岩田
ひどい目に遭ったような話は、まだまだあるんでしょうか?
脇谷
(手元の資料を見ながら)
こっち、ですか?
伊藤
それともこっち、ですか?
一同
(笑)
岩田
どちらもいろいろひどい目に遭ったと(笑)。
じゃあ、今度は伊藤さんから
電子回路関係でひどい目に遭った話を訊きましょうか。
伊藤
はい。いろいろあったんですけど、
たとえば、ジャイロセンサーのパッケージが湿気を吸収すると、
感度が変わってしまうという問題が起こりまして。
岩田
パッケージというのは?
伊藤
ジャイロセンサーの入れ物です。
プラスチックのエポキシ樹脂でできてるのに、
水分をほんの少しでも吸収すると膨張してしまって
センサーに圧力がかかってしまい、
うまく機能しないんです。
岩田
プラスチック製品というのは、
本来カラカラに乾いているものですよね。
伊藤
はい。水分を多く含んでいる食べ物を天ぷらにすると、
はじけることがあるのと同じように、
パッケージに水分が少しでも含んだ状態ではんだ付けすると、
センサーがはじけることがあるんです。
それを防止するために製造時点ではカラカラに乾燥させた状態なんです。
ただ、そうすると、お客さんの手元に届いてから
どうしても湿気を吸ってしまうんですね。
エポキシ樹脂でも、湿気を吸うと膨張するようなんです。
高本
最初はコーティングしたりとか、
絶対に湿気が入らないようなことも検討したんですが。
岩田
それでも入っちゃうんですね。
高本
どうしても入っちゃうんです。
岩田
その難題はどうやって解決したんですか?
伊藤
事前に、効率よく湿気を吸わせてしまおうと。
岩田
どうせ、あとから湿気を吸うんだったら、
先に吸わせてしまえと(笑)。
伊藤
そこで、基板ごと煮たりしました。
岩田
煮る? それ、本当に試したんですか?
一同
(笑)
岩田
ふつう、基板は煮ないでしょう!(笑)
高本
プラスチックという素材では、
わざと吸湿させて、安定させる方法があるんです。
その一つが煮ることなんです。
岩田
へえ?、それは知りませんでした。
伊藤
そこで、圧力なべを買ってきて・・・。
岩田
なべ?
伊藤
すみません、経費で買っちゃいました。
一同
(笑)
高本
実際に十分に吸湿させようと思うと、
すごく時間がかかるんですよ。
岩田
それだと量産できないですね。
高本
そこでいかに短時間で吸湿させるかと。
岩田
だから圧力なべ!(笑)
高本
けっきょく採用しなかったんですけど。
岩田
圧力なべが工場のラインに並ぶのも変でしょうしね。
一同
(笑)
高本
他には、メガネの超音波洗浄機を買ってきたりもしました。
伊藤
あんまん蒸し器とかも探しましたね。
高本
これ使えそう!とか(笑)。
伊藤
いろいろ探しましたねえ。
高本
探しましたねえ。
岩田
・・・で、どういう方法で加湿させることにしたんですか?
