岩田
ここで話題を大きく変えますが、
そもそもフジテレビにおられた鈴木さんが
Wiiの間(株)に入るキッカケはなんだったんですか?
鈴木
湯川さんとは電通とフジテレビの同期だったので、
新入社員の頃からよく知っていたんです。
それで、2008年の秋くらいに会ったとき、
ちょうど僕が会社をやめようかと悩んでいまして、
湯川さんから、このプロジェクトの話を極秘に・・・。
湯川
(口に指をあてて)シーッ!
一同
(笑)
鈴木
本当は、まだ聞いちゃあいけない時期だったんですよね(笑)。
そこで、そのわずか半年後に、ここに来ることが決まったという、
スピード転職をさせていただきました。
岩田
最初に湯川さんからの話を聞いて(笑)。
何が面白いと思ったんですか?
鈴木
そもそも僕はゲームには興味がなくて、
まったくやっていなかったんです。
ところが、あるドラマを撮ってるときに現場に
とても人気のある俳優さんがWiiを持ってきたんです。
しかも発売日に(笑)。
岩田
(笑)。
発売日というと、やっぱり『Wiiスポーツ』(※5)ですか?
※5
『Wiiスポーツ』=2006年12月に、Wii本体と同時発売されたスポーツゲーム。「テニス」「ゴルフ」「ボウリング」「ベースボール」「ボクシング」の5種目を収録。
鈴木
そうです。それで実際にやってみたら、
めちゃめちゃ面白いと思ったんです。
その俳優さんが自分のクルマにモニターごと持ってきて
撮影現場でやっていたんですけど、
「カット!」というと、みんなが撮影そっちのけで
ダーッと走っていってそっちで遊んじゃうくらい(笑)。
一同
(笑)
岩田
それは、わたしたちにとっては
最高のホメ言葉ですね。
撮影は大変でしたでしょうけど(笑)。
鈴木
大変でした(笑)。
そもそも僕は、Wiiの宣伝を見てはいたんですけど、
実は何のことだかよくわかっていなかったんですね。
本当に何も知らない一般のレベルだったんです。
岩田
だから、任天堂がどんなに鐘や太鼓を叩こうと、
自分にとって関係ないと思っている人には
何も伝わらないわけで・・・。
わたしが、よく例に挙げる話なんですが、
男のわたしが、女性用化粧品の宣伝を見ても、
宣伝に出ている女優さんは印象に残ったとしても、
その化粧品がどこの会社の製品で、
ブランド名が何なのかはまったく認識できないんです。
たぶんそれと同じことが鈴木さんにも起こっていたんですね。
鈴木
そうなんでしょうね。
でも、実際に体験してみると、すごく驚きまして。
「Wiiにはきっと何かがある」というのが
自分のベースになっていたんですね。
岩田
じゃあ、その俳優さんが
撮影現場にWiiを持って来なければ、
湯川さんから話を聞かされても
鈴木さんはまったく興味を示さなかったかもしれないと。
鈴木
そうなんです。「興味がないから」の
ひとことで終わっていたかもしれません。
岩田
やっぱりご縁ってあるんですね。
鈴木
ご縁とかタイミングというのはありますよね。
で、そんなところに湯川さんと会って、
「テレビの広告はこれからどうなっていくんだろう」
という話になったんです。
最近の人たちは、見たい番組を録画して
CMはスキップして見るケースが増えてますから
「これからはCMに課金して見せる時代だ」だとか、
「お金を払ってでも見たいと思えるようなCMをつくらないと
成立しないんじゃないの」という話をしたんですね。
そしたら、湯川さんが小声で
「ちょっと話があるんだけど・・・」と。
一同
(笑)
岩田
それでこの話を聞いたんですか(笑)。
で、湯川さんから話を聞いてどう思ったんですか?
