岩田
今日は『初音ミク プロジェクト ミライ』(※1)の
「社長が訊く」ということで、
セガさん(※2)から3人の方にご足労いただきました。
よろしくお願いします。
一同
よろしくお願いします。
岩田
では、みなさんが
このプロジェクトで何を担当されたのか、
自己紹介を含めてお話しいただけますか。
大崎
はい。大崎と申します。
『初音ミク Project DIVA Arcade』(※3)のときから、
たぶん、世間一般でいうところの
プロデューサー・・・的なことをしていました。
岩田
プロデューサー的・・・なことですか(笑)。
大崎
すみません、いきなりこんな感じで(笑)。
今回のゲームは“昔っぽいつくり方”をしていたので、
プロデューサーの仕事もしつつ、現場も担当していました。
岩田
現場の仕事もするプロデューサーということですね。
“昔っぽい”っていうのは話が弾みそうなので、
後ほどぜひ、おうかがいしたいと思います(笑)。
高部
高部です。
ディレクターを担当しました。
ゲームの企画書を書いたり、
PVづくりの指示を出したり、現場監督ですね。
お金や人員のことは大崎に任せて、
僕は好きなだけ遊ばせてもらいました(笑)。
内海
内海と申します。
『初音ミク』に関するすべてのプロジェクトをまとめています。
今回のゲームでは、全体的なプロデュースや製造面の管理、
プロモーションの企画など、総括的に担当しました。
よろしくお願いします。
岩田
よろしくお願いします。
では、みなさんがなぜこの業界に入ったのか、
これまでどのような仕事をされてきたのか、
今回のゲームのバックボーンとなる話を、
昔話も含めて、おうかがいしたいと思うのですが、
大崎さんからよろしいでしょうか?
大崎
はい。
じつは、わたしはPCG-1200(※4)がなかったら、
この世界に入っていなかったんです。
岩田
ああ・・・。
大崎
ハル研(※5)の(笑)。
岩田
いや、まさかPCG-1200の話からはじまるとは
夢にも思いませんでした(笑)。
大崎
当時、僕は中学生だったのですが、
まだ文字しか出すことができなかったパソコンで、
PCG-1200をつかってドット絵を描いていたんです。
それが面白くて「ゲーム業界に行きたい」と。
その後、紆余曲折があってセガに入社し、
業務用アーケードゲーム担当の
AM2研(※6)に配属されました。
岩田
AM2研というと、
『バーチャファイター』(※7)や
『デイトナUSA(※8)』をつくっているところですよね。
わたし『デイトナUSA』よく遊んでました。
大崎
ありがとうございます(笑)。
それらを経て、2009年くらいから、
『初音ミク』のプロジェクトにかかわりました。
岩田
『バーチャファイター』と『初音ミク』っていうのは、
一見つながらないように見えるんですが、
大崎さんの中に何かつながりがあるんでしょうね。
そのことも後でお訊きしたいと思います。
高部さん、お願いします。
高部
僕もやはりパソコン世代というか、
マイコン(※9)世代でした。
岩田
あのころパソコンという言葉がなくて、
マイコンと呼んでいましたよね。
高部
ええ。ただ、僕の場合はマイコンをいじることよりも、
漫画を描いたり、8ミリ映画を撮ったりすることが
楽しくなってしまったんです。
本当は映画監督になりたかったんですが、
「そのためには広告業界のほうがいいのでは?」
と思って就職活動をはじめました。
でも、いざ受けてみると、やはり狭き門で
「きついなぁ」と思っていたころ、セガにいた友人から
「お前もきたらどうだ?」と誘われたんです。
よくよく調べてみると、ゲームというものは
ストーリーを語ることができて、映像表現ができて、
映画とほとんど同じつくりをしていたんですね。
岩田
ちょうど、映画の技術を
ゲームに応用できるようになった時期でしたからね。
高部
はい。ゲームが映画に追いついてきていたんです。
自分の中で、ふたつが同じ位置づけになったので、
「これはぜひゲームをつくりたい!」
と思ってセガに入りました。
その後は格闘やレース、ロボットものなど、
