1. 毎日が、よりみち
岩田
今日は『ルーンファクトリー4』を手がける
マーベラスAQLのプロデューサー、
はしもとさんにお越しいただきました。
どうぞよろしくお願いいたします。
はしもと
こちらこそ、よろしくお願いします。
岩田
お会いするのもはじめてですし、
はしもとさんとゲームのかかわりから
お訊きしてもよいですか?
はしもと
はい。まずわたしとゲームとの出合いは、
子供時代からごく普通に
ファミコンなどを遊んでいて、
ゲームセンターにも、よく行ってたんです。
当時のアーケードのゲームでは、
任天堂さんの『VS.テニス』(※1)が大好きでした。
画面が向かい合って対戦できる筐体で・・・。
岩田
「任天堂VS.システム」(※2)ですね。
あの中には画像を鮮明にRGB出力できる、
カスタムバージョンのファミコンが
2つ入っていたんです。
はしもと
あ、そうなんですか! てっきり、
アーケードゲームでよく使われる基板かと思っていました。
『VS.テニス』は、あの球の軌道、
とくにロブの角度がすごくおもしろくて、
うしろから人のプレイをずっと見ているだけでも、
楽しかった記憶があります。
その後、アーケード全盛時代も経験していますから、
けっこうなコアゲーマーだったと思います。
でも最初、わたしはゲームよりも
「映画をつくりたい」と思っていたんです。
岩田
映像分野に興味があったんですね。
はしもと
はい。ただ、やっぱり映画となると、
必要な人や物のスケールが大きくて、
ひとりですべては無理じゃないですか。
わたしは“自分でぜんぶやりたい派”なので、
「ゲームなら、ある程度
世界を自分でつくれるんじゃないか」
って考えたんです。
岩田
黎明(れいめい)期のゲームづくりは、
個人の目や力のおよぶ範囲が
大きかったんですよね。
はしもと
はい。いまはまた変わってきましたが、
個人の力が商品に直結していました。
それでゲームの道を志して、
ゲーム会社のSNK(※3)に入りました。
入ってからはずっと、
対戦格闘アクションをつくり続けていました。
岩田
一時期、アーケードゲーム開発者のみなさんは
みんな対戦格闘アクションに力を入れていたような
時期がありましたよね。
はしもと
SNKはその代表的な会社でしたし、
全チームが延々と、そういった感じでした。
それで何年かやっているうちに、
自分の中で「このままでいいんだろうか?」と
考えるようになったんです。
そしてある日、当時マーベラスインタラクティブ(※4)の
プロデューサーだった和田(康宏)さん(※5)と
ご縁があって現在にいたる、という感じです。
岩田
そこで『牧場物語』(※6)と、出合ったわけですね。
はしもと
そうです。
当初はフリーでお手伝いしていたんですが、
気がついたら和田さんが
どんどんエラくなって、
現場から離れざるをえなくなっていって・・・。
そのうち現場は、
自分がどっぷり見るような流れになって、
正式に会社に入社することにしました(笑)。
岩田
お手伝いのはずが、
いつのまにか主役になってしまった、
ということですね。
はしもと
はい。『牧場物語 しあわせの詩 for ワールド』(※7)の頃から
プロデューサーをやっていました。
それから、『牧場物語』シリーズを自分の担当として、
だいたい1年半に1本くらいのペースで
つくり続けてきた感じです。
岩田
たしか、いちばん最初の『ルーンファクトリー』(※8)には
『新牧場物語』という副題が、ついていましたよね。
はしもと
『ルーンファクトリー』は最初、
「牧場物語 もうすぐ10周年!」という発表会で
『牧場物語』シリーズの新たな展開のひとつとして発表した、
スピンオフ作品だったんです。
岩田
そういう意味で、『ルーンファクトリー』のルーツは
『牧場物語』にあるわけですよね。
そのあたりご存じない方もいらっしゃると思うので、
今日はあわせて『牧場物語』についても
くわしくお訊かせいただければと思っています。
はしもと
そうですね、ぜひ。
岩田
まず、それまでの『牧場物語』に
どんな要素を持ちこむことが、
『ルーンファクトリー』が生まれる
きっかけになったんですか?
