なんですか?
はしもと
わたしは本当に、
ゲームをつくっているときがいちばん楽しいんです。
「趣味=つくっていること」みたいな感じで。
できれば土日もずっと仕事したいんですが、
あんまり会社にずっといると
怒られてしまいますので・・・。
一同
(笑)
はしもと
でも結局のところ、
「お客様の声あってこそ」とは思います。
ネット全盛のいまでも、
ときどき熱い思いの方から
手書きのおたよりをいただくことがあるんです。
岩田
手書きのおたよりっていいですよね。
文字の一字一字に、
気持ちが宿っているというか。
はしもと
そうですね。以前『牧場物語』で、
小さなお子さんを育てられているお母さんから
お礼のお手紙をいただいたことがあるんです。
「子供が、このゲームに触れて笑いました」
って、書いてありました。
それを読んだらもう、うれしくてうれしくて。
「ずっとつくり続けられるなぁ」って。
自分の喜びが人の喜びになって返ってくるって
何ものにも代えがたい、しあわせなことですよね。
岩田
娯楽が世の中に求められる理由のひとつに、
“人が笑顔になる”ということがあると思うんです。
それができたということは、
まさにつくり手冥利(みょうり)に尽きますね。
はしもと
本当にそう思います。
一時期、マーベラスインタラクティブ時代は
海外向けの移植も自分で担当して、
いちばん多いときは13本見ていたんですけど・・・。
岩田
ええ?
同時進行で13本も担当していたんですか?
はしもと
はい。もう本当にいろんな意味で、
ギリギリな状態なんですけど、
そこからだんだん、5本、3本と減ってきて。
岩田
いやいや、5本でも十分多いですよ(笑)。
はしもと
まあ、そうですよね(笑)。
でも最初に1本だけやっていたときが
ものすごくたいへんで、それが5本に増えて
「もうだめだ」って思って。
そこからさらに二桁に増えたとき、
もう異常な本数になっているんですけど、
「どこに力を入れればいいのか」が、
不思議とはっきり、わかるようになったんです。
岩田
ああ、きっとその時点で
“かかわりの距離”が変わったんですね。
視点が離れることで全体が見えたり、
ほかの比較対象をつねに同時に見ているので、
現場のスタッフがぜったい気づかないようなポイントを、
的確に指摘できるようになるんですよね。
はしもと
ああ、なるほど。
岩田
それでモノが格段によくなることを体感すると、
またおもしろくなってきて、仕事を続けることができる、
っていうことなんでしょうね。
はしもと
そうですね、まさに。
自分の中で深くかかわるもの、応援するものとか・・・。
かかわりかたがシンプルになるんです。
そうなると非常に楽しくて、たとえるとしたら
ショートケーキのイチゴだけを食べるような(笑)。
岩田
なるほど(笑)。
たくさんやっていて責任も重いけど、
「開発者人生っておいしい!」という感じに
なっていったわけですね。
はしもと
本当に、そうです。
何本でもつくりたくなります(笑)。