岩田
さて、サンドロットさんはそうやって
日々、シナリオの物量や増え続ける武器と戦いながら、
今度は任天堂からの聞いたこともないリクエストとも、
戦わなければならなくなりましたよね?
その話は山上さんから訊くことにしましょうか。
山上
はい。やっぱり3年にもわたってつくっていますと、
時代の変化と、お客さんの変化もあって、
「どうも時代はこっちだぞ」みたいな部分が見えてくるわけです。
で、そうこうしているうちに
「やっぱりWi-Fiを使って離れた人とプレイしたい」
という声が聞こえてくるようになったんです。
そこで、わずか1年前の2009年に入ってからなんですけど、
まず、吉川さんに「Wi-Fi協力プレイをやりたい」と言ったら、
ムキになって「そんなん無理っすよ!」と言うんです。
「いや、無理かどうかは任天堂が決めるんじゃなくて、
まずは本間さんに相談してみないか?」と言ったら、
「・・・激怒されるんじゃないでしょうか?」と。
「いや、あの人たちは、いいと思ったことは
どんなに大変でも必ず実現しようとしてくれるはずだから、
とりあえず相談してみよう」
ということで、実際に提案してみたら、
「何を言ってるんですかっ!」とズバッと言われて
最初は全否定されたんです・・・。
岩田
それはそうでしょう(笑)。
開発がはじまって2年以上たっていて、
いきなりそんなことを言われても困りますよね。
本間
はい(笑)。
吉川
でも、あのときのやりとりは
いまでもハッキリ覚えているくらい面白かったんです(笑)。
山上さんが必死になって
なぜWi-Fi協力プレイをやりたいのかを説明したんですけど、
何を言っても、最初は「いや、だから無理ですって」ばかりで、
何言ってるの、この人みたいな反応だったんです。
山上
そんなやりとりがずっと続いていたんですが、
にっちもさっちもいかなくなったので、
「とにかくWi-Fiができればいいんです。
とにかく雰囲気だけでも協力プレイができませんか? 」と
ちょっと条件をゆるくしたんですね。
吉川
そこで、確か僕が
「お互いの姿は見えなくてもいいですから」と言ったんです。
「お互いの姿は見えないんですけど、
なんとなく相手がピンチみたいなことがわかる、
というようなものでもいいですから」という話をしたんです。
山上
すると、まず本間さんが
任天堂側に寝返ったんです(笑)。
岩田
寝返ったんですか、本間さん(笑)。
本間
・・・はい(笑)。
山上
「それくらいだったらできるかも」と。
すると、それまではずっと後ろ向きだった本間さんが、
一転して前向きになりまして
「協力プレイが実現することによって
どんなにお客さんによろこんでもらえるか」と
とくとくと話をはじめたんです。
本間
(笑)
山上
それで、本間さんと僕との間で、
話がはずむようになったんですね。
すると、今度は五十嵐さんが
「そういう考え方もありだね」と言い出しまして。
五十嵐
(笑)
吉川
で、最後の野口さんのセリフがいまでも忘れられないです。
「うわあ、やることになっちまった」と(笑)。
一同
(笑)
本間
そこで、サンドロットのなかで
Wi-Fi協力プレイについて検討することになったのですが、
吉川さんから提案された、
お互いの姿が見えないかたちでの協力プレイはどうなのか、
という話になったとき、
野口さんともうひとりのプログラマーさんが、
「それはごまかしでしょう」と口をそろえて言ったんです。
「Wi-Fiをやるんだったら、
正々堂々とちゃんとしたものをつくりましょう」と。
野口
実際に、相手が見えない状態で遊んで
それで本当に面白いのかと、疑問を感じたんです。
岩田
中途半端に感じたんですね。
野口
たとえば仲間が敵にやられそうになったとき、
「友だちがピンチです」というメッセージしか出ないとします。
でも、それだけだと、いっしょにプレイしている感覚は
たぶん得られないだろうと思ったんですね。
すると、パッケージに「Wi-Fi対応」というマークが
ただ単につくだけのものになっちゃうんじゃないかということで、
さすがにそれはイヤだと思ったんです。
岩田
プログラマーとしてのプライドが許さないと思ったんですね。
野口
はい。そこで、
