岩田
さて、ジャイロセンサーと悪戦苦闘する一方で、
Wiiモーションプラスの形状は
どのように決まっていったんですか?
脇谷
開発当初は
このような形をしていました。
岩田
製品版と比べると、ずいぶん違ってますね。
脇谷
最初に考えたことは
やはり握りやすさということだったんです。
そこで細くして、なるべくコンパクトにしようと。
ただ、Wiiリモコンを勢いよく振ってしまっても
手からすっぽ抜けないように、
底の部分はふくらませてスカート状にしました。
さらに、安全性のことを考えて、
ロングジャケットとWiiモーションプラスを
一体化することを考えました。
岩田
安全性のための一体化の話は
E3の後に出てきたんですね。
脇谷
そうなんです。
ところが、そのときにつくった試作品は
スカートの曲線がなだらかでしたので、
カンタンに取り外すことができたんです。
高本
修理やメインテナンスのことを考えると
接着剤で固定するわけにもいきませんし。
脇谷
そこで、さらにスカートを広げて、
クルマのタイヤをホイールにはめ込むような
フランジ形状にしたのが、この最終型です。
岩田
すっかりロングジャケットと一体化してますね(笑)。
高本
ただ、このようにスカートが大きく広がったことで、
Wiiリモコンを強く振っても
手からすっぽ抜けにくくなったのは
大きいと思います。
脇谷
バットのグリップエンドみたいなものなんです。
岩田
なるほど。ちなみに今回、
Wiiリモコンの長さが伸びたことについて
どう思いましたか?
高本
両手で持つ際、とても持ちやすくなりました。
脇谷
「ゴルフ」とか、「野球」のバットなど
両手持ちでプレイするゲームは
格段に遊びやすくなると思いますね。
伊藤
従来のWiiリモコンだと片手で
バットを振る人もいましたしね(笑)。
高本
だから、もっと長くしてもよかったかなと(笑)。
一同
(笑)
岩田
さて、機構設計チームのみなさんも、
電子回路チームがジャイロセンサーと悪戦苦闘したように、
一筋縄ではいかない仕事だったんですよね。
高本
それはもう(笑)。
取り付けに関する話をしますと、Wiiリモコンの底部に
ヌンチャクなどを接続する外部拡張コネクタがあって、
その両脇にとりあえず穴だけを開けていたんです。
岩田
ロック用の穴が2個、開いてますよね。
高本
その穴を利用して、フックで固定しようと。
ただ、その穴はもともと、
Wiiモーションプラスをつなぐつもりで
用意したものではなく、
本当はもっと軽く固定するような
別の用途で使うことを考えてまして・・・。
岩田
Wiiモーションプラスのようなものを
ガチッと止めるようなことを想定していなかったんですね。
高本
さらに接続する部分を強く握って
何度も振るようなことも想定してなかったんです。
脇谷
だから、使っているうちに、
瞬断するケースも出てきたんです。
岩田
瞬間的に断線すると。それで“瞬断”なんですね。
脇谷
はい。そこで、手でねじったりしたんですけど、
ちょっとねじったくらいでは
なかなか瞬断を再現できなかったんですね。
高本
何万回も振らないと瞬断は起こらないんです。
岩田
でも、手で何万回も振ったりとか、
そんなことはやってられないですよね(笑)。
高本
いえ、最初はやろうとしたんです。
でもそのうちに、手のひらの皮がむけるようになって。
脇谷
そこで軍手をはめて。
岩田
そこまでやったんですか(笑)。
脇谷
でも、それだと時間があまりにもかかりすぎるんです。
そこで、店頭ディスプレイを借りてくることにしました。
『ポケモーション』(※4)の(笑)。
高本
メトロノームのように
『ポケモーション』を振る店頭ディスプレイです。
岩田
はいはい、ありましたね。
脇谷
それを、岡山営業所とか
社内のいろんな部署からかき集めて実験に使用しました。
岩田
よく残ってましたね(笑)。
※4
『ポケモーション』=2003年8月発売のコミュニケーションツール。LEDの点滅と目の残像現象によって、さまざまなポケモンや文字を見ることができる(発売元は株式会社ポケモン)
脇谷
それで評価してわかったんですけど、
もともとWiiモーションプラスのプラグは、
Wiiリモコン側のコネクタにリジットに固定されていたんです。
岩田
リジット、つまり固く固定されてたんですね。
脇谷
はい。それで何度も振ってるうちに
どうしても接続部分に負荷がかかってしまうんです。
高本
普通の周辺機器を接続するんだったら問題ないんですけど、
Wiiリモコンの場合は接続部分を握って、
繰り返し何度も振るような商品ですので
どうしても大きな負荷がかかってしまうんですね。
岩田
それで、瞬断が起こってしまったと。
脇谷
そこで、接点のところに油を差してみたりとか、
ちょっとスペースを空けてみたりとか、
いろいろ試してみたんですけど・・・。
岩田
手詰まりになった。
脇谷
はい。そこで、
Wiiモーションプラスのプラグをぐらぐら動くようにして、
負荷を逃がすような構造にしてみました。
岩田
プラグにサスペンションをつけたみたいな感じですね。
脇谷
専門用語ではフローティング構造と呼んでるんですけど、
そのような構造にして試験機にかけたら
瞬断の発生率が飛躍的に下がって、
接触の問題はとりあえずメドがついたんです。
すると今度は・・・。
岩田
今度は?
脇谷
ロック用の穴に掛けるツメが折れてしまったんです。
岩田
ああ・・それまでは、
プラグと2本のツメの3ヵ所で接続していたのに、
プラグをフローティング構造にしたので、
2本のツメに負荷がかかりすぎるようになったんですね。
脇谷
そうなんです。
じゃあツメの強度をアップするしかないでしょうと。
伊藤
そこで鉄のツメにして。
岩田
鉄のツメ?(笑)
脇谷
でも、強度というか攻撃力がアップしすぎて・・・。
高本
Wiiリモコンの穴が破壊されてしまったんです。
一同
(笑)
岩田
鉄のツメも役に立たないと(笑)。
高本
そこで、裏側にトレイのようなモノをつけて、
一体化させるという話も出ていたんですけど・・・。
岩田
骨折したときの添え木みたいですね(笑)。
でも、それだと手で持ちにくいですよね。
高本
太くなりすぎるんですね。
岩田
で、どうやって解決したんですか?
脇谷
繰り返しかかる負荷に強いプラスチックを採用することにしました。
高本
材料のコストは高くなったんですけど、
落ち着くところに落ち着いたという感じですね。