社長が聞く Wii プロジェクト - Vol.4 『Wii Sports』編

岩田  聡 [取締役社長]
岩田  聡 [取締役社長]
江口 勝也 [情報開発本部 制作部]
江口 勝也 [情報開発本部 制作部]
太田 敬三 [情報開発本部 制作部]
太田 敬三 [情報開発本部 制作部]
山下 善一 [情報開発本部 制作部]
山下 善一 [情報開発本部 制作部]
嶋村 隆行 [情報開発本部 制作部]
嶋村 隆行 [情報開発本部 制作部]

第1回 「このパッケージングは、ある種の発明だと思う」

岩田 さて、今回からはソフト編の開始ということで
まずは『Wii Sports』の開発者のみなさんに
集まっていただきました。
それでは、江口さんから自己紹介をお願いします。
読んでる方にわかりやすいように、
これまでの仕事も教えてください。

江口 情報開発本部の江口です。
『Wii Sports』ではプロデューサーを務めました。
古い仕事でいうと、『スーパーマリオワールド』の
コースを作ったりしていました。
最近の仕事でいうと、『おいでよ どうぶつの森』の
プロデューサーをやりました。
ちなみに、『はじめてのWii』というソフトも
同時進行で担当しています。

太田 情報開発本部の太田と申します。
『Wii Sports』には5つのスポーツが入ってるんですけども、
その中のテニスのディレクターを担当してます。
これまでの仕事というと、いろいろあるんですが、
ちょっと変わったところでは、5年前のゲームキューブの発表会で
『100人マリオ』を壇上で操作していました(笑)。

山下 情報開発本部の山下です。
『Wii Sports』の中のベースボールと
ボクシングの担当をしています。
最近の仕事でいうと、ニンテンドーDSの
『やわらかあたま塾』のお手伝いをしました。
そのまえは『ピクミン』と『ピクミン2』を手がけていました。
そのずっと前は、『タレントスタジオ』を手がけていたんですが
そんな古い話はいいですかね?

岩田 いえ、あとでうかがうことになるかもしれません(笑)。

嶋村 情報開発本部、嶋村と申します。
『Wii Sports』では、ゴルフとボウリングの
ディレクターをやらせていただいてます。
私は3年前に情報開発本部に異動になって、
最近では『nintendogs』をやらせていただきました。

岩田 はい。じゃ、まず江口さんから。
『Wii Sports』ってどういうふうに作られ始めたんですか。

江口 一番最初のきっかけは、リモコンの開発なんです。
Wiiの大きな特長ともいえるリモコンが開発されたときに、
これを使ってどんなことができるだろうというのを
いろいろと内部で試作していたんですね。
その中で、太田さんが作っていたテニスであるとか、
山下さんたちが作っていた野球といった試作品があって、
さあ、それをどうやって商品にまとめていこうかと、
そういう流れの中でこのゲームはできていきました。

岩田 最初から『Wii Sports』として開発が始まったわけではなく、
あくまでも「リモコンの特長を最大限に活かした試作品」
というところから始まったんですね。
太田さん、テニスの試作品ができた経緯について教えてください。

太田 ぼくはプログラマーだけの小さなグループにいたんですけども、
Wiiのコントローラが現在のリモコンに決まる前から、
いろんな試作をずっと作ってきたんです。
ですから、本当に、いろんなコントローラのサンプルがあって、
それに合わせて試作品をどんどん作るという状況でした。
テニスはその中で生まれたもののひとつですので、
はっきりとなにかを意図して作ったというものではないんです。
まあ、Wiiのリモコンが棒状のものでしたから、
すぐに連想されることとしてテニスを作ってみたら、
明らかに手応えがよかった、というのが正直なところです。

岩田 コントローラのハードの試作と、それを使ったソフトの試作、
このふたつの動きが速やかにリンクしているというのが
任天堂のコントローラ作りの秘密だと私は思ってるんです。
つまり、ハード側からコントローラの提案があると、
すぐにソフト側が試作品を作って、
その手応えをハード側へフィードバックする。
今回の『Wii Sports』は、そのフィードバックの積み重ねの中から
商品が生まれたというところですね。

