岩田
それにしても、これだけの規模のものを
よくぞこれまで例のない手法で
つくり上げることができましたね。
なぜ今回、破綻せずに
ここまで密度を高めることができたのか、
水田さんはどう思いますか?
水田
週に一度、リーダー会議が開かれていたんですけど、
そのような会議の場があったことは
大きな要因のひとつだったのではないかと思います。
そこにサウンドチームからも
僕と若井さんの2人で出席していたのですが、
そのときに開発の進み具合だけでなく、
さまざまな新しい情報を得ることができたので、
とても助かりました。
途中から入ったスタッフに対しても、
そのときどきの正確な情報を伝えられたのは、
そういう情報交換の場があったからだと思います。
岩田
チームが大きくなっても、
しっかりコミュニケーションがとれたんですね。
水田
はい。それから、ただ情報を得るだけではなく、
その場でサウンド側の状況を
伝えることができていたことも大きかったと思います。
岩田
久田さんはどうですか?
久田
はい。
リーダー会議もとても大事な場だったんですが、
ゲームの中身は日々変わるので、
そういう変化の速さに対応するには
ひとえに、歩くというか、聞いて回る・・・
「もう、それしかない」と思っていました。
岩田
なんだか、「足で稼げ」という、
刑事ドラマみたいですね(笑)。
久田
まさにそんな感じです。
で、そのうちにカンみたいなものも働いてくるんです。
岩田
まさに「刑事のカン」ですね(笑)。
久田
青沼さんの席が近かったので、
何か重要なことが耳に入るとすぐに
「青沼さん! それってどういうことですか!?」
と席に駆け込んだり。
岩田
はい(笑)。
久田
それは、わたしだけではなくて、
地形のスタッフみんなが歩き回っていたんです。
というのも、敵の配置がちょっと変わったぐらいでも
地形のつくり方がかなり変わってくるんです。
岩田
ああ、なるほど。
サウンドの水田さんの感想と違うのは、
そもそもつくり方が異なるからなんですね。
久田
そう思います。
たとえ小さな変更であっても、
地形を担当する者にとっては
ものすごく大きな変更になることもありますし、
だからこそ、いつも聞き耳を立てておく必要がありました。
そもそも規模も大きいプロジェクトですし、
知らないうちに、どこかで変更というのは
必ず出てくるものですので、
ちょっとでも疑問や不安があれば、
すぐに聞きにいくようにしていました。
岩田
それで、
「青沼さん!どういうことですか!?」
となるわけですね。
青沼
そうでした(笑)
久田
あと、聞くよりも先に、
そのときにできたものを、とにかく触って、
とにかく遊んで、確認するようにしていました。
岩田
まずは自分の目で確認するようにしたんですね。
久田
はい。
岩田
岩本さんはどうですか?
岩本
これほどの大きなプロジェクトになって、
それでも破綻せずできたのは、
スタッフのひとりひとりのモチベーションが高くて、
「しっかりしたものをつくろう」という、
心意気があったからなんだと思います。
岩田
ただ、いくら心意気があっても、
5年近くという長期間にわたって
集中力を切らさずにやろうとすると、
なかなか難しかったりしますよね。
でも、今回そういうことが
できたのはどうしてなんでしょうか?
岩本
それはたぶん、
「あの人がこんないいものを
つくっているならオレも頑張ろう」
という、すごくいい意味での
相互作用があったような気がします。
たとえば、誰かが困っていたら、
お互いフォローしあうような空気もありましたし。
岩田
プロデューサーが自ら手を挙げて
プランナーを買って出てくれましたしね(笑)。
岩本
ああ・・・(青沼さんに向かって)
ほんとにその節は、ありがとうございました。
青沼
いや、自分でもやりたかったわけだし(笑)。
岩本
でも、あるときは無茶ぶりをしつつ、
あるときは、ほったらかしにしながらも、
大事なときは、しっかりとフォローしていただいて・・・。
青沼
なんだか、迷惑がられてるのか、
感謝されてるのか、わからないなぁ(笑)。
岩本
いや、でも、それで・・・
何とか、乗り切ることができましたから(笑)。
岩田
はい(笑)。藤林さんは?
藤林
僕も、みなさんとだいたい同じですね。
最初にこちらで準備したのは、
各エリアごとに縦軸で担当を決めて
それを最後までやりきる、という仕組みでした。
各セクションごとに、デザイナーならデザイナーとして
それぞれを担当しているわけですけど、
それがさらに、自然に横軸で
情報の共有化ができたというのが、
なんだか素晴らしいなあと・・・。
岩田
ディレクターとしても満足ですか?
藤林
はい。大満足です(笑)。
岩田
最後に、青沼さんは?
