5. 血と部位切断の表現をめぐって

岩田

今度は、 →Wiiモーションプラス(※12)ですよね。

※12

Wiiモーションプラス=Wiiソフト『Wiiスポーツ リゾート』に合わせて、2009年6月に発売された周辺機器。Wiiリモコンに取り付けることで、より細やかな動きを感知できるようになる。

山上

はい。わたしが岩田さんと打ち合わせをしているとき、
なんとなく岩田さんがWiiモーションプラスに
対応してほしそうな感じがしたんです。

岩田

具体的にソフトの名前は挙げていなかったですが、
このソフトのことを頭に置いて
話したんですよ、きっと(笑)。

山上

僕が感じたのは、なんとなく、だったんですけど(笑)。
でも僕は「もうこれ以上サンドロットさんには何も言えない」と思って、
「どうしよう、どうしよう」と悩んでいたら、
吉川さんがサンドロットさんに電話をかけて
こっそり相談しちゃったんです。

吉川

まず電話をかけて相談することにしたんです。
すると、本間さんから
「そもそもこのソフトはモーションセンサーを使っていないのに、
何を言ってるんですか?」と、けんもほろろに断られたんです。

野口

そのとき僕は、Wiiモーションプラスがどういうものか、
わかっていなかったんです。
社内では「まあ、ジャイロでも積んでいるのなら話は別だけど・・・」と
話していたくらいで。

岩田

ジャイロ、積んでるんですけど(笑)。

五十嵐

そうなんです、積んでいたんですよね(笑)。
だからビックリしました。

本間

ビックリしました、本当に。

五十嵐

「サンプルを持っていきますから」と言われて、
実物を見たら、本当に入っていまして。

本間

「だったら、できるか」ということになりまして。

五十嵐

「これはすばらしいものだぞ」とか言い出して。

岩田

あははは(笑)。

吉川

サプライズも兼ねて、実物を持っていったんです。
すると、最初のけんもほろろの電話とはうってかわって、
「これはすごい。ぜひやろう」という話になったんですね。

本間

別にいらないものを、無理やり対応させるのは、
まったく意味がないと思ったんですけど、
Wiiモーションプラスに対応させれば、
間違いなく面白いものになりますので
「これはぜひやるべきだ」と思いました。

吉川

そこで実際に対応していただいて、
とても気持ちよくWiiリモコンが振れるようになりました。
Wiiリモコン単体ですと、DSのタッチペンのように
画面のなかをこするような感じで振る操作になりますけど、
Wiiモーションプラスをつけると、
画面から外れることを気にせずに
思い切って振れるようになるんですね。
だから、お客さんが思い描いている
「ズバッと斬りたい」というイメージに
より近い操作ができるようになったと思います。

本間

それに、Wiiリモコンではなく
クラシックコントローラでプレイしたい人も
やっぱりいらっしゃると思うんです。
だから、「自分の好みに合わせて、好きなので遊んでください」と
言えるようなったのは、とてもよかったと思いますね。

山上

そうなんです。
結果的には3タイプのコントローラの、どれを選んでも、
それぞれの楽しみ方ができるようになりましたから。

吉川

クラシックコントローラに向いてる武器も
結果的にできたんです。
だから、最初はWiiリモコンで遊んで、
次にクラシックコントローラでもう1回プレイすると、
ぜんぜん違うゲームとして遊べると思います。

岩田

ひとつぶで二度おいしい?(笑)

吉川

そうですそうです(笑)。
ですから、いままでのゲームのようにも遊べますし、
Wiiリモコンでも気持ちよく遊べるしということで、
ぜんぜん違う戦略や戦法を練って
ゲームを進めることができるように
結果的になったんですね。
でも、コントローラの違いによって遊びが変わるというのは、
サンドロットさんのなかでは当然意識されてたんですよね?

野口

「たぶんこの武器は、
このコントローラだったら強いよな」
とか思いながらつくっていましたね。
槍は、リモコンで操作するよりも、
クラシックコントローラが向いていたりしますし。

吉川

剣はWiiリモコンのほうが向いていたりとか、
どちらが向いてる向いていないというのは
だんだん決まってきて、
それがまた違う面白さにつながったのかなと思います。

山上

そんな感じでWi-Fiに対応したり、
クラシックコントローラに対応したり、
はたまたWiiモーションプラスに対応したりといったことが全部、
2009年の春以降の出来事だと考えると、
開発最後の1年間は本当に濃かったですね。
ふつうは締めなきゃいけない時期に、
任天堂側からもどんどん思い切った提案をしたわけですから。

岩田

ただ、そのあと、特に終盤の半年の間に
別の意味での濃い話がありましたよね。

山上

・・・はい。

吉川

僕自身「本当に発売できるのかな・・・」という心配が
常につきまとっていました。

山上

はたして発売させてもらえるのかと。

吉川

戦う相手がモンスターとはいえ、
血が出たり、部位切断などの表現がありますので・・・。

岩田

だから、CEROの審査で「D」判定のソフトを
任天堂は売ってくれるのかと。

吉川

ええ。すごく不安でした。

山上

やっぱり最後は、営業部署との調整がひじょうに大変でした。

本間

そんなとき、
「じゃあ、血の表現はおさえて、無難にまとめましょう」
というのが、いちばん簡単な解決方法だと思うんです。
そこで、一時期は毎日のように
吉川さんと血の色や部位切断について話してましたよね。

吉川

すごく激論をしましたね。
たとえば斬った断面についても、
「剣でスコーンと斬っても、まっさらな感じの、
そんな切断面にしたらいいんじゃない?」と。
でも、そうしたらぜんぜん違うゲームになってしまうんです。

山上

長い時間をかけてつくったものが
違うゲームになってしまうのはしのびないですし。

吉川

そうなんです。
ゲーム性を失ってまで、中途半端に変えるべきことなのかとか、
自問自答が数ヵ月間、続きました。

岩田

吉川さん自身が自問自答したんですか?

吉川

はい。ふとんのなかに入ってから、
毎晩のように自問自答していました。
そもそもどういうものがよくて、
どういうものが悪いんだろうと、ずっと考えていたんです。
 
そこで出てきた結論は
人に対して暴力をすすめるような表現はしないこと。
それは絶対に守らなければいけないルールだと考えたんです。
今作の物語は北欧神話をベースにしていますが、
なぜ北欧に邪悪な敵と戦う神話が生まれたかと言うと、
むかしから外敵の脅威にさらされていたことに
関係があると思うんです。
悪魔の化身みたいなものがいつ攻めてくるかわからないので、
自分たちの生活は自分たちの力で守らなきゃいけない、
その教えを、神話として聞かされてきたんだと。
つまり北欧神話は、自分たちを守るための戦いを描いているわけです。
 
ですから、このゲームでも
暴力性をすすめる表現にしなければ成立すると思いましたし、
村人を救うために剣をとるというシチュエーションは、
このゲームをプレイするうえでも、すごく重要な部分です。
そこで、ゲーム性を損なわない方向で考えるようになりました。