まずはキャラクター同士の同期(※10)はとらないけど、
相手のプレイヤーは見えるかたちにして、
それができるようになると、じゃあ次はという感じで
次々に同期をとらせるようにしていったんです。
※10
同期をとる=すべてのプレイヤーから見て、画面内のモノの位置や状態を同じにすること。
本間
そうやって、段階的に同期をとるようにして、
最終的にはほとんどのものと同期がとれるようになったんです。
敵もたくさん出てくるんですけど
それらも全部同期をとってるんですね。
岩田
最初は「仲間が見えなくてもいい」と
言われたのにもかかわらず(笑)。
野口
だから、かなり無茶をしました(笑)。
本間
それが実現できたことによって、
Wi-Fiの協力プレイでも
1人プレイのときと同じように
プレイヤー独自の戦略がとれるようになりました。
どのプレイヤーから見ても、敵が同じ位置にいますので、
たとえば、魔法使いが広範囲を攻撃する魔法を使って
相手に大ダメージを与え、
剣を持ってる人が斬りに行くといった
戦略がとれるようになったんです。
岩田
でも、Wi-Fi協力プレイのような仕様は
いちばん最初の設計でやっておかないと、
ふつうは入らないですよ。
本間
そうなんです。
あれを途中で入れられたというのは、
すさまじいウルトラCだったと思います。
山上
そうやって、わたしたちの期待以上のことを
サンドロットさんが実現してくださったんですけど、
それから間髪入れずに、新しい話が営業部署から持ち込まれたんです。
「クラシックコントローラPRO(※11)というのが出るんだけど」と。
岩田
はい。
※11
クラシックコントローラPRO=2009年8月に発売。Wiiの対応ソフトやバーチャルコンソールソフトをプレイするときに使用できる拡張コントローラ。
山上
「これに対応できないか」と
相談をされたんですけど、もともとこのソフトは
Wiiリモコンを活かすことで生まれた企画でしたので、
「そもそもコンセプトが違います」と言ったんです。
ところが、「これに対応させない理由もないでしょう」と
営業は食い下がってきたんですね。
で、「もしかしたらWi-Fi協力プレイよりも
こっちのハードルのほうが高いな」と思ったんですけど、
そのまま断ってしまうよりは、
まずは本間さんに相談しなきゃと(笑)。
本間
山上さん、そのとき
すごく言いにくそうに電話をかけてきましたよね。
山上
それはそうですよ。
だって、Wi-Fi協力プレイを無理にお願いして、
その熱も冷めないうちに、また新たにお願いするわけですから。
本間
「詳しい話は会ってお話ししましょう」と言われて
その電話は切れたんですけど、
僕としてはWi-Fi並みにすごい難題が与えられると思って、
ドキドキしながら待ってたんです
岩田
で、会って話を聞いたとき、
本間さんはどう思ったのですか?
本間
Wi-Fi協力プレイに比べたら、それはもう(笑)。
岩田
クラシックコントローラに対応させるなんて
かわいいものだと?(笑)
本間
かわいいものですよ。
Wi-Fiのほうが“海”だとすれば、
“池”とか“田んぼ”レベルです。ぜんぜん比較にならないです。
山上
でも、僕らの感覚で言うと、
そもそもWiiリモコンで斬るというコンセプトではじめた企画を
クラシックコントローラでプレイするということには、
やっぱり抵抗があって・・・。
吉川
山上さんは行く前から、
「どうしよう、どうしよう」とずっと言っていましたからね(笑)。
「何年か前に自分は、サンドロットさんに
『Wiiリモコンを最大限に活かした、
究極の1人用のゲームをつくってください』とお願いしていて、
いまさら自分で自分を否定するようなことを言えるのか・・・」みたいに。
岩田
珍しく弱気になったんですね、山上さん(笑)。
そんなこと、あんまりわたしの記憶にないですよ。
一同
(笑)
山上
ですから、Wi-Fiの話を持っていったときと比べると、
すごくしんどい思いをしながら、
サンドロットさんの最寄りの駅に降り立ったのですが、
あっさりとOKが出たものですから、
帰りはすごく軽快な気分で帰ることができました(笑)。
ところが、間髪入れずにまたまた新しい話が・・・。
岩田
はい。