6. 「ゼルダのアタリマエを見直す」
岩田
そもそも今作は
『神々のトライフォース』の世界を借りていますけど、
まったくの新作じゃないですか。
青沼
はい、そうです。
岩田
サブタイトルは
『神々のトライフォース2』ですけど、
じつはまったく別のもので・・・。
だから海外では『2』という
サブタイトルではないですよね。
青沼
はい。海外では
前作は『A Link to the Past』という
サブタイトルでしたけど・・・。
岩田
それが『A Link Between Worlds』という
サブタイトルになったんですね。
青沼
はい。そもそも前作の
『A Link to the Past』は
“過去とリンクする”という意味なんです。
ところが今回は、前作の時代よりも
遙か未来の物語になっていますし、
「ハイラル」と「ロウラル」の2つの世界を
行き来することで物語は進みますので。
岩田
だから『Between Worlds』・・・
“2つの世界の間”ということにしたんですね。
青沼
そうなんです。
でも、日本では『神々のトライフォース』に
『2』を付けても違和感がないということで、
そういうことにしたんですけど、
「『2』なんか付けたら、リメイクと思われますよ」
と言うスタッフもいたんです。
四方
だから「『Newマリオ』のように
『Newゼルダ』にしたらどうか?」
みたいな話もありましたよね(笑)。
一同
(笑)
青沼
でも、同じハイラルというフィールドを使っていて、
しかも真上からの視点で、という共通点があるので
やっぱり『神々のトライフォース2』にすることにしました。
岩田
そのような共通点がありながら、
“壁画になる”という新しいシステムが入ったほかに
どんなことが新しくなったんですか?
四方
今作には「ゼルダのアタリマエを見直す」(※18)、
という開発コンセプトがありますが、
じつは最初から
それをテーマにしていたわけではないんです。
岩田
はい。
四方
僕はこれまで15年間、
『ゼルダ』をつくってきて、
新作が発売されるたびに、
友達から感想を聞いたんですけど、
遊んでいる最中にどこかで詰まってしまって、
そこから先を遊ばなくなってしまう人がけっこういて、
僕自身、それをすごく問題だと感じていたんです。
岩田
どこかのダンジョンでハマると、
そこから先へ進めなくなって、
しばらくがんばってもダメなときは、
そこであきらめてしまうんですね。
四方
そうです。そういう経験をしている人が
少なくないことがわかって、
新しい『ゼルダ』をつくるたびに、
もっと違うアプローチがないかなと思って、
ずっと探していたところがあるんです。
で、今作をつくることになって、
前作の『神々のトライフォース』は、
複数のダンジョンを並列でクリアできるということが
おぼろげなイメージとしてあったんですけど、
実際に遊び直してみると、
そんなに並列ではなかったんですね。
青沼
そうですね。
四方
だったら今作では、
並列に遊べるようにすればいいと思いまして、
後半の7つのダンジョンに関しては、
どこでも好きなように行けるようにしました。
岩田
一本道ではなく
“順不同ダンジョン”なんですね。
四方
はい。
でも、そこにはいろいろ問題点がありまして。
岩田
いままでの構造を壊しますからね。
四方
そうなんです。
もともと『ゼルダ』というのは、
まずダンジョンに入って、
そこで新しいアイテムを手に入れて、
そのアイテムを使って
次の新しいダンジョンを見つけるという・・・。
青沼
“ゼルダの方程式”と呼ばれるものですね。
四方
だから、どうしても
一本道にならざるを得なかったんですけど、
今回はどうしようかとずっと悩んでいて、
それが「ゼルダのアタリマエを見直す」ことに
つながるんですけど・・・
ここからは、青沼さん、お願いします。
青沼
はい(笑)。
まず最初に、いろんなアイテムを
ショップで買えるようにしよう、
という話になりました。
岩田
すると、どのダンジョンでも
攻略できるようになるわけですね。
青沼
はい。ところが、その価格をどうするか、
となったときに、安い値段にすると、
全アイテムが簡単に手に入るようになって、
そのあとはルピーは必要なくなりますよね。
岩田
すると、わざわざ草を刈ってまで
ルピーを集めようとは思わなくなりますね。
青沼
そうなんです。でも逆に、
値段を高くすると、ゲームがちっとも先に
進めなくなってしまうという矛盾が
そこに生じるわけです。
岩田
はい。
青沼
そこで「どうしよう?」と・・・。
で、そのヒントが、ここ数年、
僕がすごくハマっている趣味がありまして、
具体的に言うのは控えますけど・・・。
岩田
はい(笑)。
青沼
その遊びをするには、
道具の種類がめちゃくちゃ多くて、
それらを最初からそろえるのが
けっこう大変なんです。
岩田
すると、お金もかかりますよね。
青沼
そうなんです。
ところが初心者で道具を持っていなくても
すべてレンタルできるところがあるんです。
すると、「ちょっとやってみようかな」
という気持ちになるじゃないですか。
岩田
はい。
青沼
で、一度やってみたら、
ものすごくおもしろかったんです、これが。
すると・・・(ちからを込めて)
ほしくなるんですよ! 自分用の道具が!!
岩田
はい(笑)。
で、買ったんですか? 自分用の道具を。
青沼
はい。じゃんじゃん買いました。
で、これが自分用だと思っただけでも
ものすごくうれしいんです(笑)。
岩田
要はハマッたわけですね(笑)。
青沼
完全にハマりました(笑)。
一同
(笑)
青沼
で、今度の『ゼルダ』にも
「この手が使える」と思ったんです。
最初は安くレンタルしてくれるんだけど、
やっぱり自分用がほしいよね、
という方向に持っていくようにすれば、
みんなもせっせとルピーを集めてくれるでしょうし。
四方
これまでは、ルピーをたくさん集めても
あまり使い道がない、みたいに
言われたりしていましたしね。
青沼
さらに「自分用のアイテムは
バージョンアップできるようにしよう」とか
スタッフからいろんなアイデアが出てきて、
「これでいこう」ということになりました。
岩田
それで、自分で好きなように
ダンジョンを選んで、そこに入り
もしどこかで詰まっても、アイテムをレンタルして
別のダンジョンを攻略できるようになったんですね。
青沼
そうです。
そうやって、これまでの『ゼルダ』史上には
なかった遊びになりました。
岩田
それにしてもレンタルシステムは、
どこからその発想が生まれたのかなと思っていたんですが、
じつは青沼さんの個人的な趣味が
元になっていたんですね(笑)。
青沼
じつはそうなんです(笑)。