鈴木
そもそもテレビというのは、映像の王様というか、
ど真ん中にいて、「どうだ、見せてやるぞ」
という力強さを持っているべきですし、
持つ必要があるものなんです。
でも、湯川さんから聞いた構想は、
映像の置き位置がぜんぜんそれとは違うと言いますか。
岩田
およそ「どうだ、見せてやるぞ」では
ありませんよね(笑)。
鈴木
コンシェルジュMii(※6)が
「ピンポーン」と部屋に入ってきて、
「これ、見ませんか?」と言われ、
見たくなければ「見ない」と答え、
すると「ああそうですか」と帰っていくんですよね(笑)。
湯川さんから、そんな説明をされて
「それは面白いなあ」と思ったんです。
岩田
(笑)
※6
コンシェルジュMii=お客さんの『Wiiの間』を訪問して、オススメの番組を紹介する芸能人や著名人のMiiのこと。
鈴木
さらに面白いと思ったのは、
映像を見て面白かったら、
友だちにオススメすることができることです。
岩田
テレビだと、面白い番組を見て
友だちにオススメしたいと思っても、
放送が終わってしまえば、
カンタンには見てもらえないですからね(笑)。
鈴木
そうなんです(笑)。
でも、『Wiiの間』だと
オススメされた映像がいつでも好きなときに見られますし、
オススメの連鎖も生まれると。
これはとても面白いシステムだと思いました。
それに、DSiに映像を落とせば
公園や電車のなかで見たりすることもできます。
だから、同じ映像を扱う仕事だとはいっても、
テレビとは置き位置がまったく違っているので、
似て非なるものに挑戦できるかもしれないと思ったんですね。
岩田
なるほど。
じゃあ、トニーさんからも話を聞きましょう。
トニー
はい。
岩田
トニーさんはNOAに
どんな感じで入ることになったんですか?
トニー
最初に面接を受けたとき
「何がやりたいですか?」と聞かれて
すかさず「Wiiで動画配信をやりたいです」と答えたんです。
岩田
ええっ、そうだったんですか。
わたし、トニーさんのことは入社前から話を聞いていましたけど、
そのことはぜんぜん知りませんでしたよ。
トニー
僕はもともと音楽専門チャンネルのMTVにいまして、
ずっと日本のマーケットを開拓する仕事をしていたんです。
ところが、日本の放送マーケットって、
(湯川さんと鈴木さんの2人をちらりと見て)
こういうお方がいる前で言うのもなんですけど、
ひじょうに閉じられた・・・。
一同
(笑)
トニー
すごく新規参入が難しい世界ですよね(笑)。
そこで、どうすれば、こういう人たちのように、
広告がとれるようなビジネスがつくれるのかという
裏口を探していたんです。
で、携帯電話とパソコンで配信事業をやってみたんですけど、
あまりうまくいかなかったんです。
そんな経験があって、
「Wiiしかないんだ」と期待が膨らみました。
岩田
「Wiiしかない」と思ったのは
どうしてなんですか?
トニー
Wiiはテレビにつながってる。
インターネットにもつながってる。
つまりこれは、「あらゆる情報をテレビに映し出す機器」ということで、
動画配信をやろうと思えばすぐにできると。
そして、お客さんからの感想などもとれるという話も聞きまして。
岩田
Wiiはお客さんとつながっていますから、
クラブニンテンドーもそうだし、
『みんなのニンテンドーチャンネル』もそうなんですけど、
お客さんのことをわかったら
僕らはもっとウケるモノをつくるヒントがいっぱいもらえて、
両方にいいじゃないかということなんですよね。
トニー
はい。
なので、映像配信をやるにあたっても、
いろんなヒントがお客さんからもらえると。
だから、任天堂に入るしかないと思ったんです。
岩田
なるほど。
トニー
それに僕にも不思議なご縁の話があるんですよ。
岩田
それはどんなことですか?
トニー
1年前に出張で日本に来たとき、
僕は湯川さんと2人で
プロモーションビデオの編集に立ち会ったんですね。
夜中の2時頃だったんですけど・・・。
そこで何気なく、
「湯川さんって、大学はどこですか?」と聞いたら、
「慶應大学です」と言うんです。
それで僕がよく知ってる慶應出身の女性がいたものですから、
その人の名前を挙げて「知ってますか?」と聞いたんですよね。
湯川
僕はその女性をよく知っていたものですから、
「知ってる、背の高い女の子でしょう?」と。
トニー
それを聞いて、僕は慌てて
「それ、うちの奥さんです!」と言ったんです。
岩田
へえ〜。湯川さんの学生時代の知り合いが
トニーさんの奥さんだったんですか。
世の中って、狭いですよね。