青沼
これほど大きなプロジェクトでありながら、
破綻せずにこられたのは、今回の世界が
シンプルな構造だったからだと思うんです。
あらゆるところが“濃密”という話をしていますけど、
構成としては「森」「火山」「砂漠」、
そして「空」の4つじゃないですか。
岩田
そうですね。
青沼
その4つの世界が独立していたことで
それぞれのボリュームのゴールが見えていて、
きっと、スタッフそれぞれの頭のなかに
「こっちの方向でがんばれば、
今回の『ゼルダ』はいいものになる」
という予測ができていたからだと思うんです。
岩田
これほどの大きなプロジェクトですから、
チームはたくさんあって、
みんなはそれぞれの仕事に集中するわけなんですけど、
4つの世界に携わったスタッフのみなさんが
「今度の『ゼルダ』は必ずいいものになる!」
という共通認識を、ひとりひとり持てたことで、
この完成にこぎ着けることができたんですね。
青沼
そうだと思います。
だから、もし世界を拡げすぎて
担当する範囲がいまより広くなっていたとしたら、
みんなが全部を追っかけられなくなって
破綻していたかもしれません。
でも、今回は4つの世界に絞ったからこそ、
どんどん世界を深く掘ることができたんだと思います。
岩田
みんなが、それぞれの立場でね。
青沼
「ここも掘れる」「あそこも掘れるぞ」という感じで。
岩田
ここを掘ったら、面白いものが見つかったので
「誰か使いませんか?」と言ってみたり、ですね。
青沼
そうです。
そういうことができたのは、
いままでの『ゼルダ』のつくり方と
今回のいちばん違うところなんじゃないかな、
とも感じています。
岩田
なるほど、わかりました。
わたしが今回の『ゼルダ』の話を訊いて、
すごく“濃密”だと感じたのは
そういう理由があったからなんですね。
青沼
だと思います。
岩田
さて、ステージごとをテーマにした
「社長が訊く」は今回が最後です。
「空と町」を代表して、岩本さんから順に、
お客さんにメッセージをお願いします。
岩本
はい。『ゼルダ』といえば、
フィールドとかダンジョンとかを
冒険するイメージが強いと思うんですけども、
今回お話しした「空と町」は、
冒険から帰ってきたリンクがちょっと寄り道をして、
ぶらりと散策するようなイメージでつくっています。
かなりいろいろつくり込んでいますので、
戻ってくるたびに町のいろんな人に
声をかけてみて、会話を楽しんでほしいです。
岩田
岩本さんこだわりの“鳥”・・・
「ロフトバード」についてはどうですか?
岩本
ロフトバードは、
これまた大地から戻ってきたときにちょっと寄り道をして
いろんなところを探索できますので、
とにかく、乗ってるときの気持ちよさにこだわりました。
すごく細かい羽根の動きとか、滑空のスピード感とか、
ふわっと上昇する浮遊感なども
担当のプログラマーさんとデザイナーさんが
とてもこだわりを持ってつくってくれたので、
そのへんもぜひ、堪能してみてください。
岩田
序盤のつかみを青沼さんに任せてまで、
ロフトバードの乗り心地のよさを
追求したんですもんね?(笑)
岩本
はい、すみませんでした(笑)。
岩田
藤林さん、これまで4つのステージを紹介してきましたが、
これを読んでらっしゃるみなさんに
お伝えしておきたいことはありますか?
藤林
今回の4つのステージは、
それぞれに“濃密さ”がありながらも、
本当に違う味のする
噛みごたえあるものに仕上がりましたので、
お好きな味を楽しんでほしいと思います。
岩田
噛めば噛むほど味が出る、
ということですかね。
藤林
はい。何度も行ってるうちに
新たな発見もあると思います。
岩田
地形を担当した久田さんからも、何かありますか?
久田
たくさんあるんですけど、とにかく、
「見やすく楽しめるファンタジーの世界」になるよう、
頑張ってつくりました。
地形を担当した者としては、
個性豊かなエリアの世界観を味わってもらえるよう
じっくり散策してもらえると、すごくうれしいです。
岩田
なるほど。
ではサウンドの水田さん、お願いします。
水田
はい、サウンド担当としては、
今回はオーケストラ収録をしましたので、
生演奏の迫力をぜひ味わってほしいです。
個人的にも収録に立ち会って以降、
「BGMに負けないように」と
さらに制作に力が入りました。
それからサウンドも、ほかのパートに負けないよう
最後まで遊び心を詰め込んだつもりです。
ぜひ最後まで、隅々まで遊んでみてください。
藤林
なので今回は、それぞれの分野を極めた
奥深い料理を揃えた手ごたえがあります。
世界三大料理というと、
中華料理にフランス料理、
あとはトルコ料理だそうですが、
それに日本料理も加えた感じで、
4つのフィールドのうまみを
ぜひ堪能してほしいですね。
岩田
それぞれの味はぜんぜん違うけど、
ぜんぶ濃いですよ、っていうのが共通ですね。
一同
(笑)
青沼
まあ、このように“濃密な”ゲームは
なかなか出せないかもしれませんので、
ぜひたくさんの人に味わってほしいです。
岩田
本当にそう思いますね。
それに、個性豊かなスタッフが
たくさん集まりながらも、
「いいものをつくろう!」という
ひとつの方向へエネルギーが結実するのは
素晴らしい、と改めて感じた今日のお話でした。
みなさん、ありがとうございました。
一同
ありがとうございました。