はしもと
もともと『牧場物語』は、
農作業やどうぶつとのふれあいといった
日常の生活をのんびり過ごしたり、
町の人々と仲良くなって人生を楽しむ、
そんなゲームだったんです。
その舞台を西洋的な味付けの
「ファンタジーの世界にしよう」と考えたのが、
企画の原点になります。
岩田
そんなふうに考えたのは、なぜなんですか?
はしもと
これは自分の原体験なんですが、
ずっと遊んでいた
『ドラクエ』(※9)からきているんです。
あの、最後のボスを倒して、
王様のところに報告に向かう途中、
よりみちしていろんな人の話を聞くのが
ものすごく大好きだったんですね。
ゲームの世界の中で、みんなが自分を知っていて、
「ありがとう!」とか「かっこいい!」とか
言われるとうれしいし、
誇らしくなるじゃないですか(笑)。
岩田
「世界中の人がたたえてくれる、
あの瞬間がたまらない!」ということですね。
はしもと
はい(笑)。それで、
「ここだけのゲームを遊びたいなぁ」って
思っていたんです。
岩田
「RPGのいちばん楽しかったところだけを
味わいたい、つくりたい」というのが、
『ルーンファクトリー』の生まれる
原点になっているわけですか。
はしもと
そうです。
「えっ、こんなに
ホメられちゃっていいの?」っていう・・・。
岩田
しかも、最初から、ですからね(笑)。
はしもと
はい(笑)。
岩田
逆に、『牧場物語』から引き継いで
大事にした部分というのも、
当然ありますよね。
はしもと
システムという点では、
農作業などがそれにあたるんですが、
同じくらい、町の人々とのコミュニケーションも
重要と考えて引き継いでいます。
岩田
町の人々との会話や、イベントなどですか?
はしもと
そうですね。たとえば
初期のRPGに出てくる町の人って、
「ここは××の町だよ」とか、
たいてい決まったことしか
言わなかったんですよね。
岩田
プレイヤーに情報を与えるためだけの、
無名のキャラクターがほとんどですよね。
はしもと
『牧場物語』の町には、
そういうキャラクターはひとりもいないんです。
舞台となっているのは小さな町や村がひとつで、
登場人物は多くても20~30人なんですけど、
全員に生活があって、全員が主役のゲームなんです。
岩田
お約束のセリフを言うだけのキャラクターは
ひとりもいないということですね。
はしもと
はい。たとえば雑貨屋さんの女の子も、
単に「何を買う?」って言うだけじゃなくて、
お店以外に日々の暮らしや好きなことがあって、
ときには主人公と恋に落ちて、結婚して、
一緒に暮らすことだってあるんです。
岩田
町の人々がまさに生活していて、
その人々との深い関係が楽しめる世界、
ということですかね。
はしもと
そうですね。
それで『ルーンファクトリー』は企画当初、
プランニングのスタッフに、
「DSの中に、宝石箱みたいに
一人ひとりの人生がキラキラしている、
小さな世界が広がっている感じにしたい」って、
説明をした記憶があります。
岩田
普通のファンタジーRPGより
人数や世界の広さはしぼるけれど、
その一つひとつが輝くように、
ということですね。
はしもと
はい。それともうひとつ、
『牧場物語』から引き継いだ要素としては
ゲームの中で日付の概念があることです。
時間が流れて、季節が移り変わり、
天気も変わります。
岩田
時間や季節があると、
それに応じた折々の繰り返しのサイクルが
生まれてきますよね。
はしもと
するとやっぱり、朝起きるたびに
「さて今日は何しよう?」って思うじゃないですか。
たとえば雨が降ったら
「あの人は雨が嫌いだったけど何してるかな?」って、
ふと思い立って、会いに行ってみたり。
言ってみれば“毎日がよりみち”のような感覚なんです。
岩田
ゲームの中で暮らすといった、
ゆるい目的の中で、遊ぶプレイヤーが思い思いに
日常を楽しむゲーム、それが『牧場物語』であり、
『ルーンファクトリー』なんですね。