6. 触るとエネルギーをもらえる作品に

岩田

では藤坂さんの目から見て、長い開発の過程のなかで、
大きなターニングポイントを感じられたことはありますか?

藤坂

僕は、街ができたときかなと思います。

岩田

それはなぜですか?

藤坂

ちょうどシステムが少しずつ軌道に乗りはじめた頃に
街ができて、「このままやればいけるんじゃないか」という
手ごたえを感じたんです。

岩田

坂口さんは新しい方程式で勝負をしていたから、
開発スタッフは、最初から先の見えない状況でやっていたわけですよね。
それはどのくらい前のことですか?

藤坂

2009年の初めの頃だったでしょうか。
わりと最初の頃だったと思います。

坂口

あそこまで街のモーションが広がるとは、
正直僕も思いませんでした。
それはスタッフの力です。

岩田

みなさんが集団で坂口さんを驚かせにかかった・・・と。

藤坂

はい(笑)。街ができたタイミングで、
坂口さんのいう「見せる」とか「感じさせる」というのが
「こういう方向性なんだな」と、ようやく見えてきたんですよ。

岩田

ああ、みんながつくったものから
方向性を感じられると、強いですよね。
自然と探究心が生まれるので、
坂口さんの言葉がなくても前進するようになります。

坂口

そうですね。

岩田

坂口さんのターニングポイントは、何かありますか?

坂口

うーん・・・。

岩田

事件でもいいです(笑)。

坂口

事件ですか。
事件は・・・いっぱいありましたねえ・・・言えないですけれど(笑)。

岩田

3年ほどやっていて、
全部がスムーズな開発現場なんてないですよ(笑)。
衝突がなければ、それは逆にエネルギーが足りないということですし。

坂口

そうですね。本当にしょっちゅう変更を重ねていましたから。
つい数カ月前も、ターニングポイントがありまして、
「(開発の)こんな終盤で変えるの?」と言われました。
でも変えたほうが面白いと思ったら、変えずにはいられないんです。
ゲームにとっていいことであれば、妥協せずに変えるべきだと思います。

岩田

開発の中心にいるディレクターだからこその決断ですからね。

坂口

だから何度も何度も・・・わがままを言わせてもらいました。
とくにプログラマーの方は大変だったと思います。
でもみんな、タフでした。

岩田

変更を重ねても、みんなの士気が保たれていた理由があるとしたら、
いったい何でしょうか?

坂口

何でしょうね・・・。
思うに、今回はプロトタイプからつくっているので、
途中経過はつねに完成型ではないんです。
いつもどこかに欠点が潜んでいて、それを直すと、
別の欠点が見えてくるんですよ。

岩田

それは先に見えていた欠点を直すまで、わからないんですね。

坂口

はい。
だからひとつひとつ、順番に煮つめていくことをくりかえしました。
だから、「みんながついてきた」というより、
「みんなでもがいていた」という表現のほうが近いですね。

岩田

みんなが、スッキリするまではやらなきゃ、という気持ちだったんですね。

坂口

それがだんだんクセになってきて(笑)。
最近は、多少答えが出ても納得せず、もっとスッキリさせたくなりました。

岩田

何だか、「ゲームをつくっているぞ」という気迫が、すごく伝わってきますね。

坂口

きっとゲームづくりってそういうものなんでしょうねえ。
久々に現場で肌で感じることができました。
本当に、こんなに楽しませてもらっていいのかな、というくらいです。

岩田

任天堂が、一度シナリオにNGを出したこともあったようですね。
そのことについてはどうですか?

坂口

ああ、一度大ボツをくらいました(笑)。
でも、あれはよかったと思います。
あそこが最初のリセットポイントでした。

藤坂

あ・・・僕は困りました・・・(笑)。

岩田

ええ、普通は困りますよ。

藤坂

けっこう、絵を用意していましたので「ワオ!」というか・・・(笑)。
でも、当初考えていた世界観はとても暗かったので、
今のかたちになってよかったと思います。

坂口

ファンタジーというかたちで世界観を単純化したことで、
キャラクターたちはより深くなったと思います。
人間のリアルな感じは、ファンタジーのほうが出しやすいですし。

岩田

だからこそ、シンプルなストーリーのなかで、
キャラクターに深みを出す方向に軌道修正されたんですね。

坂口

その結果、街なかでのなにげない会話からも生活感を感じられて、
街がどんどん生き生きとしていきました。

岩田

そうするとスタッフは、街づくりをやめなくなってしまって・・・(笑)。

坂口

世界をシンプルにしたことで、結果的に世界を複雑にしたのか・・・(笑)。

藤坂

それはありますね(笑)。

坂口

世界に深みが出たんです。だからリセットは・・・恨んでないですよ(笑)。

一同

(笑)

坂口

それにシナリオ修正をしたことは、
結果的にゲームシステムにとってよかったと思います。
仲間と連携して戦うので、ストーリーと連動して
ますます仲間たちのキャラクターが立っていくんです。

岩田

感情移入していないNPC(※16)といっしょに戦うのと、
ひとりひとりのキャラクターに深みを感じたうえでいっしょに戦うのとでは、
まったく違いますからね。

※16

NPC=ノンプレイヤーキャラクター。ゲームに登場するキャラのうち、プレイヤーが操作しない(できない)もの。

坂口

だから今回は、どのキャラもみんな好きです。

岩田

それでは最後にメッセージをお願いします。

藤坂

僕はとにかく、手にとっていただきたいです。
実際に触ってみてくださいね。

坂口

くりかえしになりますが、ゲームの“ノリ”を感じてほしいです。
音楽でも絵でも、映画でも小説でも、
触れたときにエネルギーをもらえる作品ってありますよね。
『ラストストーリー』はそういうものでありたいと思っていますので、
何か同調して感じてもらえたら、これほどうれしいことはないです。

岩田

わたしも、実際に動いているものを見せてもらったうえで、
今日あらためて坂口さんからお話をうかがって、
並々ならぬエネルギーが注ぎこまれているのを感じました。
お話し中も坂口さんがずっと元気で生き生きとされているのを見て、
「ああ、みずから生み出した作品からエネルギーをもらいながら
仕事をされているんだなあ」と、しみじみ感じました。

坂口・藤坂

ありがとうございました。

岩田

今日はありがとうございました。
完成までもう一息ですが、よろしくお願いします。