では今回の『新 絵心教室』がどのようにはじまったのか、
寺崎さんから話してもらえますか？

はい。『新 絵心教室』をつくるにあたっては、
まず、「新しい柱がほしい」と思いました。
そこで企画を考えはじめたんですけど、
任天堂イベリカのニコさんが
「3DSで新作をつくるのなら、おれの意見も聞いてくれ」
と言い出したんです。
それで、Kujuさんと打ち合わせをするときに、
いっしょに来てもらうことにしました。

それって任天堂ではすごく珍しいパターンですよね。

そうですね。
任天堂では、最初に物を売る人たちの意見を聞いて、
ゲームをつくることはほとんどありませんから。
でも、それくらいニコさんが
このソフトに惚れ込んでいたんです。
で、その打ち合わせでニコさんがいちばん主張したのは、
シェア・・・つまり、「自分のつくった作品を、
友達と交換できるようにしてほしい」と。
そうでしたよね、タンクさん。

はい。でも、じつはお客さん同士で、
描いた絵画や、それに対するコメントを
交換しあえるような機能は
自分たちとしても追加したいと考えていたんです。

やっぱり絵が描けないと思っていた人が
上手に描けたときに、
どうしても人に見せたくなるんですよね。

まるで寺崎さんのようにですね。

はい（笑）。
そこで、「人に見せたい」という気持ちを
さらに満たしてくれる機能がほしいということで、
今回はいつの間に通信やローカル通信^（※7）を使って、
自分の描いた絵を交換できるようにしました。

ただ、シェアの仕組みをつくろうとすると、
いろいろなガイドラインをクリアすることが必要になりますよね。

はい。人が不快に思うような絵を
送られてきては困りますからね。

そこで、一条さんが大活躍してくれたんです。
一条さんはこのソフトに関わる前に、
『マリオカート７』^（※8）のチームにいたものですから。

あのソフトは、ガイドラインに関与する仕様が
複雑にからみあっていたので、
全部をきっちりとつくり上げるのは
めちゃくちゃ厳しかったはずです。

そうなんです。
あのソフトでみっちり鍛えてもらって、
そこで身につけたことを、今回の『新 絵心教室』に
しっかり反映してもらいました。

どんな仕事の経験にも、無駄はありませんね。

はい（笑）。

それで、ニコさんから提案されたのは、
自分の作品をシェアするだけではなかったんです。

それはどんなことですか？

これまで、絵の描きかたが学べるレッスンは、
わたしたちが考えたものだけを提供していたのですが、
「 レッスンをお客さんにもつくれるようにしよう」
というアイデアだったんです。

つまり、たとえば絵画の先生が、
自分の生徒に合ったレッスンをつくって、
提供できるようになるんです。

それは、美術館で絵画教室を開いてもらったり、
実際に自分でも絵画教室に通うようになった、
ニコさんならではのアイデアですね。

そう思います。
レッスンをお客さんがつくるというのは、
われわれの発想の中には
まったくありませんでしたから、それを聞いて、
素晴らしいアイデアだと思いました。

それに、絵画の先生だけでなく、
絵がすごくうまい友達がいたら・・・。

「それ、どうやって描いたの？」と、
レッスンのかたちで、描きかたを
教えてもらうこともできるんです。

なるほど。
レッスンを自分でつくれるようにすることで
どんどん広がっていきそうな気がしますね。
そのほかにも『新 絵心教室』になることで、
どんなところが強化されたんですか？

前回の『絵心教室』のときは、
鉛筆と絵の具の２種類しかなかったんです。
今回はそれに加えて、 色鉛筆とパステルという
まったく新しい画材を追加して、
キャンパスも紙か布かを選べたり、
カラーも選択できるようになりましたので、
作品の幅が前作よりも広がると思います。

それに、画材が増えただけでなく、
今回は、より本物の絵の具や鉛筆を
使っているみたいに感じられるように、
触り心地や表現の強化や改良を行いました。
さらに3DSになることで、
扱える画像の解像度^（※9）も上がりましたので、
よりきめ細かな表現ができるようになったと思います。

しかもニンテンドー3DS LLも発売されましたしね。

そうですね。
より大きな画面で、
ダイナミックに描けると思います。

ニンテンドーDSiウェアのときは
“わりと本格的”という
サブタイトルが付いてましたが・・・。

今回は“より本格的”になりました（笑）。

それに今回は、描きかけの絵が
たっぷり保存できるようになったのも、
自分的にはすごく大きいと思っています。
僕は根っから、絵を描くのが好きじゃないので、
長い時間をかけて、絵を描いていられないんです。

だから「３０分で描けるようにして」と
最初に言ったわけですしね（笑）。

そうなんです。
自分は３０分しかもたないんです。
だから、絵を描きはじめても、
なかなか完成しないことが多くて・・・。

描きかけで終わってしまうんですね。

そうなんです。
そこで、描きかけの途中でセーブして
残しておきたいんですけど、
前作だと、ハードウェアの制約で
ニンテンドーDSiウェアのときは１個だけで、
パッケージ版も３個しか残しておけなかったんです。
でも、今回はSDカードをたっぷり使って、
描きかけの絵をたくさん保存できるようになりました。

だから、途中で描きかけで終わっても、
あとからじっくり仕上げることができるんですね。
しかも、完成した絵を保存できるのは
最大３０００枚でしたっけ？

そうです。仕上げた絵は、
ニンテンドー3DSカメラの写真保存エリアに
残すようになっていて、
そこのキャパが写真と合わせて最大３０００枚なんです。

あと、自分が描いた絵は
ギャラリーで見ることもできるようにしました。
展示された自分の作品を
３Ｄ空間の中で見てまわるというのは、
とても素敵な体験になると思います。

寺崎さん、それはたまりませんね（笑）。

はい（笑）。（3DSを出しながら）
これが ギャラリーなんですけど・・・。

はい・・・。
ああ、本物の美術館のような雰囲気ですね。

じつは、Headstrongさんのふたりと宮地さんの４人で、
ロンドンの有名な美術館に見学に行ったんです。
そのときにインスパイアされて、
このようなギャラリーになったんだと思います。

そうですね。
それに、ロンドンの美術館を訪れたときに、
とても印象的だったのは、
寺崎さんと宮地さんが、油絵の分厚さや質感に
すごく感銘を受けていたことなんです。

油絵を実際に見ると
すごくでこぼこしていますからね。

だから、今回のギャラリーでも、
３Ｄで絵の深みや厚みが表現できるように、
いろいろ努力をしてみました。

“生徒Ａ”と“生徒Ｂ”は、
意外なところでも役に立った、
ということですかね（笑）。

はい、そのとおりです（笑）。