1. 「JRPGのマスターピースをつくりたい」
岩田
今日はNewニンテンドー3DS専用ソフトの
『ゼノブレイド』についてお訊きします。
そもそも一般的なRPGの場合は
発売した直後に「どーん」と売れるものの、
そのあとすぐにしぼんでしまうケースも少なくないのですが、
5年前に発売されたWii版の『ゼノブレイド』(※1)は
このゲームのつくりこみのすごさなどが
あとからあとから、どんどん話題になり、
口コミという形で大きな広がりかたをしたタイトルです。
そんな『ゼノブレイド』が
Newニンテンドー3DS専用ソフトとして
よみがえることになりました。
そこで、モノリスソフト(※2)の高橋さんに、
『ゼノブレイド』とはいったいどんなゲームだったのか、
という話をお訊きしようと思います。
高橋さん、今日はよろしくお願いいたします。
高橋
こちらこそよろしくお願いいたします。
岩田
まず、Wii版の『ゼノブレイド』を
つくりはじめたころ、どんなことをイメージして
あの世界がつくられていったのか、という話から
ちょっと振り返ってみたいのですが・・・。
高橋
はい。まず自分のなかには
「JRPG(※3)と言われるもののなかで、
マスターピース(最高傑作)をつくりたい」
という想いがあって・・・。
それを実現するために、たくさんの必要な要素を
ていねいに積み上げていきながら
ゲームの完成をめざしました。
岩田
JRPGというのは
日本で独自の進化を遂げた日本製のRPGのことで、
日本で使われるよりも、海外の人たちが
ゲームジャンルの呼称として使っている言葉なんですが、
Wii版の『ゼノブレイド』が発売されたあと、
「ここ数年の間に出たJRPGのなかで、
『ゼノブレイド』は傑出した出来栄えだ」と
おっしゃる方がたくさんいらっしゃったように
わたしは感じていました。
その意味で「マスターピースをつくろう」という目的・・・
野望と言ってもいいかもしれませんが、
それはある意味、達成できたとも言えるんじゃないでしょうか。
高橋
そうですね。
岩田
たとえば「あの世界にずっと居たくなる」とか、
100時間以上もプレイ(※4)したのに
「終わるのが惜しい」という声も聞かれましたし・・・。
高橋
本当にありがたいです。
岩田
それって、つくり手冥利につきる言葉ですよね。
わたしも『MOTHER2』(※5)をつくったときに
「終わるのが惜しい」と言われたときは
ものすごくうれしかったですから。
でも、高橋さんが『ゼノブレイド』をつくったとき、
そういった高評価をしてもらえると思っていましたか?
高橋
正直な話、国内での反応については
ある程度、予測はついていました。
岩田
開発中から、それだけの手ごたえがあったんですね。
高橋
はい。ですけど、海外のお客さんの評価については、
僕としても意外なところがありまして・・・。
岩田
どこが意外でしたか?
高橋
西洋の人たちに好まれるのは、
高品質な映像で、リアルなゲームが多いですよね。
岩田
はい。しかも、スケールがすごく大きくて、
自由度も高かったりしますしね。
高橋
そういうゲームに慣れ親しんでいるお客さんに
手にとって遊んでいただけた、ということが、
意外に思ったところなんです。
岩田
日常的にそういったゲームを遊んでいる彼らに、
『ゼノブレイド』のようなJRPGが通じるのかどうか
よくわからなかった、という感じだったんですか?
高橋
そうですね・・・
「JRPGはもう飽きられちゃったんじゃないかな」
という思いがありました。
岩田
ああ、なるほど。
JRPGというジャンルは、1990年代に
世界中のゲームファンを巻き込むことができていましたけど、
その後は、西洋では以前ほどの高い評価が得られなくなっていたので
『ゼノブレイド』も手にとってもらえないのではないかと
考えたんですね。
高橋
そうです。
岩田
でも、実際はそうではありませんでしたよね。
「やっとJRPGの進化した姿を見ることができた」
と、彼らに言ってもらえたように感じているんですけど、
何が彼らをそう感じさせたんだと思いますか?
高橋
もしかしたら、お客さんたちのなかに
“渇望感”があったのかなと、
あとから振り返ってみると、思いました。
岩田
かつて90年代のゲームファンの人たちが思い描いていた
“自分たちのRPGの未来像”が
なかなか出てこなかったところに、
高橋さんたちが投じた『ゼノブレイド』から、
彼らは「RPGの未来はこうなるんじゃないか」という
希望の光を見いだしたようにも思えるんですけど。
高橋
そうかもしれません。
それに、海外製のゲームとの違いもあると思うんです。
ひとつはJRPGがもともと持っていた、
ヒロイック的なもの・・・自分がヒーローになれる、
主人公になれる、という部分を
ゲームのなかにうまく入れられたように思っているんです。
一方で、海外のゲームはというと、
・・・これはあくまで個人の見解なんですけど
すごく細かいところまでよくできているのですが、
ストイックなところが多くて、
ヒロイックなところが
脇に置かれていると感じることもあるんです。
岩田
たしかに海外製ゲームの主人公は、
見た目からして、特別に強そうですからね。
高橋
ええ。
岩田
でも、JRPGでは、
ごく身近にいてもおかしくない、
そんなに強そうでない主人公が、
たまたまそういう運命のもとに生まれて、
自分を導いてくれる何かによって、
当初はありえなかったことを成し遂げていくと・・・。
でも、もし西洋の人たちが、
そういう設定が本当に嫌いだったら
『スター・ウォーズ』(※6)が
あんなにウケるはずはないと思うんですよね。
あの映画はまさしくそういう物語ですから。
高橋
そうですね。
あと、自分が日本独自の
コミック文化に育ったこともすごく大きいと思います。
幸運にも、コミックのなかにある魅力を、
ゲームの世界にうまく取り込むことが
できたように思うんです。
岩田
最近は西洋の人にも
日本のコミックが人気だったりしますしね。
高橋
そうですね。だから、その魅力を
向こうの人も感じてくれたんじゃないかと思うんです。
岩田
もちろん、日本のコミックやアニメを好きな人たちが
『ゼノブレイド』に強い反応を示したようなことは、
わたしもたしかに感じています。
でも、そこだけにとどまってない気もするんです。
高橋
はい。
岩田
そのもうひとまわり、外側にいる、
ゲームジャンルとしてのJRPGを楽しんでくれる人たちが、
「やっと次世代のJRPGがきた」
という感じで、喜びをもって受け止めてくれたような
印象があるんです。
でないと、日本の販売本数よりも海外のほうが多い
なんてことは起こらないはずですから。
高橋
たしかにそうですね。
岩田
いま、コミック文化の話が出たことですし、
ここでちょっと脱線して
高橋さんがどんな文化に影響を受けてきたのか、
という話を訊いてもいいですか?
高橋
はい。