ちなみに、宮本さん、手塚さん、中郷さんの
３人の黄金のトライアングルが誕生したのはいつからなんですか？

『スーパーマリオブラザーズ』^（※17）のときです。
先ほども言いましたけど、
手塚さんが新入社員として紹介されたのがいちばん最初で、
そのとき手塚さんは・・・。

僕は『デビルワールド』をつくっていて・・・。

僕は宮本さんと
『エキサイトバイク』をつくっていたんです。

ということは、同じ時期に
手塚さんは宮本さんと『デビルワールド』をつくり、
中郷さんは宮本さんと『エキサイトバイク』をつくっていたんですね。

発売時期もほとんど同じでしたから。

『デビルワールド』が１９８４年の１０月で・・・。

『エキサイトバイク』は１１月でした。
で、『エキサイトバイク』は東京でつくってましたので、
宮本さんといっしょに出張することが多くて、
ホテルに２人で夜遅く泊まったりとかしてました。
当時はバブル景気のはじめの頃でしたから
ホテルがなかなかとれないこともあって、
２人でひとつのベッドに寝たこともありました（笑）。

ひゃあ（笑）。

（笑）

そんな感じで、『エキサイトバイク』をつくって、
そのあとに『スーパーマリオ』と『ゼルダ』^（※18）の２本を
同時につくりはじめたんです。

そうそう、２本同時だったんですよね。
このことは、世の中のゲームファンの方は
意外とご存じないことなんですけど、
実は最初の『スーパーマリオ』と『ゼルダ』は
同じスタッフで同時に並行してつくられていたんです。
今ではとても信じられないことですが（笑）。

たまにアイデアを入れ替えることもありまして。
たとえば『スーパーマリオ』に
ファイアバーがありますよね？

城面に出てくる、
クッパに向かう通路で回る炎のバーですね。

はい。あれは最初、
『ゼルダ』の画面の真ん中に出てたんです。

ええーっ！？

もともとは『ゼルダ』用のネタだったんです。
それを「こっちのほうがええよ」ということで、
『スーパーマリオ』に持っていったんです。
そう言ったのは宮本さんだったかな？
それとも手塚さん？

宮本さんでしょう。

そうやったかな？

手塚さんは、ただ忘れてるだけ、
ということも大いにありえますからね（笑）。

ふふふ（笑）。

でも、確かに『ゼルダ』に出ていたのは覚えてます。

そもそも『スーパーマリオ』と『ゼルダ』は
どうやってはじまったんですか？　

『スーパーマリオ』のほうは
大型のキャラクターを使って、
陸・海・空を舞台にした
アスレチックゲームをつくりたい、というのが
最初の構想にありました。

最初は「でかいマリオを出すというのがテーマだった」と
聞いたことがあるんですが。

はい。２人分の大きさのマリオを出そうと。
でも、最初からマリオを使うと決めてたかどうかは
あんまり覚えてないんですけど。

何とか思い出してください（笑）。

確か最初は・・・
１６×３２ドットの四角が動いていて・・・。

最初は、スクロールしない１画面で、
四角いものを動かしてたんです。

へえ〜。最初は１画面で、
四角を動かすところからはじまったんですか。

そうです。その当時、
四角から動かすというのは、実に画期的なことでした。
四角いものが、波打つような動きをして、
ただ、それだけの実験をＳＲＤでやってたんです。

それが『スーパーマリオ』のはじまりなんですか？

はい。だからそのときは、
ジャンプもしていなかったと思います。

その四角いものがどうしてマリオになったんですか？

それは何となく覚えてます（笑）。
開発部署の隣が営業さんの部屋だったんですけど、
そこの部長さんがわりと気さくな方で、
いまではあまり考えられないんですけど、
売上データを見せてもらえたんです。

そのときの手塚さんは
任天堂に入ったばっかりの新人のときですよね。

ええ。まだ入社１年目でした。

そんな新人が営業部長のところに行って、
売上データを見せてもらっていたんですか？

お昼休みとかにいろんなところに行って
他部署の人と話をすることが多くて、
そこで仲良くなったんです。
で、その部長さんに売上データを見せてもらうと、
ファミコンの『マリオブラザーズ』^（※19）が
発売から１年以上もたってるのに、
ずっとコンスタントに売れてることがわかったんです。

そのデータを見て
手塚さんのアタマのなかに何かが閃いたんですね。

ええ。「マリオはけっこう人気があるんやなあ」と思いました。
そこで宮本さんに「『マリオブラザーズ』は
ずっと売れてるんですね」という話をしたら、
「やっぱりマリオがよさそうやね」
ということを話していた記憶があります。

宮本さんは、前回の「社長が訊く」で、
マリオを「ミスター・ビデオ」と名付けて、
自分のつくるビデオゲームに
全部出したいという話をされていましたが、
当時はまだ、押しも押されもせぬ存在になってないから
何でもマリオを軸に考える方向ではなかったんですね。

たぶんマリオを使うイメージはあったと思うんです。
でも、その売上データのことを聞いて
より確信を持ったのではないでしょうか。

なるほど。
で、四角いものがマリオに代わったとき、
一方の、『ゼルダ』はどんな感じではじまったんですか？

『ゼルダ』がどの時期からというのも
あまり覚えてないんですけど（笑）、
『ゼルダ』はダンジョンからつくりはじめました。

いちばん最初は筐体で動かしてたんです。
先ほど、岩田さんが言われた・・・。

ＶＳ.システムですね。

そのＶＳ.システムで動いてたのは覚えてます。

じゃあ、最初から
ディスクシステム^（※20）ではなかったんですね。

はい。で、いま手塚さんが話されたように
まずダンジョンの仕組みからつくりはじめまして、
画面に５つくらいの山があって
そのなかに入ると、ダンジョンがあるという、
それだけのシンプルなものだったんです。

最初はダンジョンだけを遊ぶゲームだったんですね。

そうなんです。
でも開発の途中から
「やっぱり地上もあったほうがいいよね」
ということで、地上をあとからつくりはじめました。

その段階では
『ゼルダ』のほうが制作ペースは早かったんです。
だから、『スーパーマリオ』より先に出るだろうと
思っていました。

へえー・・・『ゼルダ』が先に出るかもしれなかったんですか。
それは知りませんでした。

（笑）