3. 人それぞれ違う『FF』の味わい
岩田
今回、『シアトリズムFF』の開発をされている
インディーズゼロさんとは
もともとお付き合いがあったんですか?
間
インディーズゼロの社長の鈴井(匡伸)さんは、
じつはバンダイ時代の僕の後輩なんです。
彼は1年くらいで独立しちゃうんですけど。
岩田
まず、そこで面識があったんですね。
間
はい。それから僕が
スクウェアでグッズの仕事を始めたとき、
『FF』のトレーディングカードの
制作をお願いしているんです。
当時だとシリーズは『IX』(※13)までだったんですが、
そこでものすごく深い“FF愛”を持っておられたので、
今回の企画はもうゼロさんしかない、と考えていました。
岩田
一見、ばらばらに見えるものが、
ぜんぶ線でつながってますね。
「ずっと前からこのゲームをつくる運命でした」って
言われてもおかしくないくらいですよ(笑)。
間
ああ、たしかに、そうですね。
ぜんぶつながりますね・・・。
いま、気がつきました(笑)。
岩田
音楽と映像をテーマにするという切り口に対して、
開発時にはどんな壁がありましたか?
『FF』自体のクリエイティブのパワーで、
一気にハードルを越えられたのか、
それとも、もがき苦しんだのか・・・。
間
どう見せるかという意味では明らかに後者ですね。
むしろ『FF』という器が強すぎるゆえに、
お客様からの反応が容易に想像できたんです。
たとえば発表の際、絵だけをご覧になったら、
おそらく多くのお客さんが、
「うわべだけが『FF』の別の商品じゃないの?」
って感じられる可能性があると思ってました。
岩田
多くの熱烈なファンがいる以上、
そこは難しいところですよね。
でも、以前、ニンテンドーeショップで
体験版が配信されたとき、
「ひさしぶりに『FF』が遊びたくなった」
って声がありましたし、
『FF』としての芯があることは
しっかり伝わっているんじゃないですか?
間
そうであったら、何よりなんですが・・・。
岩田
またあの体験版では、
超絶な難易度の話題が
かなり盛り上がっていたようですね(笑)。
間
ああ、ありがたいことですね(笑)。
難易度の設定は3段階から選べるので、
懐かしく気軽に遊んでみたいという方も
もちろんOKなんですが、
「究極の譜面」っていう、いちばん高いレベルは
僕自身もほとんどクリアできないくらい難しいんです。
岩田
近頃はそういった難易度の高いゲームって、
少なくなってたんですよね。
この前の体験版では、そこに対する反応が
いい意味ですごく出てた気がするんですよ。
間
難しいとはいっても、
基本的には反復学習なんです。
ピアノ教室みたいなもので、
1日休むと3日分遅れる、みたいな感じです(笑)。
岩田
ああ、なるほど(笑)。
間
それに、ただ曲をクリアするだけなら、
RPG風にアビリティ(※14)やアイテムの装備を工夫すれば、
「究極の譜面」でも、わりと難易度が下がり遊びやすくなります。
でもハイスコアを狙うには
アビリティなどを一切使わないほうがボーナスがもらえるので、
上手な人との差はそこで出るんです。
岩田
間さんの周りのスタッフの方は、
みなさんどんな風にプレイされてますか?
間
人それぞれ性格が出ますね。
宣伝の担当者はずっと1曲を突き詰めて
集中して繰り返し何回もやっていますし、
うまい人間は息抜きに軽く遊んで、
ハイスコアをたたき出して満足していたり。
あとは音楽と映像を純粋に堪能できる
ミュージアムモードも入ってますので、
それを楽しむ遊び方もあります。
岩田
ちなみに、今作に収録されている楽曲は、
どのように選ばれたんですか?
間
今回、このタイトルを進めるにあたって、
極力、自我を入れたくなかったんです。
なので自社のメンバーズ(※15)を通して、
「あなたが『FF』で好きな楽曲を教えてください」
っていう、ユーザーアンケートを取りました。
そこで選ばれたものに即した選曲になっています。
岩田
モノづくりをするうえで、
自我というものは非常に重要な場合が多いんですが、
この商品に関しては、
あえて抑えているということですね?
間
そうです。世に出たさまざまな『FF』は
ある意味、つくり手のもとを離れて、
遊んだ方の心の中に入り込んでいるわけですよね。
とくに今回の場合、
プレイした方の記憶に残る音楽に
焦点をあてた商品なので、
そこはお客さんに選んでいただくのが
いちばん正解に近い、と考えたんです。
岩田
実際、お客さんが選んだ楽曲というのは
間さんにとっては共感できましたか?
間
はい。でもちょっと意外なところもありました。
単純に世代の違いだと思うんですけど、
やっぱり10代の頃に聴いた曲が、
いちばん鮮烈に残る傾向があるようなんです。
岩田
そのゲームを遊んだとき、
自分が何を感じて生きていたかということと
セットなんですよね、きっと。
間
ゲームの中に用意された
体験だけではないんですよね。
それくらいゲームって、
心に影響を与える力があると思いますし、
その中でも『FF』シリーズは、
強くお客さんの心に残るものがありますね。
岩田
間さんのなかで、
『FF』シリーズが大事にしてるものだとか、
ずばり『FF』らしさというものは、
どう定義されていますか?
間
これはもう、ひとことで言っちゃうと、
わからなかったです。最後まで。
岩田
いいなぁ、正直で(笑)。
でもいまの「わからなかった」っていうところに、
間さんという人間性が表現されていると、
同時に感じますね。
間
いやぁ・・・すみません(笑)。
でも、旧スクウェア時代から感じていたのですが、
いつも1人の強烈なリーダーが立ってはいるけれど、
そのリーダーに、それぞれの大事にしているものを持って
挑みかかってくるようなスタッフが、
各セクションにいたんじゃないかと思うんです。
岩田
つくり手が戦いながら、
ゲームをつくってるわけですね。
間
はい。変な例えかもしれないんですけど、
これぞと思った具をそれぞれが持ち寄って、
同じ鍋の中に入れたら、めちゃめちゃ美味しくなった!
っていうイメージなんです、自分から見た『FF』って。
だからそのできあがった鍋をどう味わうかは、
お客さんに委ねられていると思うんです。
好きなところはお客さんによってさまざまで、
ゲームシステムやストーリー、
それこそ音楽や絵、キャラクターかもしれない。
しかもそれぞれが非常に高密度に構成されている、
という感じなんです。
岩田
なるほど。
間
その中で今回、我々は、
音楽と絵を意図的に切り取っているわけで、
ひょっとしたら「自分の『FF』はそこじゃない」
と言う方もいらっしゃると思います。
ただ、我々はそこをあえて中心にすえて、
そこに感じてくれるお客さんに、
『FF』の感動を気軽に、かつ深く、
味わってもらうことができたら・・・
そう思って、つくってきたつもりです。