社長が訊く
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社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇

第13回:『THEATRHYTHM FINAL FANTASY』

目次

3. 人それぞれ違う『FF』の味わい

岩田

今回、『シアトリズムFF』の開発をされている
インディーズゼロさんとは
もともとお付き合いがあったんですか?

インディーズゼロの社長の鈴井(匡伸)さんは、
じつはバンダイ時代の僕の後輩なんです。
彼は1年くらいで独立しちゃうんですけど。

岩田

まず、そこで面識があったんですね。

はい。それから僕が
スクウェアでグッズの仕事を始めたとき、
『FF』のトレーディングカードの
制作をお願いしているんです。
当時だとシリーズは『IX』(※13)までだったんですが、
そこでものすごく深い“FF愛”を持っておられたので、
今回の企画はもうゼロさんしかない、と考えていました。

※13
『IX』=『ファイナルファンタジーIX』。2000年にスクウェア(現スクウェア・エニックス)から発売されたシリーズ9作目のナンバリングタイトル。

岩田

一見、ばらばらに見えるものが、
ぜんぶ線でつながってますね。
「ずっと前からこのゲームをつくる運命でした」って
言われてもおかしくないくらいですよ(笑)。

ああ、たしかに、そうですね。
ぜんぶつながりますね・・・。
いま、気がつきました(笑)。

岩田

音楽と映像をテーマにするという切り口に対して、
開発時にはどんな壁がありましたか?
『FF』自体のクリエイティブのパワーで、
一気にハードルを越えられたのか、
それとも、もがき苦しんだのか・・・。

どう見せるかという意味では明らかに後者ですね。
むしろ『FF』という器が強すぎるゆえに、
お客様からの反応が容易に想像できたんです。
たとえば発表の際、絵だけをご覧になったら、
おそらく多くのお客さんが、
「うわべだけが『FF』の別の商品じゃないの?」
って感じられる可能性があると思ってました。

岩田

多くの熱烈なファンがいる以上、
そこは難しいところですよね。
でも、以前、ニンテンドーeショップで
体験版が配信されたとき、
「ひさしぶりに『FF』が遊びたくなった」
って声がありましたし、
『FF』としての芯があることは
しっかり伝わっているんじゃないですか?

そうであったら、何よりなんですが・・・。

岩田

またあの体験版では、
超絶な難易度の話題が
かなり盛り上がっていたようですね(笑)。

ああ、ありがたいことですね(笑)。
難易度の設定は3段階から選べるので、
懐かしく気軽に遊んでみたいという方も
もちろんOKなんですが、
「究極の譜面」っていう、いちばん高いレベルは
僕自身もほとんどクリアできないくらい難しいんです。

岩田

近頃はそういった難易度の高いゲームって、
少なくなってたんですよね。
この前の体験版では、そこに対する反応が
いい意味ですごく出てた気がするんですよ。

難しいとはいっても、
基本的には反復学習なんです。
ピアノ教室みたいなもので、
1日休むと3日分遅れる、みたいな感じです(笑)。

岩田

ああ、なるほど(笑)。

それに、ただ曲をクリアするだけなら、
RPG風にアビリティ(※14)やアイテムの装備を工夫すれば、
「究極の譜面」でも、わりと難易度が下がり遊びやすくなります。
でもハイスコアを狙うには
アビリティなどを一切使わないほうがボーナスがもらえるので、
上手な人との差はそこで出るんです。

※14
アビリティ=キャラクターに装備させることで回復や攻撃などの効果を発動するスキル。

岩田

間さんの周りのスタッフの方は、
みなさんどんな風にプレイされてますか?

人それぞれ性格が出ますね。
宣伝の担当者はずっと1曲を突き詰めて
集中して繰り返し何回もやっていますし、
うまい人間は息抜きに軽く遊んで、
ハイスコアをたたき出して満足していたり。
あとは音楽と映像を純粋に堪能できる
ミュージアムモードも入ってますので、
それを楽しむ遊び方もあります。

岩田

ちなみに、今作に収録されている楽曲は、
どのように選ばれたんですか?

今回、このタイトルを進めるにあたって、
極力、自我を入れたくなかったんです。
なので自社のメンバーズ(※15)を通して、
「あなたが『FF』で好きな楽曲を教えてください」
っていう、ユーザーアンケートを取りました。
そこで選ばれたものに即した選曲になっています。

※15
メンバーズ=「スクウェア・エニックス メンバーズ」。スクウェア・エニックス作品のファンの公式コミュニティサイト。

岩田

モノづくりをするうえで、
自我というものは非常に重要な場合が多いんですが、
この商品に関しては、
あえて抑えているということですね?

そうです。世に出たさまざまな『FF』は
ある意味、つくり手のもとを離れて、
遊んだ方の心の中に入り込んでいるわけですよね。
とくに今回の場合、
プレイした方の記憶に残る音楽に
焦点をあてた商品なので、
そこはお客さんに選んでいただくのが
いちばん正解に近い、と考えたんです。

岩田

実際、お客さんが選んだ楽曲というのは
間さんにとっては共感できましたか?

はい。でもちょっと意外なところもありました。
単純に世代の違いだと思うんですけど、
やっぱり10代の頃に聴いた曲が、
いちばん鮮烈に残る傾向があるようなんです。

岩田

そのゲームを遊んだとき、
自分が何を感じて生きていたかということと
セットなんですよね、きっと。

ゲームの中に用意された
体験だけではないんですよね。
それくらいゲームって、
心に影響を与える力があると思いますし、
その中でも『FF』シリーズは、
強くお客さんの心に残るものがありますね。

岩田

間さんのなかで、
『FF』シリーズが大事にしてるものだとか、
ずばり『FF』らしさというものは、
どう定義されていますか?

これはもう、ひとことで言っちゃうと、
わからなかったです。最後まで。

岩田

いいなぁ、正直で(笑)。
でもいまの「わからなかった」っていうところに、
間さんという人間性が表現されていると、
同時に感じますね。

いやぁ・・・すみません(笑)。
でも、旧スクウェア時代から感じていたのですが、
いつも1人の強烈なリーダーが立ってはいるけれど、
そのリーダーに、それぞれの大事にしているものを持って
挑みかかってくるようなスタッフが、
各セクションにいたんじゃないかと思うんです。

岩田

つくり手が戦いながら、
ゲームをつくってるわけですね。

はい。変な例えかもしれないんですけど、
これぞと思った具をそれぞれが持ち寄って、
同じ鍋の中に入れたら、めちゃめちゃ美味しくなった!
っていうイメージなんです、自分から見た『FF』って。
だからそのできあがった鍋をどう味わうかは、
お客さんに委ねられていると思うんです。
好きなところはお客さんによってさまざまで、
ゲームシステムやストーリー、
それこそ音楽や絵、キャラクターかもしれない。
しかもそれぞれが非常に高密度に構成されている、
という感じなんです。

岩田

なるほど。

その中で今回、我々は、
音楽と絵を意図的に切り取っているわけで、
ひょっとしたら「自分の『FF』はそこじゃない」
と言う方もいらっしゃると思います。
ただ、我々はそこをあえて中心にすえて、
そこに感じてくれるお客さんに、
『FF』の感動を気軽に、かつ深く、
味わってもらうことができたら・・・
そう思って、つくってきたつもりです。