そのように手塚さんと竹本さんの思いが一致し、
短いコースをつくる実験がはじまって、
手ごたえはどうでしたか？

その時は、
『New マリオ U』のコースを短く加工して、
難易度を高くしただけのものだったんですけど、
遊んでみると、じつによかったんです。
もともと知ってるコースでも
遊びのバリエーションが拡がって、
とても新鮮な気持ちで遊ぶことができました。
でも、その時はまだ、追加コンテンツを
たくさんつくることは考えていなかったんです。

「追加コンテンツでコースを全部変えよう」なんて、
ふつうは思わないですよね（笑）。

でも、それが
「全部を変えても大丈夫や」となったんです（笑）。

追加コンテンツなのに、ですか？

はい。１コースを短くすることで
全部つくれると思いました。

竹本さん、手塚さんから
「全部を変えよう」と言われたとき、
どう思いましたか？

「作業量がとんでもないな」と（笑）。

「もう１本、つくってください」と
言われたようなものですからね（笑）。

それに、『New マリオ U』には
いろんなものを、できる限り詰め込もうということで、
スタッフみんなが持っているアイデアを出し切るように
がんばってつくっていたんです。
ところが、それが終わりかけの頃に、
手塚さんからそういう話をいただいたので、
「自分たちにもう１本つくれるかな？」と、
正直すごく不安に思いました。

スタッフからも言われましたからね。
「へとへとなのに」とか
「全部出し尽くしたのに」とか（笑）。

「燃え尽きて真っ白なのに、
　何を言うんですか！」みたいな（笑）。

雰囲気は完全にそうでしたね。

「コースが短い」と言っても、マラソンで長い距離を走ってきて、
ゴール目前になってから「もう１回ハーフマラソンを走ってくれ」
と言われるようなものですからね（笑）。

そうですね。でも、僕は
「アイデアを出し尽くしたってホンマか？」と（笑）。

手塚さんは「まだまだ走れる」と？（笑）

はい。冷静に考えたら、
「もっとつくれるんじゃないの？」と。

そんな無茶なことを
しれっと言うのが手塚さんらしいですね（笑）。

（笑）

無茶な話はもうひとつありまして（笑）。

はい（笑）。

3DSの『New マリオ 2』の開発が終わり、
手の空いたコース制作者がいたので、
その人たちにも合流してもらったんです。

新しい血を入れたんですね。

まさにそうです。
同じ『New マリオ』でも、
携帯機でつくるのと、据置機でつくるのは
やっぱり違うんですね。
そこで「違うチームの血が入ることで、
また新しいものができるんじゃないかな」
という期待がありました。
もちろん、自分では
「わりと無茶を言ってるな」と思いつつも、
「まあ、はじめてみようよ」と、
スタッフに伝えました。

新しい血が入るとどんな感じでした？

とても新鮮でした。
こっちは正直に言うと、『New マリオ U』で
あれだけたくさんのコースをつくって、
疲れ切っているところに・・・。

やる気満々の人たちが大量に流入してきて、
彼らがキャッキャ言いながらつくりはじめたんですね。

そうなんです。
ですから、あとから合流した人たちのほうが
コースをつくるペースがすごく速くて、
「もとからいた人たちは大丈夫かな？」
と、ちょっと心配もしたんですけど、
あとから入った人たちの姿に刺激されたのか、
次第にいろんな新しいアイデアが出てくるようになりまして、
手塚さんが新しい血を入れてくれたのは、
当たりだったと思います。

（うれしそうに）よかった（笑）。

それに、たとえばコースづくりにしても、
Wii Uのチームだと、マルチプレイを想定しますので、
幅のあるコースを考えがちになるんです。
ところが3DSから合流したスタッフは、
１人プレイを前提で考えるので、
『New マリオ U』のコースとは
違う感じが出せるようになったと思います。

しかも、みんながつくるスピードも速くて
「思っていたよりも、早くできそうだな」
と思いました。

サクサクつくることができたんですね。

ええ。

その時、ルイージは？

まだマリオでつくっていました。

わたしは、このゲームの主役が
マリオからルイージに替わった日のことを
ハッキリ覚えているんですけど、
手塚さんが会議中に突然、
「『New マリオ U』の追加コンテンツは、
　ルイージのゲームにしようと思うんですけど」
と、言いはじめたじゃないですか。

はい、そうでした。
会議の時に、岩田さんから
「今年は“ルイージの年”にしたい」という話を聞いて、
「ああ、それならば、いまつくっているのは、
　それに合わせるべきだ」と思ったんです。

ちなみに、ルイージが世の中にデビューしたのは、
１９８３年に稼働をはじめた
アーケードゲームの『マリオブラザーズ』^（※6）で、
それから３０年が経ち、
今年は『ルイージマンション２』^（※7）など
ルイージに関係するソフトがいくつか出ることもあって、
わたしが宮本（茂）さんに
「今年は“ルイージの年”ということにするのはどうでしょう？」
という思いつきを提案してみたんです。すると、
「いつも日の当たらないルイージに
　注目してもらえるのはいいですね」
ということで賛成してくれて、
「じゃあ、ニンテンドーダイレクト^（※8）で
　わたしがルイージの帽子をかぶります」って（笑）。

（笑）

だから、手塚さんは「その話にひとくち乗ります」
という感じだったんですよね（笑）。

「ぜひ乗っからせてください！」
という感じでした（笑）。
じつは、追加コンテンツについては
すごく悩んでいたんです。
「どのような方向でつくればいいんだろう？」と。
そこで、ふつうに追加コンテンツをつくるよりも、
主役をルイージに替えたほうが
たくさんの人から注目されると思いましたし、
自分たちとしても、ルイージを軸に
このゲームをまとめていったほうが、
方向性もしっかり定まりますし、気持ちも乗って、
つくりやすくなるんじゃないかなとも思いました。

そうですね。

だから、わたしにとっては
“ルイージの年”がすごい助け船になったと、
いまでも思っています。

ちなみにその会議の場で、
手塚さんから出てきたそのアイデアを
宮本さんとわたしが絶賛したんです。

わたしが褒められることって
あんまりないんですけどね・・・（笑）。

（笑）