伊藤
部屋に普通の加湿器を置いて、
ヒーターで温度調節をして・・・。
岩田
そんなことですむのなら、
圧力なべで煮なくてもいいじゃないですか!(笑)
高本
そうなんですけど(笑)、
少しでも短い時間で吸湿させたいと思いまして。
伊藤
加湿器を使っても、48時間以上かかるんです。
高本
2日間、寝かせます。カレーじゃないですけど。
一同
(笑)
岩田
今回のWiiモーションプラスは
「ただジャイロをつけただけでしょう」と
言われるかもしれないですけど、
実は『ポケモーション』の店頭ディスプレイをかき集めたり、
鉄のツメをつくって壊したり、
圧力なべで煮込んだりと、
たくさんの試行錯誤が必要な商品だったんですね。
本当にお疲れ様でした。
それでは最後に一言ずつメッセージをお願いします。
高本
これまでのWiiリモコンは
直線的な動きのみをセンシングしていましたので、
ゲームをつくる上で不満に感じることもあったかもしれません。
でも今回は、回転もセンシングできるようになりましたので、
その利点を活かしたソフトをどんどんつくっていただいて
お客さんには新しいゲームをもっと楽しんでいただきたいと思います。
それからもうひとつ。
Wiiリモコンに装着しようとすると、
ちょっとしたコツが必要なんです。
岩田
わたしも初めてやったとき、
どうやって取り付けたらいいのか、
ちょっと迷ったくらいですからね。
知恵の輪みたいで(笑)。
一同
(笑)
高本
そこで取扱説明書で、
取り付け方を詳しく解説するようにしたんですけど、
それじゃあダメだと岩田さんから言われて。
岩田
やっぱりすべてのお客さんが
取扱説明書を読まれるわけではありませんし、
図説だけではわかりづらいと思ったんです。
高本
そこで、動画マニュアルをつくって、
『Wiiスポーツ リゾート』のゲームを起動すれば、
ビデオが見られるようにしました。
それさえ見れば、取り付け方のコツは
バッチリわかるようになっています。
岩田
実際、コツさえわかれば、
とても取り付けやすいですしね。
じゃあ、脇谷さん。
脇谷
個人的な話なんですけど、
僕、テニスが大好きなんです。
だから、これまでとは比較にならないくらい
リアルにラケットの操作ができる、
そんなゲームが出てくるとうれしいですね。
ぜひとも作り手の方には、これまでにないような
おもしろいゲームをつくっていただきたいと思います。
伊藤
僕からはお客さんに対してひとこと。
今回は、自分との一体感が増したというか、
自分が思ったように動いているのが
とてもわかりやすくなったと思いますので、
そういったところを、このWiiモーションプラスで
ぜひとも感じ取っていただければうれしいですね。
太田
わたしも個人的な話になるんですが・・・。
うちの娘が『Newスーパーマリオブラザーズ』で遊んでいて、
その様子を観察していると、
ジャンプして、もうちょっと先に跳びたいとき、
自分の体を思いっきり伸ばそうとするんですね。
岩田
それってやりますよね、みんな(笑)。
太田
そのように、自然に出てしまうような動きは、
これまでのコントローラだと拾えなかったと思うんです。
ところが、Wiiモーションプラスだと、
そんなプレイヤーの気持ちを拾って、
レスポンスとして返せるような仕組みもつくれると思います。
なので、Wiiリモコンが伸びたぶん以上に
楽しめるゲームが出てくることに期待していただきたいですね。
あと、作り手の方々にもひとこと。
困ったことがあったら何でも相談してください。
岩田
それは頼もしい(笑)。
じゃあ、最後にわたしから。
Wiiモーションプラスがでることが決まって、
とても期待したことがひとつありました。
Wiiというゲーム機は
Wiiリモコンというまったく新しい入力デバイスによって、
いろんな人から評価いただきましたし、
わたし自身、『Wiiスポーツ』のなかに入っている
太田さんがつくった「テニス」の原型となった実験ソフトを
初めて触らせてもらったときのことをすごく強烈に覚えていて、
だからこそ、Wiiを初めてお披露目した2006年のE3では、
宮本さんやレジー(※5)やわたしが「テニス」をすることを、
発表会ステージのハイライトにしました。
ただ一方で、入口はすごく広いけど、
奥行きの点では限界がありました。
Wiiリモコンをどう動かしたのか、ひねったのか、
プレイヤーの動きを完全に取れているわけではないので、
ゲームの作り手側が工夫して、
「きっとこのときには、プレイヤーはこうしたいはずだ」と
解釈しながらソフトを作ってきました。
その工夫を凝らしたことで、ゲームの初心者の方でも
楽しめるようにすることは実現できたのですが、
ゲームを遊ぶことに、とても熱心な人たちからすると、
「確かに間口が広くておもしろいし新鮮だけど、浅いよね」
という評価をいただいたのも事実でした。
ところが、今回のWiiモーションプラスは
いろんな動きが全部読めます。
そうなったとき、ゲームはどう変わっていくんだろうと。
入口は広いまま、誰でも遊べるという特徴は変わらないまま、
奥行きの深みは大きく変わっていくような気がして、
ゲームの技量の高い人も、低い人も、
両方がもっとおもしろく遊べる場ができるんじゃないかと
わたしはすごく期待しています。
それでは次回は、Wiiモーションプラスで
どんな遊びが楽しめるようになったのか、
『Wiiスポーツ リゾート』をつくった人たちから
話を訊くことにしましょう。
※5
レジー=Reggie Fils-Aime。NOA(任天堂オブアメリカ)の社長。