今回、坂口さんは
『ラストストーリー』という大きな挑戦をされたことで、
音楽に求めるものも今までとは違うものになったと思うんです。
そのことで植松さんも非常に苦労されたということを
伝え聞いているのですが、そのあたりのお話を教えていただけますか。

そうですねえ。久々に、方向性から苦労しましたね・・・。
坂口さんからお話をいただいたとき、
「僕でよかったらやりましょう」とすぐにお受けしたんです。
最初にメインテーマと、戦闘と、街の曲を先につくってほしいと
頼まれまして、いつもどおりつくって、提出したら・・・。
「ぜんっぜん違う！」っていう、長〜〜〜いメールが返ってきました。

（笑）

「違う」ではなく、「ぜんっぜん違う」ですか（笑）。

１行目からイキナリ、「ぜんっぜん違う」でした（笑）。

そのあと、長い文章がつづくんですよね。

そう。「僕が今回、何がしたいのか」ということからはじまって、
最後は「つくり直してください」と、しめてありました。
「うわっ、こりゃきたな。本気だわ！」って腹をくくりまして（笑）、
僕がこれまで抱いていた『ラストストーリー』のイメージを、
一度全部捨てることにしたんです。

そこまでハッキリ言われたら、
植松さんが一度ふくらませたイメージは一切、使えなくなりますね。

はい。考えた結果、何が違うのかというと、
坂口さんは、新しいことに挑戦したかったんだと思うんですよ。
これまでのＲＰＧの延長線上の作品を
つくる気はないんだな、と。

今までの引き出しではできないことをやる、
ということが、今回のチャレンジのスタートだったんですよね。

そうです。僕はこれまでの『ＦＦ』や『ロストオデッセイ』^（※7）、
『ブルードラゴン』^（※8）などの、延長線上の意識だったんです。
でも、それではダメだったんですね。
もちろん音楽も今までと違うんだろうけど、
そもそも自分の意識そのものを根底から変える必要がありました。

つまり、２５年もの歴史のなかで
培（つちか）われてきたお互いのやり方を
一度リセットしなければならないと、覚悟されたんですね。

そう、まさに覚悟でした。
「こりゃヤバいもんに手をつけちゃったぞ」と・・・（笑）。

「そこまでとは聞いてないよ」って心境だった？（笑）

そう、そんなわけで、もう１カ月いただいて、つくり直したんです。

とくに、戦闘の曲がつらかったんですよね。
今回、僕はバトルシステムを一新して、
リアルタイムを重視していたので、
曲そのものにもリアルタイムの感じを出したかったんです。
ただ、僕自身どうすれば、リアルタイムの感じを
音楽で出せるのかがわからなかったので、
お互いに試行錯誤するしかない状況でした。

通常、ＲＰＧのフィールドにおける戦闘の曲は短いですよね。
敵はすぐに倒れるものだから、長くても３０秒程度のループ、
という意識だったんです。でも、どうやら今回はそうではない・・・。

システム面を一新したことで、音楽に対する要求も
まったく違ったものになったんですね。
だから、かつての定石（じょうせき）を、
いったん御破算（ごはさん）にせざるを得なかったんでしょうね。

ええ。だから戦闘の曲に関しては、長いのを書き直しましたよね。
全部で５分くらいかな・・・。

そうそう。今度はこちらの想定以上の長さで（笑）。
しかも途中でメロディが変化して、
まるで一大交響曲のように、３種類くらいの曲が入っているんです。
とにかく、すごいことになって返ってきたんですよ（笑）。

結果、それを現場で編集してもらって、
バトルの状態によって使いわけてもらいました。
曲づくりとしても、なかなかの挑戦でした。

あの戦闘の曲で、ガッチリ方向性が見えたんですよね。
でもほら、植松さんが曲を送ってくれたときに、
「これでダメだったら降りようと思う」っていうメールが
いっしょにきたじゃない。

え？ そうだっけ！？
まあ、それぐらい真剣だったんですよ（笑）。

覚えてないの！？
もう・・・あとで送りますよ（笑）。

２５年もの間、何度も修羅場を越えてきたふたりの関係で、
今回は、そんなやりとりがあったというのは、
非常にドラマチックですね。

きっと、つくり直した作品に、自信があったんだと思うんですよ。

つまり、裏返せば、
「これがダメならもう方向性が見えない」ってことですよね。
いや・・・実はね、告白するけど、そのメールをまちがって、
返信が添付された状態で開発現場全員に転送しちゃったんですよ。

こらっ！（笑）

そしたら、みんなが騒然となってね。
「坂口さん、大丈夫ですか！植松さんが降りちゃうんですか！？」
って、それはもう大さわぎになっちゃって・・・（笑）。
だから、スタッフみんな、このことを知っていますよ（笑）。

まじで？（笑）
そうか、本当に真剣だったんだなあ・・・。

そんなふうに、やりとりにスイッチが入ることは
おふたりの長い歴史でも、めったにないことですよね。

久々でしたね。
やはり、２０年以上もこの業界にいると、
たとえ不満がありそうでも、何も言われなくなっちゃうんですよ。

それは、当人としては居心地がよくないでしょうね。

ええ。だからこそ、坂口さんの「ぜんっぜん違う」というメールで、
久々に「初心忘るべからず」ということをあらためて感じました。
ここ最近、新しいことに挑戦する感覚を忘れていたのかもしれないです。

それぐらい、植松さんに対して「違う」とＮＧを出されることは
しばらく経験されていなかったんですね。

そうですね。今回は、もう、全否定ですからね（笑）。

最初に送ってきた曲と、つくり直した曲とではぜんぜん違うよね。

方向性が違うからね。

だから、そう書くしかなかったんです・・・。

いえいえ、逆に助かりましたよ。
「ここはいいけど、ここは直して」という指摘のされ方だと、
グダグダになっちゃうから。

方向性が揺らぎますからね。
一気にバチッと、とどめを刺してもらえたので、
次のステップに行けたんですね。

でもさすがに、あの１カ月間、
お互いに悶々（もんもん）としていましたよね。

全否定された植松さんもキツイですが、一生懸命やってくれたことを
完全に否定してしまった坂口さんもキツイでしょうね。

ええ。長い１カ月でした。
もうメールが返ってこないんじゃないか・・・って。

いやいや、そんなことないから（笑）。
あの１カ月で、僕はかなりのアイデアをふりしぼったんですよ。
そういうときは経験上、あまりＮＧになることはないんです。

戦闘の曲の最初の５分に、
これでもかってくらい、要素がつまっていましたからね。

植松さんが１曲に注ぎ込んだ密度の濃さを、感じられたんでしょう。
こんなやりとりができる、おふたりの関係がうらやましいです。

このエピソードだけ取り出すと、なかなかいいコンビですよね（笑）。

そこだけ取り出さなくても、いいコンビですよ（笑）。