それでは、そろそろ
手塚さんから話を訊くことにします。

はい。

手塚さんが任天堂に入社して、
最初の仕事は何だったんですか？

実は入社の年に、
「少しだけアルバイトに来てほしい」と言われまして。

入社する前にですか？

ええ。

当時の任天堂は忙しかったんでしょうか？

試したかったんじゃないでしょうか？

手塚さんがどういう人か、
早く知りたかったんでしょうね（笑）。

はい。心配だったんでしょう（笑）。
で、そのバイトのときに、
『スーパーパンチアウト!!』^（※13）の企画があって、
ドット画のお手伝いをしました。

まだ学生なのにですか？

そうです。

でも、芸術系は卒業制作とかがあって、
卒業年って忙しいんじゃないですか？

卒業間近だったんです。
だから、休みがたっぷりあったんだと思います。

なるほど。

でも、アルバイトをしたのはほんの少しで、
数週間の単位だったと思いますけど、
それが任天堂の初仕事になりました。

で、宮本さんに最初に会ったとき、
第一印象はどんな人でしたか？

それが・・・。

覚えてないんですか？

ええ、よく覚えてないんです（笑）。

それはまた、手塚さんらしい（笑）。

ふふふ（笑）。

中郷さんは『ドンキーコング』を移植する仕事をしたのに
宮本さんのことを「知らんかった」と言うし、
手塚さんは運命の出会いのはずなのに
最初の宮本さんとの出会いを「まったく覚えてない」と言うし、
そのような出会いから
３人のチームが２５年も続くなんて、
世の中、わからないものですね（笑）。

僕が配属されたのは
クリエイティブ課という部署で・・・。

当時、宮本さんは係長ですか？
それとも係長になる前でしたか？

なる前ですね。
ですから、ふつうの先輩でした。
で、そこの課にいたのは数人だったんですけど・・・。

社内にデザイン系の社員が
すごく少ない時代でしたから、
芸術系の学校を出た人たちがそこに集まって、
会社中から寄せられるデザインのニーズに対して
応える課だったんですよね。

そうです。
だから、取扱説明書をつくったり、
トランプのデザインも手伝ったり・・・。

アーケードゲームの筐体の絵とかも描いて、
デザインなら何でもやる課だったと。

はい。

そもそも手塚さんは
どうして任天堂を受けようと思ったんですか？

とくにゲームファンというわけでもなかったんです。
でも、遊びに関する仕事にすごく興味がありました。
たとえばキャラクターグッズとか、
そういう仕事をやってみたいと思っていたんです。
大学はデザイン学科だったので、
広告代理店とか印刷会社に就職することが多いんですね。
でも僕は、まずクライアントがいて、
その要望に応える形で仕事をすることにはあまり興味がなくて・・・。

自分からモノをつくりたかったんですね。

そうです。そういう気持ちが強かったんです。

どうして任天堂と縁ができたんですか？

当時の友だちが任天堂を受けて、
「面白そうな会社だ」と聞いたんです。

もしその友だちがいなければ、
いまここに座ってないんですか？

座ってないです。
ただ、その友だちは卒業できなかったので、
任天堂に入社していないんです。

人生って不思議ですよね。
その偶然がなければ
宮本さんは最高の相棒を得られなかったんですね。

（笑）

そうして任天堂に入った手塚さんが、
宮本さんと最初にやった仕事は何だったんですか？

バイト時代に『スーパーパンチアウト!!』をやって、
社員として最初の仕事は・・・何だっけかな・・・
そうそう『デビルワールド』^（※14）です。
ドットイート^（※15）のゲームでした。

『パックマン』^（※16）タイプのゲームですね。

はい。でも、当時の僕は
その『パックマン』も知らなくて。

え？ちょっと待ってくださいね。
任天堂に入って、ゲームの仕事をして、
いま制作部の部長をやっている人が、
１９８４年に任天堂に入ったときに
『パックマン』を知らなかったんですか？

知らなかったんです（笑）。

それはすごい（笑）。

（笑）

あの・・・ショッキングですか？

いや、ほんのちょっと驚いただけです（笑）。

で、そのとき初めて『パックマン』を遊んでみたら、
純粋に「面白いゲームやなあ」と思いました。

（笑）

そのとき僕は、ドット絵にする仕事から入りました。
ふつうはラフな発注をされることも多いんですけど・・・。

「何でもいいから描いてね」みたいな感じですか？

ええ。でも、宮本さんのなかには
おおもとの絵のイメージがあったと思うんです。
なので、「こういうカタチで」とか、
「こういう大きさで」とか、
わりと細かくイメージを伝えてくれまして。

当時はハードの制約が大きかったですし、
キッチリとしたイメージを持ってないと
破綻することも少なくなかったですからね。

そうなんです。だから、ある意味、
そういった制約があるなかで
モノをつくる仕事はとても面白いと思いました。

パズルを解くみたいな感じなんですよね。

そうです。
それに、ゲームのアイデアを考えるのも
専任がいるわけではなかったですし・・・。

当時はゲームデザイナーという職業が
まだ分業化する前の話ですから、
絵を描く人か、プログラムを書く人とかが
アイデアを考えてましたよね。

そうです。みんなで力を合わせて、
知恵を持ち寄って、素人なりにつくっていた、
そういう時代でしたね。
だから僕も、アイデアを出すこともありまして。

それはどんなアイデアだったんですか？

たとえば『デビルワールド』のときに
左右にローラーのバーがあって、
それがスクロールするようになっていて。

そこでバーと迷路のような壁に挟まれると
ダウンしてしまうんですよね。

はい。そこで
「穴に落ちてダウンするのはどうですか？」と
僕が提案したんです。
そしたら「それもひとつあるかな？」ということで、
実際につくって、それを試してみたんです。

当時から、実際につくってみて、
それを試すようなつくり方をしていたんですね。
で、やってみてどうだったんですか？

「迫力ないね」と言われました・・・。
それで、挟まれる仕様にまた戻すことにして。

手塚さんのアイデアは採用されなかったんですね。

はい、すごく残念でした（笑）。