太田 そうですね。試作は、本当にたくさんのものを作りました。
そこから生まれたもののうちのいくつかは、
『はじめてのWii』の中にも磨かれた形で入っています。

岩田 つぎつぎに試作を作り続けているというのは
いったいどういう感じなんでしょうか。
まあ、言ってしまえば、つぎからつぎに、
これまで想像もしなかった形状のコントローラが届いて、
それに合わせてソフトを作るわけですよね。
商品化というゴールが確約されているわけでもないし、
自身のセンスとインスピレーション以外によりどころもないし。

太田 けっこうというか、かなり楽しかったですね。
これまでの延長線上にあるひとつのコントローラを前にして
何か新しいことができないかとあれこれ考えるよりは、
つぎつぎにいろんなコントローラが届いて、
ひらめくままに作っていくほうが楽しいというか。
しかも、商品化を目的にしているわけじゃないので、
ある程度の手応えを得られたところでやめていいわけですから、
すごく速いサイクルで、思ったことや感じたことを
どんどん形にしていく。それはやっぱり楽しい作業です。

岩田 じゃあ、太田さんとしては、仕事の中で
一番おもしろいところだけやらせてもらってました
っていう状態だったんですか(笑)?

太田 ええ、まさに。もうくり返し、くり返し、作ってました。
好きなものを、好きなところまで作る、というか(笑)。

岩田 それはある意味で太田さんの天職かもしれませんね。

太田 ええ(笑)。

岩田 山下さんが野球の試作を作ったときはどんな感じだったんですか。

山下 正直なところ、一番大きなきっかけは、
「まだ誰も作ってなかったから」なんです(笑)。
社内の試作品を見渡してみても、なぜか誰も作ってない。
なんで誰も作ってないの? と思いながら作ってみたら、
かなり感触がよかったんですね。
それで、ほかのチームの人にも見てもらうようになって、
太田さんのチームと合体するような感じで作ることになりました。

岩田 なるほど。嶋村さんのゴルフはどうですか?

嶋村 もともとはまったく別のソフトの中で、
ひとつのミニゲームとして作り始めたのがきっかけでした。
そのときは、はっきりしたゴルフゲームではなく、
パターゴルフとして作り始めたんです。
本格的にゴルフゲームを作るとなると、
やはりコースを作ったりだとか、大がかりになりますので。
ところが、太田さんと山下さんのプロジェクトがひとつになって
だんだん大きくなっていって、
いくつかのスポーツゲームを「スポーツ・パック」という感じで
まとめようということになりまして、
合流させていただいたという感じです。

岩田 いま、「パック」っていう言葉が出ましたけど、
いくつかのソフトをパックにして商品化しようという構想が
Wiiを立ち上げていくなかで生まれてきたんですよね。
そのパックシリーズのプロデューサーが江口さんなんですが、
まとめるといってもかなり大変な作業だったでしょう?

江口 そうですね。
なにしろ、いろんな試作品がたくさんあるんです。
もう、混沌としている状態、というか(笑)。
さっき太田さんが、
「好きなものを好きなところまで作ってやめられるんで、
すごく幸せだった」という話をしていましたけど……。

岩田 私もプロデューサーの経験がありますからわかるんですが、
それってまとめる立場からしてみれば悪夢のような状態で(笑)。
「これはよくなりそうだ」というおいしそうな素材が、
フィニッシュされていないまま、散らかっているわけですからね。

江口 もう、まさにそのとおりの状態で。
「これをどう料理してお客さんに出したらいいんだろう?」
ということでずっと悩んでました。
で、そのときに宮本(茂)さんも同じように
パックのことをずっと気にしてらっしゃって、
あるとき、すごく珍しいことに、宮本さんが、
その混沌した材料をどうまとめるかというのを
紙にまとめて書いてくださったんですよ。

岩田 え? 宮本さんが紙にまとめたの?

江口 まとめたんです(笑)。
ぼくも初めて見ましたよ、
宮本さんがそういうものを書いたというのは。
宮本さんの頭の中って、こんなふうになっているんだな、
というようなまとめ方の紙だったんですけど。

岩田 私は昔、『ピクミン』の仕様書っていうのを
見せてもらったことがありますよ。
といっても、紙一枚の表裏にざっと書かれたものでしたけど。
でも、宮本さんって、ふつうは
どうしようもなくなるところまで
放っておくじゃないですか(笑)。
で、担当者が煮詰まり切ったころに、
そういう紙が一枚、ぺらっと出てくるという感じで。
でもそれが『Wii Sports』では最初に出てきたんですか。

江口 そうですね。
宮本さんもきっと、Wiiの立ち上げに際して、
これを何とかしなきゃいけないと思ったんじゃないでしょうか。

岩田 そう思ったんでしょうね。
ちなみに、どういう指示が書かれていたんですか。

江口 いやもう、言ってしまえば、汚い図なんですけど(笑)。

一同 (笑)

岩田 その中には、最近、宮本さんがよく語る、
ヘルスパックの構想も書かれていたんですか?