男くさいものばかりつくっていたんですけれども。
岩田
確かに・・・男くさいですよね(笑)。
高部
必ず堅いもの、重いものが出てくるんです。
メカメカしいものとか、オイルの匂いがするものとか、
毎日、筋肉ばかり描いていた時期もありました。
岩田
はい(笑)。
高部
デザイナーより筋肉を描くのが
うまくなった時期もあったくらいで(笑)。
毎日、時を忘れるくらい楽しかったんですが、
今回、こうして大崎に引き抜いてもらう形で、
これまで門外漢だった『初音ミク』の世界に入りました。
ただ、いざ入ってみると、
「あれ? これはすごく僕がやりたかったことでは?」と、
まぁ、自分で言うのもなんですが、適材適所感がありました。
ここにきてはじめて、
「映画監督に近い仕事ができるかなぁ」と思えたんです。
岩田
映像の勉強が、役に立つチャンスがついにきたんですね。
高部
そのとおりです。しかも、
「これまでに蓄積してきた、ほかの分野の経験も活かせる」
と思いました。
岩田
大崎さんも高部さんも、
アーケードゲームを担当していたということでしたが、
アーケードは非常に強い“つかみ”が求められますよね。
とにかく「100円入れてみよう」とか、
1ゲーム遊んだ後に「もう1回!」
と思ってもらえないといけないわけですし。
そんなゲームづくりを経験している方は、
鍛えられ方が違うと思うんです。
大崎
アーケードゲームでいちばんに求められるのは、
「何これ、かっこいい!」「ちょっと触ってみたい!」
と瞬間的に思わせる、筐体(きょうたい)の立ち姿なんです。
岩田
ああ、そうなんですね。
筐体そのものが、お客さんに対する
ゲームのプレゼンテーションになる、ということですか。
大崎
そうです。
ゲームをしている自分の姿がかっこ悪くなるなら
そのゲームはやらないだろうし、その逆だったら
「1回くらいやってみようか」となりますよね。
いろいろな感情が生まれることを考えて、
100円を入れてくれる筐体のデザインを考えます。
高部
岩田さんがお話しされた“つかみ”は、
今回のゲームにも活きていると思います。
『初音ミク プロジェクト ミライ』には、
ボーカロイド曲のPVが20本以上入っているんですが、
オリジナルPVを考えるときは、
出だしの10秒から20秒で、まず一山がきて、
プレイヤーの心をつかむような演出を心がけました。
岩田
なるほど。
高部
あと、筐体をつくるときと同じように、
お店に置かれているのをパッと見たとき、
もしくはコマーシャルなどの映像で見たときに、
誰もが「かわいい!」と思うことを目標につくったんです。
キーワードは“かわいさは正義”でしたから(笑)。
大崎
それがミクのプロジェクトの一貫したキーワードなんです。
高部
「かわいいミクが嫌い」っていう人は、
まずいないわけですし、
「うっとりするくらいかわいい」
そうなるまで造形にこだわりました。
ビジュアルのファーストインパクトがすべて、
といった意気込みで・・・。
岩田
筐体のデザインをどうするか、
というつくり方と確かに似てますね。
大崎
そうです。
「このゲームで遊んだら、自分は楽しい思いができそうだ」
ということを、そこはかとなく伝えるのが大事なんです。
岩田
一般的に広まっているイメージでは、
「AM2研=格闘&レースゲーム」だと思うんです。
「男くさい格闘&レースゲームのチーム」っていうイメージと、
「かわいい初音ミク」という存在とが、
すごくかけ離れたところにいるように感じたのですが、
ゲームのつくり方にそんな共通点があるんですね。
大崎
じつは今回の『プロジェクト ミライ』も、
いつもライブ用につくっている映像もそうですけれど、
あれは結局、全部『バーチャファイター』の技術なんです。
岩田
へぇ~、そうなんですね。
ミライの技術は『バーチャファイター』の技術なんですか。
大崎
そうです。
『バーチャファイター』の演舞に近い感じで、
PVのダンススタンドをつくりました。
初音ミクは髪まで動くので、
そこはシミュレーションを重ねて・・・。
作業している人間もほとんど共通ですし、
根っこにあるものはいっしょなんです。