社長が聞く Wii プロジェクト - Vol.1 Wii ハード編

第2回「誰でもが平等に触れるということが前提」

岩田 宮本さん、コントローラを作り始めたころ、
宮本さんの中にあったキーワードってなんでしたか?

宮本 「怖がられない」ですね。
もう、見ただけで「自分に使えるかな?」と
不安に感じるようなものではなく、
見た瞬間に、つい使ってみたくなるようなもの。
ただ、ぼく自身が、ずっとゲームを作ってきたので、
過去のソフトがきちんと動かせるというのが前提なんです。
だから、過去のソフトがきちんと操作できて、
しかも怖がられないデザインというのは何か?
ということをずーっと追いかけていたと思いますね。
そんななかで、さきほど話にあがった、
「べつに両手で持たなくてもいいんだ」という、
これまでのコントローラを
いったんリセットするコンセプトが出てくるわけですね。
そういうことは開発の当初から岩田さんも言っておられましたし。

岩田 そうでしたね。ずいぶん極端な案もお話ししましたね。

宮本 その、自由な形で発想するというのが、すごくよかったんです。
完成したコントローラに直接結びついたわけではないんですが、
「それぐらい崩してもいいんだよ」という
ひとつの大きな考え方として、発想の枠を広げたんですよね。
だから、「もう手を使わなくてもいいんじゃないか」とか、
「頭にかぶって使ってもいいんじゃないか」とか、
そういう発想であろうと、いちおう許すよ、という意味でとてもよかった。
ところが、発想がそういう方向に偏りすぎると、
どうしても「奇をてらったモノ」になってしまうんですね。
奇をてらったモノというのは、まあ、
ある特定のソフトに対してはうまくハマるかもしれないですけど、
スタンダードとしては定着していかへんので、
ハードに付属する最初のコントローラとしては、難しい。
となると、奇をてらったモノにならない範囲で、
思い切った大胆なものをつくろうということになるわけです。

岩田 それでいて、「怖がられない」もの、ですね。
もう、難しいに決まってるという感じがしますが、
現実的に、いまのコントローラの方向に動き出したのは
どういうきっかけだったのでしょうか。

宮本 いくつかの要素が重なってるんですけど、
まず、竹田さんのほうから、ポインターという提案があったんですね。
で、そこからさまざまな流れが生まれる中で、
池田くんから、それをいまのストレートな形状、
いわゆる「棒」の形にするという話があったんです。
この、「棒」というところでは、ぼくと池田くんの考えがすごく一致して。

池田 宮本さんは、よく、会議中に自分の携帯電話を持って、
「もう、こんな感じにならないかな?」
ということを盛んにおっしゃってたんです(笑)。

宮本 カーナビのリモコンを持ち出してきたりね(笑)。

岩田 ポインターの要素技術が紹介されても、
片手で持つ棒状にしようというのは
一足飛びに決定できるものではありませんよね。
たとえば、両手で持つコントローラの真ん中に、
ポインターがついているようなものができたとしても
不思議ではないと思いますが。

竹田 あ、まさにその形のデモ機も作りましたよ。

芦田 はい。じつは、その路線のコントローラは
かなりしつこく追求しました(笑)。

宮本 なんて呼んでましたかね、あれは……。
たしか、相撲の……。

芦田 「軍配」ですね。

宮本 軍配、軍配。ずいぶん試しましたね。

竹田 でも、「どうも違うよね」ということになった。

宮本 いま思うとわかるんですけど、発想が逆なんですよね。
こうやって両手で持つところから、
ちょっとずつ棒状にしていこうとしていたんです。
それではだめだと気づいて言ったんですよ、
「何かまちごうてるぞ、『棒ありき』やろ」て。

一同 (笑)

宮本 で、「棒からちょっとずつコントローラにしていこう」
というふうに言ってたら、最終的に「棒」になった。

一同 (笑)

宮本 最終的に棒状になって、片手で操作するとなったときに、
いろんな問題が一気に解けたんです。
こうなったらいいな、と思ってたいろんなことが
いっぺんに現実になる予感があったんですね。
だから、計画的に問題が解けたわけではなくて、
下地となるコンセプトがしっかりとできていたところに
いろんなアイデアがすっぽりハマったというか、
その瞬間に「あ、できた」という。

岩田 難しい問題というのは、
たいていそういう解決のしかたをしますよね。
スッと、ぜんぶがほどけていくという。

宮本 そうなんですよね。
それまでに出ていたアイデアというのは、
「できたとは思うけど、まあ、みんなに見せてみようか」
という感じなんですね。

岩田 そういうときは、ほんとうはできていないんですよね。

宮本 できていないんですよ。
よさそうに見えても一長一短で、
そういうものをみんなに見せても、予想どおりの反論が出るだけなんです。
賛同者と反対者が、予想どおりに、きれいに半々で出てくる。
正直、ニンテンドーDSのときは、
ある程度そういう状況から押し切ったという印象があるんですけど、
今回の場合は「できたけど、みんなどう思うかな?」じゃなくて、
「できたので、みんなを説得しよう」というふうにかなり思えた。