江口 そうですね。
Wiiでは家族をつなぐリビングの中心にある道具、
という考えを押し進めていく構想でしたから、しっかり書かれてました。
ヘルスパックから更に繋がる広がりまで、
宮本さんの頭の中の雑然さがそのまま出たような感じでしたけど(笑)。
でも、本当に、全部書いてありましたよ。
たくさんあった試作のひとつひとつを
これは「スポーツ」、これは「ファミリー向け」というように
だいたいの感じでグループ分けしてあって。
そのなかの「ファミリー向け」のものは
『はじめてのWii』になるんですけど、
リモコンを一緒に売るということも書いてありましたし、
「Wii伝言板」のカレンダーとの連動も書いてありました。
この、「Wii伝言板」との連動というのは、
毎日Wiiの電源を入れてもらうための
きっかけになればということで入れた仕様なんですけど、
『Wii Sports』と、『はじめてのWii』をプレイすると、
そのプレイの結果が、「Wii伝言板」のカレンダーに
ぺたっと貼り付けられるようになっているんです。
そういったことも、宮本さんのまとめた紙には
おおまかな仕様として書いてありました。
その1枚の紙が『Wii Sports』の
実質的なスタートラインになったんです。

岩田 ちなみにそのとき、江口さんはもう、そのパックシリーズの
プロデューサーをやることになってたんですか?

江口 いや、なってませんでした。

岩田 まだ自分にその役割が降ってくると知らずに
その紙を見ていたわけですね(笑)。

江口 ぜんぜん思っていませんでした(笑)。

岩田 なるほど(笑)。
私は、宮本さんからこの「パック構想」を聞かされたときに、
すごく新しい試みでおもしろいなと思ったんです。
ふつうは、ひとつの軸になるゲームがあって、
そのまわりにミニゲームがあるか、
あるいはもう、何十個もミニゲームが集まっている、
というふうなパッケージにしますよね。
ところが『Wii Sports』では、5つのゲームが集まっている。
たとえばテニスがうまくゲームとしてできそうだというときに、
これまでのゲームの文法であれば、
徹底してテニスだけで1本のゲームに磨き込んでいって、
テニスのゲームのモードをたくさん作って、
プロテニス協会みたいなところのライセンスをとって、
で、任天堂のゲームであればマリオをキャラクターにかぶせたり
する方が一般的な道だと思うんですね。

江口 そこに行かなかった理由は、やっぱり第一には、
早く商品にしなきゃいけないと感じたことです。
やっぱり『Wii Sports』はWiiリモコンのたのしさを
お客さんにわかってもらうのにすごくいいソフトなので。

岩田 どうしてもハードの発売のときに出したかったと。

江口 はい、間に合わせなきゃいけない。
そのためには、無闇に規模を大きくせずに
効率よく磨き込んでいくべきだという判断をしました。
そういう判断と、あと、岩田さんが以前から言っていた
「百科事典みたいなゲームばっかりじゃなくて
アイデアと切り口さえよければ、
雑誌やコミックのようなゲームがあってもいい」
ということが頭にありまして、
見た目はそれほど豪華ではなくても
「シンプルにまとまっているけど奥が深い」という
中身で勝負できるソフトにできると思ったんです。

岩田 このパッケージングというのは、
私は、ある種の発明だと思うんです。
豪華な1本でもなく、100種類のミニゲーム集でもなく、
何かのライセンスものでもなく、
有名なキャラクターが乗っているわけでもない。
当初の開発コンセプトだった
「新しい操作によるまったく新しい遊び」
を十分に活かしつつ、なおかつ、
「ひとつひとつは練り込まれていて飽きない」
という磨かれ方をした5本のソフトが詰まっている。
そういうバランスのパッケージングは
これまでになかったと思うんです。


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