5. 「その手がありましたか!」
岩田
3DSで新しい『ゼルダ』をつくるにあたって、
ほかにはどんな課題があったんですか?
青沼
今回、立体視が可能ということで、
高さ方向にいろんなネタを置こうとしたんですけど、
そもそもそういうことに
トライしたことがなかったんです。
岩田
経験者が誰もいないんですね。
青沼
そうなんです。
だから、「これだ」という良いアイデアが
なかなか出てこなかったんですけど・・・
この先の話はディレクターからお願いします。
四方
はい(笑)。
前作でいちばん高低差があるのは「ヘラの塔」で、
どんどん上に登っていく構造になっているんですけど、
そこで、その塔をもとにして
試しに3Dのダンジョンをつくることにしました。
でも、その時僕はまだ
『Nintendo Land』をつくっていましたので、
冨永さんがそのダンジョンを
ずっと考えていてくれたんです。
冨永
その時は、塔の高さを強調しようということで
ひたすら上に、上に登っていく感じで、
60フレームの快適さを活かした
小気味のいいアクションをつくろうと思っていました。
たとえばハンマーを使って
ジャンプ台を叩くと
上のフロアーに飛んでいったりとか。
青沼
それって、けっこう大きい変化なんです。
というのも、過去の『ゼルダ』では、
別のフロアーに行こうとすると
たとえば階段で上がるとか・・・。
岩田
リフトに乗ったりとか・・・。
青沼
はい、そのようにして
上のフロアーに上がっても、
高さを見た目に表現できていなかったんです。
岩田
階段で上がっても、そこには
閉ざされた部屋があるだけでしたからね。
青沼
ところが今回は
階層をどんどん登っていくと、
下の階が重なって見えるようになるんです。
ハンマーを叩いてジャンプするという仕掛けが入って、
ぽーんと飛んだときに、上の階に自然に切り替わる
という表現が生まれたときに、
「これだ」と思いました。
岩田
立体視の真骨頂はここにあり、
と思ったんですね。
青沼
はい。
冨永
それに前作では、塔といっても
内部のフロアーがあっただけだったのですが、
今作では“壁に入る”というネタも活かして、
塔の外側にも出られるようにしました。
岩田
壁に入って、くりんと回るようなやつですね。
冨永
そうです。
青沼
その「ヘラの塔」は
2013年のE3(※17)の前に、
岩田さんにも見ていただきましたけど、
その時に言っていただけましたよね。
「その手がありましたか!」って(笑)。
岩田
はい(笑)。それを見たとき、
3DSの立体視を活かすという意味で、
『ゼルダ』のポテンシャルを強く感じましたから、
「その手がありましたか!」
と、つい言ってしまいました(笑)。
青沼
僕は、岩田さんのその言葉を聞いたとき、
ものすごく手ごたえを感じたんです。
「これでいける!」と。
でも、「ヘラの塔」をつくったのは、
岩田さんに見てもらうよりも
けっこう前だったんです。
冨永
そうですね。「ヘラの塔」をつくったのは、
2012年の年末だったんですけど
それから一気に人が増えてきて・・・。
四方
僕らも戻ってきましたしね(笑)。
青沼
最終的にはすごい人数になりました。
冨永
で、新しいメンバーに対しては、
「ヘラの塔」をまず見てもらって、
「今度の『ゼルダ』はこんな感じでつくります」
ということを伝えたんです。
岩田
そのように人が増えたタイミングで
デザイナーの高橋さんも合流したんですよね?
高橋
はい。『とびだせ どうぶつの森』が終わって、
すぐに合流しました。
岩田
ちなみに、壁に入ったときの絵は、
どうしてあのようなリンクにしたんですか?
高橋
そこはいろいろと試行錯誤がありまして・・・。
岩田
たぶんあの絵をどうするかについては、
山ほど悩んで、ものすごい議論がないと、
あそこにはたどり着けないだろうなと
想像するんですけど・・・。
高橋
はい。かなり議論をしました。
僕もこのチームに入ったとき、
壁に入ったときのリンクの表現が
けっこう大きなお題だなあと感じていましたし。
岩田
それまでは、さっき見せてもらった試作のように、
『大地の汽笛』の3Dのリンクが
そのままの姿で壁に入って、
ペタンと2Dになっていたわけですからね。
高橋
そうなんです。
でも、普通にプレイするときは
上からの視点だったのが、
壁に入ると、横からの視点になって、
いつもと異なる状況になるわけですから、
リンクの絵柄も変えるべきだと思いました。
岩田
リンクが壁に入ったときに、
絵柄を変えることで、その状況の変化を
わかりやすく伝えようと思ったんですね。
高橋
そうです。
それに“壁に入る”という言いかたをすると、
なんだか壁の中に
別の世界があるみたいに感じたんです。
岩田
実際は“壁に入る”というよりは
“壁に張り付く”わけですからね。
高橋
はい。そこで、
“壁に入る”ではなく
“絵になる”という表現に変えて、
リンクが壁にペタンと張り付く感じを出せば
いいのではないかと思いました。
四方
ただ、なぜリンクが絵になるのか、ということで、
ストーリーも考える必要が出てきまして、
そこで、わけのわからない絵を描いては、
ひとりで満足している変な芸術家のような敵を
登場させることにしました。
青沼
その時に進めていた絵柄は
アバンギャルド(前衛的)なリンクだったんです。
片目だけが妙にでかかったりして(笑)。
高橋
やっぱり変な芸術家ですから(笑)。
青沼
でも、その絵を見た毛利さんは
ものすごく反対したんですよね。
高橋
すごく反対していましたね・・・。
毛利
それはたぶん、僕が最初に
3Dのリンクが壁に張り付いて
2Dになるような試作を
自分でつくったからだと思うんです。
岩田
その試作は、一晩でつくったにしろ、
四方さんに「おおーっ! これだ!!」と
言わしめたわけですから、
愛着があって当然ですよね。
毛利
はい。やっぱり思い入れがありました。
青沼
そこで、高橋さんはすごく悩むことになるんです。
高橋
はい。ものすごく悩みました。
「どこに落とし込めばいいんだろう」と。
そこで、「“絵になる”ではなく、
“壁画になる”というかたちにすればいいのでは」
と考えて、最終的にあの絵柄にしました。
青沼
あの壁画になったリンクを見て、
毛利さんもすぐに納得したんですよね。
毛利
はい。すごく納得しました。
“壁画になる”というかたちにしたほうが、
『ゼルダ』の世界観にも合っていますし。
青沼
そうやって、絵のイメージが固まるまで
いろんな試行錯誤があったんですけど、
じつはリンクが壁画になることで、
いろんなことができた時期もあったんです。
毛利
たとえばジャンプとか・・・。
岩田
ジャンプ、ですか?(笑)
青沼
リンクがまるでマリオのように
ジャンプをしている時期もあったんです(笑)。
岩田
へえ~(笑)。
青沼
でも、キッパリやめました。
四方
やっぱり“壁画になる”という目的を、
「移動する手段」ということだけに絞ったほうが、
プレイヤーも迷わずに遊べるだろう、
ということなんですね。