池田 はい、そう思えた瞬間でしたね。

宮本 「これは、説得する意味がある」という感じだったんです。
なんというか、実感があったんですよね。

岩田 会議室で初めてポインターのデモを見たときのことをよく覚えていますが、
触った瞬間から、「あ、いい感じだ」とスッと思えました。
ポインターのようなものはそれまでにも触ったことがありましたが、
たいてい、反応が悪くて、快適さよりも
むしろ不満を感じることのほうが多かったんです。
ポインターという発想ももちろんよかったのですが、
操作する感覚というか、仕上がりがとてもよかったんですよね。
そのあたりは、竹田さんが持ち込んだ要素技術の成果でしょうか。

竹田 そうかもしれませんね。
ちょっとさかのぼるんですが、
私は、Wiiのプロジェクトが始まるまえから、
いまのゲームの標準的な仕様である
「1秒間に60の信号をやり取りする」
ということについて疑問を覚えていたんです。
たとえば、高速で走っている車にカメラをつけて、
その映像を再現するときに、1秒間に60枚の映像では、
車が高速で動いている意味がないんじゃないかと。
ポインティングというものについても、
以前から興味は持っていたんですけど、
1秒間に60回の信号をやり取りするだけでは
思ったように動かないというか、
追従性が不足するだろうと思っていたんです。
そういうときに、センサーのほうの技術で
1秒間に200、300回の信号をとらえることができるというので
「じゃあ、これに賭けてみようよ」と。
ここに賭ける価値があるんじゃないかと池田くんに言ったわけです。
コントローラについて、私が言ったのは、そのひとつだけですね。
だから、そういう意味では、ポインターのセンサー技術との出会いというのが
私にとって大きかったですね。

池田 ポインターを応答性の高いセンサーと
組み合わせることによってはじめて、
Wiiのコントローラを使ったプレイスタイルが
鮮明に見えてきたという感じでした。
ただたんにポインティングデバイスとしてとらえるのではなく、
さまざまなもの組み合わせて、いろいろ試行錯誤した結果、
いまのWiiリモコンにたどりついたんです。

 
岩田 話を聞いているとあらためてわかりますが、
やはり、ひとつのアイデアだけでは成立しないわけですね。
完成したWiiのコントローラを見ると、
そういうアイデアがひとつポンと出ただけのように思えますが
少なくとも、「ポインター」を使うこと、
「片手で操作する棒状」のものであること、
「1秒間に200以上の応答性のあるセンサー」を使うことといった要素が
ひとつの方向に向けて複合しなければ成立しなかったわけですから。
さて、このメインのリモコンコントローラができあがってからは、
そこにつながるさまざまなタイプのコントローラの開発に移るわけですが
拡張コネクタにつながるそれらのコントローラというのは
短期間にたくさんのものがどんどんできていったという印象があります。
まず、この「合体するコントローラ」というコンセプト自体は
どんなふうにできあがっていったんですか。

芦田 まず、メインのコントローラが「棒」になりましたから(笑)、
これだけではやはり従来のゲームを操作できない、と。
Wiiはゲームキューブと互換性もありますし、
バーチャル・コンソール構想がありますので、
ファミコン時代のゲームも遊べるようにしなくてはならない。
さらには、海外の市場を考えるうえで、FPS
(ファースト・パーソン・シューティング:
一人称視点のシューティングゲーム)もフォローしなくてはならない。
それで、拡張コネクタを使って、いろんなコントローラを
メインのコントローラに合体させるという発想が生まれたんです。

宮本 この合体するコントローラの構想もまた、
いくつかの問題をいっぺんに解決することができたんです。
というのは、ぼくらはいままで、
周辺機器が高いことに頭を悩ませていたんです。
ソフトに合った周辺機器をいっしょに売りたくても、
どうしても高くなってしまう。
で、Wiiは、コントローラがワイヤレスですから、
周辺機器も当然、ワイヤレスにしないといけない。
すると、ますます高くなってしまうんじゃないかと心配してたんですね。
そういうときに、この合体させる構想ができてきたので、
「あ、じゃあもう、全部このリモコンコントローラにつなげばいい」と。
周辺機器をメインのコントローラにつなぐ形にすれば、
通信の部分は周辺機器は考えなくてよくなりますから。
ですから、床に敷いて使うマットコントローラのようなものも、
マットにリモコンコントローラを挿せばいい。
タルコンガのようなものも、リモコンコントローラを挿せばいい。
一回の会議のなかで、「あ、イメージが見えたな」という感じでしたね。

さまざまなタイプのコントローラ
池田 そうですね。従来のゲームは、
クラシックコントローラをつなぐ形にすればいいわけですし。

宮本 つなげるコントローラのイメージがバーッと広がったんですよね。
発表したときにインパクトの強かった
「ヌンチャク」なんかはずいぶんあとからできたくらいで。

岩田 あのヌンチャク状のコントローラというのは
どういうふうに生まれたのかお話しいただけますか。
片手で操作するコントローラもずいぶん斬新ですが、
左右の手に異なる形のコントローラを持って
それぞれバラバラに操作するというのは
思い切った仕様だと思うんですが。

