開発テーマを切り替えて、
どのようなことを具体的にしたんですか？

たとえば、これまでの『脳トレ』だと、
トレーニング中に教授が出てくることは
ありませんでしたが、
今回は マンツーマンで登場するんです。

正解すると、教授がほめてくれたり、
くじけそうになると、励ましてくれたりします。

そういった演出は、
わりと開発の中盤になってから
詰め込んでいきましたよね。

そうですね。

でも、僕も教授の演出が入った頃に、
ガッツリとモニターをしてみたんですけど
・・・計算できなかったんです。

それはどうしてですか？

「はいっ」とか「へえ」とか、
教授の合いの手がいっぱい入りすぎていて・・・。

ああ、計算に集中できなかったんですね。

そうなんです（笑）。
だから・・・（サッと手を払うような仕草をして）
「あーもう、うるさい！」って（笑）。

でもたぶん、声がないと味気ないし、
その一方で、しゃべりすぎると・・・。

すごくじゃまになるんです。

あまり上手じゃない家庭教師みたいになるんですよね。

教授のキャラクター設定はすいぶん苦労しました。

最初は火山でしたしね（笑）。

その火山のときから、
音声を入れることは決めていたんです。
そこで、どういう口調にして、
どういう見かけがいいのか、
検討をはじめたんですけど、
最初は、鬼教官とか鬼体育教師みたいな
本当に怖いイメージだったんです。
セリフは全部、伊藤さんに
お任せしていたんですが・・・。

伊藤さんが教授のセリフを書いたんですか。

はい。まずは、
「どんなセリフにしたらいいんだろうか？」
ということで、４パターンくらい考えて、
スタッフからアンケートをとってみたんです。
「すごく厳しい」のと、
「そこそこ厳しい」のと、
「やさしい」のと・・・
「すごくイヤミなタイプ」と。

はい。

すると「そこそこ厳しい」が票を集めたので、
それで開発を進めたんですが、
そのあと、別の人たちにモニターをやってもらったら、
大不評だったんです。

それはなぜなんですか？

「厳しすぎるし、教授の上から目線がイヤだ」
「なんか、怒られてるみたいでイヤだ」と・・・。

あの・・・話の途中ですが、
これをお読みのみなさまにお伝えしたいのですが、
このあたりの話は、川島教授ご本人との人格とは
いっさい無関係ですから、くれぐれも
誤解なきようにお願いいたします。

そうですね（笑）。
川島先生は、任天堂が
先生のキャラを創作することに対して、
大らかに対応していただいていて、
すごく救われています。

川島先生はすごく寛容な方なので、
初代の『脳トレ』のときから
ずいぶん助けられていますよね。

で、「そこそこ厳しい」でも、
教授から怒られているように感じたわけですね。

はい。そこでセリフを少し丸くしてみたら、
「まあまあ好き」という回答が増えたんですが、
それでも「すごくイヤだ」
という意見はなくならなくて。

何がいけなかったんでしょうか？

「どこが気に障るのかな？」と思って、
いろいろ考えたんですけど・・・。
やっぱり上から目線ということに
すごく敏感な方たちがいらっしゃるんです。
ゲーム機の中のキャラクターが
対等な言葉づかいで話してくることに
違和感があるのかなと。

たとえばどんなセリフに違和感があるんでしょうか。

たとえば「すばらしい！」というほめ言葉でも、
言いかたによって、バカにされたような・・・。

同じ言葉でも、
言いかた次第でイヤミに聞こえるんですね。

文字だけなら読み飛ばせたものが、
音声だとどうしても耳に入ってくるので、
ちょっとした言い回しでも気になるんだと思います。

しかも最初は、声優さんではなく、
社員の声を仮で入れていたんです。なので、
「しっかりとした間合いを取るために、
　プロの声優さんを早めにセッティングしたほうがいいよ」
というアドバイスをしました。

はい。そのアドバイスをもらって・・・。

すぐに声優さんで仮録りして、
デバッグを開始したのですが、デバッグスタッフの中でも
「ちょっとイヤだ」という感想があったんです。
そこで、本収録までに、伊藤さんが
テキストをいろいろ調整して・・・。

はい、声優さんの本収録のときは
セリフの一つひとつを聞きながら、
「いまのところがちょっと気になるから」と
何度も何度も録り直しをお願いしました。

その甲斐あって、製品に入っている音声は
ずいぶんよくなったと思います。

わたしも実際にやってみて
けっこう自然にできる感じがしましたよ。

そこに関しては、じつはセリフを直しただけでなく、
演出の面でもちょっとした工夫をしているんです。
最初は正解していくと、
教授が「いいですね！」とか言ってくれたりしますけど、
プレイヤーが集中してきたタイミングで
いつの間にか出てこなくなるようにしました。

あ、そうかそうか。
教授はずっとしゃべり続けるんじゃなくて、
調子が良くなると、静かに見守ってくれるんですね。

そうなんです。
で、ちょっと失敗すると、また励ましてくれて、
そのあと調子にのってくると、静かになる、
という流れにしています。

だから「教授、うるさい！」みたいなことは
感じられなくなったと思います（笑）。

（笑）

でもそうやって、
教授とマンツーマンであることで
「鬼トレ」の厳しさが軽減されていて、
続けやすくなっている、ということなんですね。

はい、そのとおりです。