芦田 ヌンチャクの構想を最初に聞いたのは竹田さんからです。
「こういうものを作ってみてくれないか」ということで。
それと、メトロイドプライムの開発チームからも
両手を使った新しい操作を期待する声があり、
その他のソフト開発チームからも賛同を得ることができて。
例のごとく、また、粘土をこねながら作っていきました(笑)。

竹田 もともとは、まえにお話しました、ゲームキューブのころの
「ソフトと周辺機器をセットにして売るプロジェクト」で
若い開発者の中から出ていたアイデアだったんです。

岩田 芦田さんが私にこのヌンチャクを見せたとき、
すごく不安そうな表情だったことがすごく印象に残っているんです。
あのときは、どういう気持ちだったんですか?

芦田 やはり、本体とリモコンのデザインが
かなりすっきりとしたものだったものですから、
それに対して、違和感があるんじゃないだろうかと。
最初はこのリモコンに近いデザインも考えたんです。
でも、右手と左手の使い方が明らかに違いますから、
デザインだけを近づけると、操作がしづらくなってしまうんです。
それで、竹田さんに相談したんですけど、
やはりこれは別々に使うものだから、
違っていていいんだと言ってもらえました。

岩田 ちなみにこのヌンチャクは、
海外の人にものすごく受けがいいんですよね。
コードネームだった「ヌンチャク」という言葉も
一気に浸透してしまって正式名称になってしまったくらいで(笑)。

宮本 開発時の呼び名というのは、たいてい残らないものなんですけど、
これだけはそのまま最後まで残りましたね(笑)。

池田 ちなみにWiiリモコンのほうは、
さまざまな周辺機器を拡張コネクタにつなぐという構想から、
「コアコントローラ」「コアユニット」と呼ばれたりもしていました。

宮本 ああ、そうそう、「コア」って呼んでたね。
でも「コアユニット」だとやっぱりちょっと怖いですよね。
「怖がられない」ようにと思って作ってるのに(笑)。
このメインのコントローラを「リモコン」と呼ぼうというのは
岩田さんの強い要望でしたよね。

岩田 ああ、それだけは私、妙に頑固でしたね。
だって、家ではテレビのリモコンというのは
たいてい手の届く位置にふつうに転がっていて、
みんながふつうに手にとって操作するじゃないですか。
それと同じように扱ってほしくて、
しかも最終的に形状までそれに近くなったんですから、
これは「リモコンと呼ばれるべきだ」って強く思ってたんですよね。
「なぜテレビのリモコンは家族みんなが触るのに
ゲーム機のコントローラは触らないのか」というのは
Wiiを開発するうえでの大事なコンセプトでしたから。
だから「絶対、これはリモコンです!」と言い張りました。

竹田 なにせ岩田さんは、アメリカで売るときも
これを「リモコン」と呼ばせようとしていたくらいですからね。

一同 (笑)

岩田 さて、まとめとして宮本さんに訊きますが、
最初におっしゃられた「怖がらせない」ということや
もっと親しみやすいコントローラにするというテーマは、
すでにゲームキューブのときに宮本さんの中にありましたよね。
だからこそ、ゲームキューブのコントローラでは
「ひとつ、大きなボタンをはっきりと目立たせて、
最初に押すボタンはこれですとわかってもらおう」としたわけで。

宮本 そうですね。

岩田 だとすると、ゲームキューブのときのトライと
今回のWiiでの取り組み方で、違っていたものはなんでしょう?

宮本 「割り切り方」でしょうね。
やっぱり、いま『ゼルダ』を作っていると、
ボタンが足りないんじゃないかと思うこともあるんです。
そういうことを言うと現場の人たちに、
首締められそうになるんですけど(笑)。
確かに、ぼく自身が、現場の人たちに対して、
「もうそういうボタンが足りないゲームを作ることを
卒業していかなアカンのよ」とずっと言ってきたわけですから、
そこは毅然とするべきなんですよね。
シンプルでわかりやすくしたいけども
複雑なものも受け入れたいという欲があったんですけど、
やっばり誰でもが平等に触れるということが前提で、
そうやって初めていろんなソフトが触ってもらえるわけで。
キーボードで操作していたコンピュータゲームが
ファミコンで一気に世の中に広がったというのも、
基本的にはそういう流れの中にあったんですしね。
あまり語られていないことかもしれませんが、
ファミコンというのは「誰が触っても動いた」というのが
非常に大事なことやと思うんです。
電源を入れたら動いて、スタートボタンを押すと始まって、
リセットボタンを押すとリセットできる。
こんな当然のことがどうしてパソコンではできないんだろうと
ずっと思ってきたので、そういう意味では、本当に原点に戻ろうと。

岩田 なるほど。
Wiiは、これまで任天堂が築いてきたものを
すべて覆すように思われているかもしれませんけど、
そういう意味では、原点に返るものでもあるんですね。

宮本 そう思います。

岩田 よくわかりました。
じゃあ、続いては、まだ語っていない問題。
センサーバーについて話していきましょう。


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